第14話 お試し期間 1日目(夜)

「いただきます!」

坊ちゃんは元気よく挨拶し、ママさんのお手製パスタを食べ始めた。

「坊ちゃん、フォークも上手ですね。ではママさん、私もいただきます。」

「どうぞどうぞ。」

坊ちゃんは犬食いが少し気になるが、一人でフォークを握り、夢中でパスタを食べている。

「坊ちゃん、カミカミ、ごっくん。ですよ。」

ちょっと食べ物にがっつき過ぎな気もするが、この子の育った環境を鑑みればそれも仕方がない。彼は何も悪くないんだし、手掴みで食べないだけ良しとするか…とミケは思うことにした。

「ママさん、このパスタすごく美味しいです。」

「そう?嬉しいわ。」

「やっぱりママの料理はどれを食べても最高だね!」

たまにパパさんが口を挟む。口数の少ないパパさんだが、今日一緒に過ごして得られた情報は、子供の相手は得意ではない、細かい、ママさんには逆らえないのかベタ惚れのどちらか…ミケはバレない様にため息をついた。


「ちなみに、坊ちゃんは何かアレルギー等ありますか?」

ミケは坊ちゃんが慌てて食べるあまり誤嚥しないか確認しつつ、ママさんに尋ねた。

「そうそう、保護された後、病院で一通り検査して貰ったらしいんだけど、この子もの凄く健康体みたいよ。アレルギーも特に無いみたい。あ、その話で思い出したけれど、今って"ちょっと心配な家庭"ってすぐに役所や児童相談所が介入するじゃない?だから、あの事件の割と前から表向きは"保護者の負担を軽減するために"…って説得して、この子を保育園に入園させてたそうよ。園の保育士さん達曰く、"感染症がクラスで流行っても、最後までうつらなくて毎回驚いた"そうよ。」

「…そうだったんですか。」

「でも、やっぱり送迎とかが面倒だったのか、途中から保育園を休みがちになっちゃったらしいの。そうは言っても、親が迎えに来たら怯えたり、身体にアザがある訳でもないし、どこまで口出しすべきか…って保育士さん達も悩んでいた矢先、例の事件が…だったそうよ。」

「…」

ミケは返す言葉が浮かばなかった。

「まあ、そうやって色々な人達の中で育ってきたおかげで、私達にも割と抵抗なく馴染んでくれたのかもしれないし、今となっては全ての偶然に感謝するしかないわよね。とりあえず、坊は元気なんだし。」


「ママさん、坊ちゃんが…」

ミケは小さな声で言った。晩御飯をペロリと平らげた坊ちゃんはウトウトしている。

「あらあら、そりゃ今日は疲れたわね。」

「僕、お風呂沸かしてこようか?」

今日、パパさんが気の利くことを言ったのはこれが初めてではないだろうか。

「お願いします。湯舟には入れなくても、暖めた浴室で身体だけでも拭いてあげましょう。」

「じゃあ、着替え用意するからミケさんも手伝ってくれる?パパ、浴室の暖房も点けといて。」

「勿論ですよ。というか、お手伝い猫の仕事ですので!」

「ミケさんは頼もしいわね。」

夫婦二人掛かりで坊ちゃんを起こさないよう椅子から降ろしつつ、締めのデザートワインも暫くお預けね…と思うも、それがちっとも残念ではないパパさんとママさんだった。





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