第7話
朝比奈さんに告白された土曜日から、一日挟んだ月曜日の昼、俺は翼と一緒にいた
「それで、今は昼飯の時間を短縮して勉強に専念しているってわけね」
事の顛末を聞いた翼は少し呆れながらも、感心したように俺を見てきた
「理由はどうあれお前が勉強する気になったのは良いことだな」
「む・・・これも立派な理由だろ。俺は前も言ったとおり、朝比奈さんと何か一つでも釣り合えるものがないといけないんだよ」
「それはお前自身のためか?」
「朝比奈さんのために決まってるだろ。俺のせいで朝比奈さんが悪く言われるなんて耐えられないからな。分かってるのに聞くなバカ。」
こんな事を聞かなくても翼は俺の真意は分かっているはずだ。なんたって翼は異様に勘が良い。そしてその勘の良さは俺に対してはより一層強くなる。
「俺のことは良いよ。また今度しっかり話すよ。それより翼はそんなにゆっくり食べてていいのか?先輩に呼び出されているんでしょ?今回で何回目?」
「んー、確か五回目かな。別にもう答えなんて出てるし、行くのはギリギリで大丈夫だよ。」
翼が先輩に呼び出されている理由は、別に喧嘩を売られたりしている訳では無い。呼び出している先輩というのは女子の先輩。つまり告白だ。
翼は顔の良さ、性格、勉学、運動、どれをとっても悪いところが見つからない。だからこそとてもモテる。今まで告白された回数は二桁は行っている。でも翼はその告白すべてを断っている。理由を聞いてみた事もあるが
『告白されるのは嬉しいけど、俺が今までの人たちの事を好きになることはありえないから』
と言っていた。
「モテるっていうのも困りものだね」
「本当にな。こっちの時間が奪われるだけじゃなくて、断ったら告白してきてくれた人の事も傷つけることになるから、俺からしたらどっちにも良いことなんてないんだよ。本当に俺は今は誰とも付き合う気が無いって言っているのに・・・なんで告白するのをやめないかな」
翼は心底うんざりした様子で言った。
何度も告白をされると人間慣れて、ときめきも何も無くなるらしい。
「まあ、好きっていう気持ちは抑えられないって言うしね。しっかり断れるだけ良いでしょ」
「まあなぁ・・・桃なんて付き合えないって言ったら逆上されて襲われそうになったって言ってたもんな・・・その時は俺と翼で何とか対処したけど・・」
「ああ、そんな事もあったね・・・」
桃も可愛く、モテるため良く告白をされる。しかし中学の時に、あまり評判の良くない先輩に呼び出され告白をされた。その時に桃が先輩に告白をされてその告白を断ったら、先輩に腕をつかまれたという事があった。その時は心配だった俺と翼が見に行っていたため何とか止めることができたが、その後の桃のメンタルは少し不安定になってしまったために、今は桃が告白されるというときは、俺と翼、二人の内どっちかは見に行くということになっている。まあ桃本人には秘密にしているが・・・
「朝比奈さんも綺麗だしモテるからそういう事もあったんだろうな・・・男子と喋っているのを見ないのもそのせいだろうし」
「朝比奈さんは男子というか、あまり友達を作ろうしてない感じかな。理由はよくわからないけど。」
「フーン。まあ今は桃とか湊がいるし大丈夫だろ。」
「翼もその枠に入ってるんだからな。抜くな」
俺がそういうと翼は少しだけ照れていた。
「なんでそこで照れるんだよ。」
「いやさ、改めてそういうこと言われると照れるっていうか、気恥ずかしいじゃん。あ!やべ!さすがにもう行かないと遅れる!じゃあ言ってくるわ!」
翼は飲んでいた紙パックのジュースをズゴッと飲み干して走って教室から出ていった。そして今度は翼と入れ替わるように今度は桃が、俺の席に来た。
「ねね、湊、今ちょっといい?」
「桃、どうしたの?」
「いやさ・・・私だけだと対処できないから湊にも手伝って貰いたくてさ・・・」
桃はとても言いずらそうに指を胸の前で遊ばせている。そんな言いずらい事なんて、桃は何かやらかしてしまったのだろうか。
「別に手伝うのは良いけど、どうしたの?」
「いやさ・・・渚がちょっとね・・・」
「朝比奈さん?朝比奈さんがどうかしたの?」
「翼に対してやきもちを妬いてて、私だとどうしようもないんだよ」
「は?翼に対してやきもちを妬く?なんで?」
「それはねぇ・・・渚本人に聞いてくださいや」
「まあ、聞いてみるよ」
俺は席を立ち、朝比奈さんのもとに行く。朝比奈さんは席で頬を膨らませて、明後日の方向を向いていた。どうやら少しだけ怒っているようだった。
「あのー?朝比奈さん?桃から聞いて来たんだけどどうしたの?」
「なんでも無いですよ・・・」
「何でもないは無いでしょ・・・翼に対して嫉妬してたとか言ってたけど、嫉妬する要素あった?」
「それは・・・ずるいなって思っただけですよ」
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