第4話 「シューター、MOBA」
ステージのように、一段高くなった場所に計十台のPCが半円状に並んでいる。
対面に座する俺たち観客からは、選手の顔はディスプレイのすき間から見える程度だ。
選手の背後にある、ミニシアターくらいの大きさのスクリーンに、全体の状況が映し出されている。スクリーンを見やすくするためか、会場全体は薄暗い。スクリーンからの光でなんとか足元は見える。
客席の埋まり具合は半分程度か。確か最大で六十席ということだったから、三十人程度の客入りということになる。
俺は意味も分からぬまま、空いている席に座り、しばし大スクリーンを眺めていた。
確か、〈
俺も多少はビデオゲームというものをやったことはある。
しかし、あまり面白さを見いだせなかったため、本当に触ったという程度だ。
このゲームも初めて見るものだった。
「……うーん、これは何を争っているんだ?」
「おや、SSは初心者ですかな?」
わざと隣の男に聞こえよがしに独り言を言ってみたのだが、見事に乗ってきてくれた。
眼鏡にチェックシャツというこの男、さっきからしきりにメモなど書きつつ見ているので、詳しいのだろうと踏んだのだ。
「あ、失礼。うるさかったですか?」
「いえいえ。拙者は気にしませんとも。
「おお、それは助かります」
それから男はなぜか声が高くなり、早口に語りだした。
水を得た魚とはこういう状態を言うのだろう。
説明によると、SSは五対五で戦うチーム制の対戦ゲームだそうだ。
プレイヤー一人ひとりがタレントと呼ばれるキャラクターを操作する。
目的はステージによっていくつかあるそうだ。
「このようなタイプのゲームをシューター、あるいは
「シューターは銃で撃ち合うゲームってことですよね? MOBAというのは?」
「一口にご説明するのは難しいのでござるが、SSに関して言えば、各タレントが独自のアビリティと呼ばれる能力を駆使して戦うのがそれにあたります。そしてルールがござりまして、単にキルの数を競うゲームではない、というのが面白いところでして」
ゲームを見ていると、普通に銃を撃つ者もいるが、中には回復専門の者やバリアを張って味方を守っている者もいるように見える。
他にも突如として高速で動く者や半透明になって身を隠す者など、現実ではありえない、特殊な能力を使っているらしい。
「なるほど。確かに銃で撃つばかりではないようですね。ちなみに、今やっているのはどういうルールなんです?」
「これはカーゴと言われるステージですな」
説明によると、カーゴと呼ばれる貨物車を警護し、目的地まで運ぶというルールだそうだ。
防御側はそれを阻止すれば勝利となる。
それだけ聞くと非常にシンプルなルールだ。
だが囲碁将棋もルールはそこまで複雑ではない。にも関わらず、あの小さな盤面にとてつもない深淵が隠されているのだ。
このゲームもそうなのだろうか。
「ルートは決められたところ以外は行ってはいけないんですか?」
「カーゴのルートは決まっております。プレイヤーは好きに動いてかまいません。攻撃側がカーゴの側にいるときのみ、カーゴはゆっくりと進みます。側にいる人数が三人の時、速度は最高になります。ま、それでも人間の歩く速度程度なのですが」
「側にいなければ止まってしまう?」
「ええ。あるいは、防御側が一定範囲内に一人でもいると止まってしまいますな」
「うーむ……」
「いかがされました?」
「いえ、ならばなぜ、常にカーゴに三人ついていないのでしょう? そのほうが早いのでしょう? 今は一人しかいないようですが」
「ああ、それは――」
「いえ、お待ちを」
そうしないのには理由があるはず。
答えを聞くのは簡単だが、それでは面白くない。
俺はもう一度よく観察してみた。
一人だけカーゴについているのは回復役のようだ。
それ以外の四人はもっと前に出て、敵と戦っている。
なるほど、わかった気がする。
「防御側が一人でもついていると止まってしまうんですよね? ということは、カーゴを中心に戦うよりも、もっと前線を前に上げて、そこで敵を抑えておけばそこまではカーゴが進んでいく、そういうことでしょうか?
「ご明察! 自力でその答えにたどり着くとは、恐れ入りました。あのように曲がり角などをラインとして敵を抑えるのが定石ですな。ただ裏から回っていくる敵には気をつけねばなりません」
男は早口ながらも簡潔で上手い説明だ。
確かに暗殺には気をつけねばならない。敵将の首を取ってしまえば、兵は烏合の衆となる。一番警戒しなければならないことだ。
俺でも、隙あらば狙うところだが、ゲームではどうなるのか、俺は興味深く見守った。
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