第17話「救世国にて①―教皇サイド―」

「バレてはいないな?」

「えぇ、それと・・・我らが大聖女様をあのお方はお救いに為さるようです」


とある国での大騒動が起こり、それを聞きつけたとある教団が犯行に及んだ。


「そうか、あのお方の力であれば我らの大聖女様はまた活動が出来る・・・!」

「我々の悲願が・・・・!」


そう、彼らは救世国の暗殺教団で来訪者と聖女を信仰する狂人集団である。


「ブライト様、教皇猊下から命令です。今回の来訪者様は過激な事が大のお嫌いだそうで。暫くは指示が出るまでは教団の暗殺者稼業を停止するとの事です」

「そうですか・・・判りました。教皇猊下には【承知した】と伝えなさい」


彼等の中には来訪者を事前に確認しに動いていた者が殆どである。


「教皇猊下の【予見】は大当たりですからね」

「あぁ・・・して、来訪者様は御一人で来るのか?」


部下の一人は首を横に振る。


「どうやら同伴者が居るらしく――――」

「同伴者?」


とある場所にて――――


「・・・早く、目を覚ましておくれ。我が娘よ」

「猊下・・・そろそろお休みになられた方が」


教皇猊下、トリニティア・フォリム。

救世国唯一の女性の王族で神の唯一の使いとして各国の王族より上の立場に腰を据えて居る。


「・・・いや、私は娘が目覚めるまで傍を離れる事は出来ん」

「・・・判りました。せめて御子女様の御傍で簡易のベッド置かせて下さい」


神父服の男はそう言ってその場を離れる。


「教皇猊下はまだ?」

「枢機卿・・・えぇ、あの御方はご自身がやっとの思いでお腹を痛めてまで産んで育てて来た唯一の御家族ですから。傍を離れたくはないのでしょう」


神父の所に来ていた枢機卿と呼ばれるご年配の男性は溜息を吐く。


「確か・・・道中で賊に襲われてあぁなったんだな?」

「えぇ。この国の"教団"が捕まえて情報を引き出そうとしている最中ですが・・・恐らく無意味かと」


数分後――――


「私は暫く娘の側で寝る。私が起きて呼ぶまで誰も入らせるな。枢機卿」

「畏まりました。せめて扉前に聖騎士を置かせて頂きます」


枢機卿は聖騎士にそれぞれ配置に就かせて待機させる。


「良いな?猊下の指示が出るまで誰もここを通すなよ?」

「「はっ!」」


室内にて―――――防犯の為の格子付きの窓を開けて空気を入れながら未だに眠っている聖女の側で教皇猊下は手を握り締める。


「私が・・・・無理にでも休ませていれば・・・・っ」


事の発端は数ヶ月前に遡る。


「猊下!猊下ァッ!!!」

「なんだ!騒がしい!」

「相手にしている暇はない!下がりなさい!」


仕事中のトリニティアはそう言い、枢機卿のドミニクは手で追い払うように仕草をする。

だが、聖騎士の一人は息を整えてから再度、二人に報告を続ける。


「猊下、緊急事態です。大聖女様が・・・!」

「――――娘がどうした?」


次の聖騎士の言葉で二人は――――言葉を失い、呆然とした表情になる。


「――――大聖女シャイン様が谷の中枢にて・・・突如現れた賊に襲われ、瀕死の重体ですッ!!!!」

「なっ―――――」

「どっ、どういう事だ・・・っ!!!」


二人は駆けつけるも――――室内で宮廷医が横たわっている女性に診察している最中だった。


「お二人方!丁度良い所に!」

「ラガース、娘はどうだ?」


トリニティアはそう聞くと、宮廷医のラガースは溜息を吐く。


「どうもこうも・・・呪いに掛っていますな」

「なっ・・・まさか、強力な呪いか?!」


ラガースは溜息を吐く。


「紫龍の涙と言う結晶の使用痕跡が見られましてな。賊がその結晶の粉末か液体で付けた武器の刃先で聖女様を襲ったとみられるんですな。コレは」

「なん・・・だと?!」


危険な毒とされる紫龍の涙は周囲が1km未満の範囲内に影響を及ぼす程の力を持つ。


「既に同盟国に依頼を出しています。受けてくれる者が現れるまで暫く我々が治療に専念致しましょう」

「判った。医療以外は私がこの子の傍に居る」


こうして、今現在―――――


隣で仮眠を取っていた教皇猊下は目を覚ます。


「・・・すっかり夜が更け込んだな・・・誰か!ラガースを呼んでくれ!」

『畏まりました!』


数分後――――宮廷医のラガースが戻って来た。


「アレからどれ位だ?」

「依頼の受理も確認されたので12時間以上は経っていますぞ」


ラガースがそう言い、いつもの様に治癒魔法を発動させる。


「そう言えば、食事がまだとお聞きします。私がここで暫く治癒を掛けるので今の内に」

「・・・・判った」


ラガースが治癒魔法と状態異常解呪の魔法を同時に掛けている間――――


「食べ終わった。下げてくれ」

「畏まりました」


トリニティアが着替えをしている間――――、一人の暗殺者が現れた。


「件の御一行が行動を速めて直ぐにこちらへ向かっています」

「・・・!本当か?!あの花は持っているのを確認したか?!」


暗殺者が頷く。


「門警備の者に通すように伝えております。そのまま御者に神殿の門前に待たせますか?」

「いや、着いたらすぐに居間に通してくれ」


指示を受けた暗殺者がその場を離れる。


「進展がありましたな」

「あぁ、娘がいよいよ復活する・・・!」


二人は期待を胸に寄せていた。

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