第9話

テスト二週間前の月曜日の放課後

俺と翼、桃と朝比奈さんの四人は図書館にいる。テスト勉強のためだ。


「よーし!じゃあやっていこう!」


桃がシャーペンを持ちながら手を上げて大きな声で言う。

今俺たちがいるのは先週から利用していた図書館にいるため、大きな声を出すのはやめてほしい。

ほら司書さんがこっち見てるから。ほんとすみません、すぐに黙らせるんで。


「こら桃、ここは図書館なんだから大きな声は出さない。他の人にも迷惑だろ」


俺が注意をする前に翼がしっかりと桃に言う。


「あー、ごめんごめん。うっかりテンションが上がっちゃてさ。私たちって今までこういうことしてこなかったじゃん?」


「まあ、中学の後半まではテスト勉強なんてまともしてこなかったからね。でも俺と翼の二人だったら結構な頻度でしてたよね」


俺は思い出に浸りながら言う。俺と翼、桃の三人は中学ではテスト勉強を一緒にするなんてことをしてこなかった。理由は簡単、俺と桃が単純に勉強をしてなかったからだ。翼はしっかりと勉強をしていたが、俺はシンプルにさぼっていたのと、桃は地頭が良いために勉強をしなくてもそれなりの点を取っていた。

しかし俺が今の高校を目指すとなると、翼が基礎から教えてくれるために、今のように図書館で一緒に勉強をしてくれた。俺が合格できたのは翼の功績が大きいだろう。本当に翼には感謝してもしきれないほどの事をしてもらっている。


「お二人って本当に仲がいいみたいですけど、いつから仲がいいんですか?」


朝比奈さんが聞いてきた


「んーっとね、俺たちは小学生の時からずっと一緒のクラスなんだよ。俺が湊に声を掛けたんだっけ?」


「確かそうだと思う。まあ仲良くなったきっかけなんて忘れちゃったよ。気づいたら仲良くなってたって感じかな」


そう本当になぜ仲良くなったのかは覚えていないのだ。小学生の時の俺は今よりも、もう少し社交的だったとは思うのだが、自分から積極的に人に話しかけに行くという程ではなかったと思う。そのため翼から話しかけてくれたのは間違いない。


「確かに、俺もなんで仲良くなったのかは覚えてないや。多分相性が良かったんだろ。湊って聞き上手だから俺の話よく聞いてくれるしな」


友達になるなんてそんなに難しいことではなく、気づいたらなっているものだと思う。

実際、翼と俺、桃は今のようにずっと一緒にいるくらい仲が良くなっているのだ。


「でも湊って中学では殆どクラスメイトとかと喋らなかったよね。湊は聞き上手なんだからもっと人と関わればいいのに。」


桃が不思議そうに聞いてくる。


「俺は一緒にいて心地良い人としか仲良くなる気はないし、あまり人に気を遣うのも好きじゃないだけだよ。高校に入るまでは好きな人なんて、今までいなかったんだから、そんな人がいる事自体幸せだと思っているよ。」


俺がそう言うと三人が下を向いて黙ってしまった。


「え、俺なんか変なこと言った?」


「いや・・・湊ってそういうことをさらっと言えるのがずるいなって。」


と桃


「そんなところが好かれたんだろうな」


と翼


「・・・・・」


朝比奈さんは顔を赤くしながら黙っている。


「ほら、湊がそういう事言うから渚が黙っちゃったじゃん。責任取りなさいよ」


「だからなんで?」


「はー、本当になんでそういうことはさらっと言えるのにダメダメなんだろう・・・渚も苦労するだろうし・・・けどまあ紳士である事には変わりないからいいと思うけど。」


「うんうん。確かに湊は紳士だな。俺と一緒に買い物に行くときも良く気遣ってくれるもんな。」


「私も湊と買い物に行くときは、車道歩いてくれるし、荷物持ってくれたりしてくれたな。渚、本当に優良物件だから安心していいよ。」


朝比奈さんは『コクコク』と頷くだけで言葉は発さない。


「なんで皆して急に褒め出したのさ。結構意味が分からないんだけど」


「分からないなら、分からないまんまでいいよ。そのままでいてください」


桃が呆れた様子で言ってくる。

本当にみんなしてどうしたのだろうか、朝比奈さんは心ここにあらずって感じだし、とても勉強に集中できるような状況ではないため、今日のところは翼に勉強を教えて貰うことにした。

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