第6話 「アルティメット」
防御側もカーゴにとりついている間はカーゴをバックさせられるらしい。
回復役らしき選手が一人だけカーゴに残っている。
つまり、最前線は四人だ。
KO大学が視界に入ると、一斉攻撃が始まった。
「出ました、アルティメットですぞ!」
突如、KO大学の一人のタレントが青く発光した。
大きな体で重そうなアーマーをつけた、重騎士とでも言うような見た目の男だ。
「あの鎧のキャラ、何か光りましたね!?」
「あれはエンハンスメントというアルティメットでござる! 自身の体力を一気に完全回復、さらに範囲内にいる味方の攻撃力、防御力も大幅に上がりますぞ! さらに別のタレントのアルティメットも使われましたぞ!」
次に光ったのは、薄汚れた黒いフード付きマントを身にまとう、不気味な雰囲気の男だ。
その顔はフードの影でよく見えない。
そして両手に銀色に光るナイフをたずさえている。
黒フードのタレントは両手を上げ、何事か叫んだかと思うとまるでダンスを踊るかのように華麗な動きを始めた。
くるくると横に、縦に回転し、両手のナイフで斬りつけていく。
電教も対抗しようとするが、あまりの素早さに上手く捉えることができないようだ。
黒フード男とすれ違ったと思うと、電教の選手は倒れていく。
一人、また一人と倒され、あっという間にカーゴの一人だけを残してキルされてしまう。
俺は思わず、感心し、感嘆の声を上げた。
まったく同じタイミングで、会場も沸いた。
立ち上がる人もいた。
手を叩く者もいた。
俺はその瞬間、ここにいる見ず知らずの人たちと一体になった気がした。
同じ出来事をみて、悲喜こもごもではるが、同時に感情を揺さぶられたのだ。
俺の両腕には鳥肌が立った。恐れや怯えによるものではない。
これは、快感だ。
だが先輩は頭を抱えていた。
「これは痛い! 痛いですぞ!」
「そんなに有利になるのですか?」
「いえ、まだ挽回の余地はあります。ですが、まさか一度も耐えられないとは。いやはや、アルティメットとは恐ろしいものです」
「しかし、KO大学もアルティメットを二つ消費したようですね。これで結構、ウチも有利になったのでは?」
「あれは上手い組み合わせでした。二つ使っても全滅させられたのならば上出来ですよ」
「そういえば、もう一つのアルティメットはなんです?」
「それがあのフードのタレント、アーテンテーターという名なのですが、それ自身のアルティメットです。メッサータンズというのですがね、ダンスのような独特の動きをしつつ、ナイフで斬りつけるという技ですな。これ自体にも攻撃力アップの効果があるのですが、さらに味方のアルティメットで攻撃力が上がっておりましたから、一撃で倒されてしまう、というわけですな」
「確かに、踊っているかのように華麗でしたね」
「とはいえ、あそこまでよどみなく動かすのは難しいんでござる。それに関してはアビリティというより選手のスキルでござるぞ」
ゲームと言えど、その辺りは現実と変わらぬようだ。
ゲームでは誰が使おうと、キャラクターの性能は同じ。
しかし、日頃の鍛錬により身につけたスキルというものは存在するのだ。
そのスキルにより我らのチームは見事、やられてしまったわけだ。
それからゲームの主導権は完全にKO大学チームに握られてしまった。
カーゴは止まることなく、どんどん進んでいく。
「うーむ、KO大学チーム、隙がないですね」
「ええ。相手も試合巧者。こうなってはなかなか逆転は難しいでござる」
「強いチームなんですか?」
「相手はKO大学esports Club。昨年の六大学eスポーツリーグの優勝校でござるぞ」
KO大学は当然知っている。超有名校だ。
そんな大学が参加するeスポーツのリーグ戦があったとは、まったく知らなかった。
「ウチは何位だったんです?」
「我ら国際電気教育大学eスポーツ部は、なんと昨年下部リーグで優勝し、今年から入れ替わりでトップリーグへ出場することが決まっているのです。今回はそれを記念してのエキシビション・マッチ、というわけですな」
どうやらウチも捨てたもんじゃないらしい。
俺はだんだん、このゲームに魅せられていることに気がついていた。
平和なこの国で、スポーツ以外でも俺の能力を活かすことができるかもしれない。
「ご覧ください。勝者が決まりますよ」
あれからも何度か両チームの衝突はあった。
が、すべてKO大学により跳ね返されてしまっている。
見れば、カーゴはすでにゴール地点の目の前にいるらしい。
ゴールとなる地点はカーゴと同じサイズの四角いラインが引かれ、それが黄色く光っている。
そこに止めろ、ということだろう。
ゴールのすぐ裏に防御側のリスポーン地点がある。
キルされた電教の選手はリスポーンするとすぐにカーゴへ向かう。
次々とカーゴへ食らい付くが、人数有利のKO大学に取り囲まれ、すぐにキルされる。
そしてリスポーンしてまた向かう。一人でもカーゴにつけば、動きを止められる。だからそのようにしているのだろうが、これでは焼け石に水、といった様相だ。
そしてついに、その時は訪れた。
ゴールへカーゴがたどり着き、KO大学チームの画面には「VICTORY」という文字が大きく表示される。
勝利の瞬間、KO大学チームの選手たちは全員立ち上がり、包容し、拳を合わせ、互いの健闘を称えあった。
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