第5話 「戦いの法則」

 そして、まさにそのような状況が起こった。

 カーゴを押している選手のところに、防御側の一人が襲いかかったのだ。


「始まりましたぞ。このように奇襲をかけるタレントをラーカーと言います。おっと、専門用語ばかりでは混乱してしまいまいますな。まずは何が起こるか、ご覧あれ」


 襲われたのは将というより回復役で、あまり戦闘は強くないらしい。

 対し、ラーカーというのは攻撃的なタレントで、あっという間に回復役の体力を削っていく。

 勝負は一瞬で決してしまった。回復役が倒れたのだ。


「さて、これで均衡が崩れましたぞ。防御側は押すタイミングです」


 その通り、チャンスとみたのか防御側はラインを超えて攻め上がった。

 背後からは先程のラーカーも襲いかかる。

 挟撃の格好だ。


 この戦いの結果は見るまでもない。

 数的な優位を作ったほうが勝つに決まっているのだ。


 俺は歴史の他、古今東西あらゆる戦術書を読み漁ってきた。

 この世界では、ランチェスターの法則を呼ばれるものだ。


 装備、実力が同じであると仮定する。

 その状況で二十人の部隊と十人の部隊が戦った場合、二十人の部隊が十人の兵を残して勝利する。

 当たり前、と思うかもしれないが、これが基本だ。


 果たして、今回は防御側は一人の犠牲だけで攻撃側の全員を倒すことに成功した。

 ここまでの差がつくとは思わなかったが、ランチェスターの法則は装備などの強さも関係してくる。ゲームであれば、プレイヤーの腕前も関係するのだろう。


「やはり、防御側が勝ちましたね」

「ですな。しかし、これはまだまだ序盤。どうなるかわかりませんぞ」

「全滅してしまいましたが、倒されたプレイヤーはどうなるのです?」

「時間を置いてリスポーン、つまり復帰いたします」

「なるほど。ゲームならではですね。死んだらおしまい、では面白くないですしね」

「現時点でどちらが勝っているか、おわかりになりますか?」

「ふむ?」


 素人の俺にはプレイを見てもまったくわからない。

 画面を見ると、中央上部にカーゴの進行度を示す表示があった。それによればカーゴは半分ほど進んだようだ。

 この時点では先程勝利した防御側が有利に思える。


「やはり防御側がリードしているのでは?」

「確かに、今の勝利は大きかったですな。ただ、画面上部をご覧ください。左右に五人の選手の状況が表示されておりますな?」


 中央上部には進行度に加え、タイマーなどがある。それを中心に、左右に五人の選手の名前、使用しているタレントのアイコン、現在の体力が表示されている。


「ありますね」

「ここで重要なのは、パーセントで表示されている数字であります。これは、アルティメット・アビリティという、タレントが使えるもっとも強力なアビリティが使用可能になるまでのパワーの貯まり具合を示しております。ダメージを与えたり、仲間を回復させたりするとパワーが貯まっていくのですが、これが100パーセントになりますと、数字からアルティメットのアイコンに変わります。実は、先程の戦いのとき、防御側はすべてのアルティメットを使い切ってしまったのです。対し、防御側はまだ三人が残しています。アルティメットは上手く使えば一つで敵を殲滅することも可能な強力なものなのです」

「ということは、攻撃側が有利と?」

「拙者はそう見ます。が、アルティメットが上手く決まれば、という条件付きですが」

「ときに、そちら様はどちらのチームを応援されているのですか?」

「拙者は当大学の学生ゆえ、もちろん電教eスポーツ部を応援しておりますぞ。防御側のほうですな」

「おっと、そうでしたか。実は俺もここの生徒なんです」

「なんと! そうでしたか! いやいや、知らぬとはいえ、失礼いたしました」


 いやはや、口調からしておっさんだと思いこんでいたが、まさか大学生とはな。

 しかし、おそらく先輩だろう。引き続き、敬語を使っておいたほうがいいだろうな。


「攻撃側に三つあるというアルティメットはどのようなものでしょう?」

「それに関しては、まずは説明よりご覧頂いたほうが早いでしょう。使用されたら適宜、ご説明いたすとしましょう」


 なるほど、こちらが初心者と見て、難しいところは後回しにしたわけか。

 この先輩、本当にこのゲームが好きで、広めようとしているのだろう。


「それにしても、大学にこのような設備があるとは、すごいですね」

「まだまだ珍しいですが、最近では増えてきているようですぞ。といっても、ここまでの施設がある大学は他にはそうありますまい。いやはや、この大学に入った甲斐があったというものござる」

「ゲームがお好きなんですね?」

「拙者はゲーム好きでもeスポーツ専門ですな。お、そろそろ面白いことが起きそうですぞ」

「面白いこと?」


 リスポーンを終えた攻撃側、すなわちKO大学は体勢を整え、再びカーゴへと向かっていた。

 防御側、すなわち我が電教は、先程とは逆の立場となり、曲がり角で迎え撃つようだ。

 そしてまもなく、両チームが接敵する。


 気づけば俺は身を乗り出し、画面に集中していた。

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