初めての来客

湊君が来ると決まったその日に私はまず家の掃除をした。

普段からしっかりと掃除はしているため目立つような汚れなどは無かったが、普段は中々しないキッチン周りの掃除や、お風呂などの細かいところも隅々までしっかりと埃一つも残さないようにしっかりと掃除をした。

そういえばこの家に引っ越してきて・・・というより私の家に誰かが来るなんて初めてのことだな。

湊君には初めてを貰ってばっかりだな。何か私もお返しをしないと・・・。

それにしても桃さんの冗談は心臓に悪い。本当に・・・。襲うなんてできるはずないのに、ましてや湊君が襲ってくるなんてありえない・・・と思う。紳士な彼がそんな事をするとは思えないが、そんな彼が相手だからこそ心のどこかで少しだけ彼とならそういうことをしてもいいかもしれないと思っている自分もいる。・・・まだ付き合ってもないのに私は何を言っているんだ。しかも私たちはまだ高校生なのだ。もし仮に彼とお付き合いをする事ができたとしても、節度を持った付き合いをしないと良くないことは分かっている。

まあ今はそんなことはどうでもいいか。まだ告白もしていないのにこんなことを考えてしまうのは中々に重症かもしれない。恋は人を駄目にしてしまうというのは本当かもしれない。



そしてついに私にとって人生でもトップクラスで緊張をするであろう日が来た。

今日は休日だけど湊君に会うし、薄くだけど化粧をしておこうかな。服は・・・入学式の日に湊君と一緒に選んだ黒のスカートとお気に入りの白いブラウスにしよう。勉強する場所は自分の家だし、変に気合をいれた服装でも逆に不自然だろう。ここは自然に・・・。

そろそろ約束の時間だけど、湊君は今どのあたりにいるのかな。連絡してみるか。

私は机の上に置いておいた自分のスマホでチャットを送ってみた。そうすると、湊君からもう家の前にいるという連絡が来た。あー来ちゃった。いや、来ちゃったは失礼だけど来ちゃった!ど、どうしよう・・・とりあえず待たせるのは申し訳ないし早く迎えに行こう。私は湊君に電話をかけてすぐに迎えに行くことを伝えた。私はエレベーターに乗りエントランスに着いた。

湊君は・・・、いた。あー、かっこいい。本当に今日私はあの人に告白するのか・・・いや、まだするって決めたわけじゃないけど、ってそんなこと言っているとずっとできないで終わってしまう。するぞ!そう心で決めてから、私は湊君に話しかけに言った。今の私って別に変じゃないよね?自然に話せているよね?多分大丈夫でしょ。うん。そんなことを気にしていてもしょうがないし早めに部屋に招待しちゃったほうがいいだろう。

部屋についた湊君は少し部屋の中を見渡してから母の仏壇を見て少し固まっていた。この仏壇は部屋の雰囲気にもあまりにもミスマッチだし、凄く目立つためしょうがない。母がもう亡くなっている事を湊君に話すと彼はお線香を上げたいと言った。私は少し驚いたがすぐに了承した。私は昔からあまり友達を多く作るような人間でも、友達を自分の家に呼ぶような人間でもなかったため、母は今の私を見たらどんな反応をするだろうか。喜ぶだろうか、安心するだろうか。

お母さん、見ていてね。私は今日、勇気を出して進んでみるよ。



勉強会はスムーズに進み二人の集中もしっかりと続き、雰囲気も良く楽しい勉強会は進んだ。

湊君は勉強のやる気という物が無いためにどうしても授業中も集中するということは少ないらしい。しかし私から見れば彼は地頭は良いようだった。まず今の高校に入るにはそれなりの学力が必要だし、受験勉強の時の学力が無くなる訳でもないので基礎自体はしっかりとしているし、応用力が弱いだけでそれなりに問題も解けている。数学の場合は、公式の応用をしっかりと教えれば彼はそれなりに良い点数を取ることができるだろう。私が彼に勉強を教えようと思ったのは、最初は彼ともっと仲良くなりたいからだった、しかし今はもったいないと思ったからだった。彼はやればなんでもそれなりにできるタイプだ。本人がそれを自覚していなく、頑張ろうとしない。そんなもったいないことは無い。そのため強制的に頑張らせるためにも私と一緒に勉強してもらおうと思った。強引な方法だとも思ったがこれも彼のためだと思い、心を鬼にしてでも彼にはやってもらう。

少しの休憩をした後に勉強を再開しようと思った時に、彼が大きな欠伸をした。

結構ペースも早く、ずっと集中してやっていたしやっぱり疲れちゃったかな?眠い状態で勉強を再開しても、頭に残らないで意味のない勉強になっちゃうし彼には少しだけ休んでもらうか。そう思い私は彼に少しだけ眠ることを提案した。最初、彼は寝ることを拒否というか、遠慮をしていたが私も彼には万全の状態で頑張ってほしいため駄目押しで寝ることを強要した。彼は押しに弱いから強めに勧めれば断らないことを知っている。これも桃さんからの受け売りだ。

彼は相当疲れていたのかソファで横になるとすぐに目を閉じて眠り始めた。私は相当長い間誰かに言うことが無かった「おやすみなさい」と彼に声をかけて頭を撫でた。誰もいないし彼も今は意識が無いのだ。このくらいの事ならしてもいいだろう。湊君を見ているとどうしても彼にだけは頼ってもいいのかもしれないと思ってしまう。入学式の日に珍しく寝坊をしてどうしようか悩んでいた時に彼にたすけて貰った。その時の湊君が印象的で、私の中では彼は頼れるヒーローという存在になった。マラソン大会の日に怪我をしているときにもたすけてもらい、彼に対しての印象がより強固な物になった。だから私は彼には甘えてしまうのかもしれない。だから彼は私のものにしたい。私だけの彼にしたい。逆に言うと私は彼のものになりたい。彼の寝顔を見ながらそう思った。


告白すると心に決めたのはいいけど、なんて言うのが正解なのかが分からないな・・・好きと言うだけなのは分かっているけどその一言がとても重い。もっと他に何か良い言い回し無いだろうか・・・まあこれは湊君が起きてから考えよう。こういうのは咄嗟に出た言葉が正解だったりするのだ。告白なんてしたことないから知らないけど、今までの勘でそうだと信じている。

私はコーヒーを飲みながらニュースを見たり、予習などをしていたら一時間程経ったため、湊君を起こそうと思い彼の体を揺さぶり声をかけてみたが、彼は可愛い寝息を立てながら覚醒する気配はない。しかもとても気持ちがよさそうに眠っているため今はこのまま寝かせておくことにした。今日の勉強は思ったよりスムーズに進んだし、彼はこの一週間毎日頑張ってくれたので今日はこのまま休んでもらおう。

一度起こすことを諦めて、洗濯物を畳んだり、夕飯の準備をしたりしていたらまた一時間が経ったため今度こそ彼を起こすことにした。彼のお家に門限などがあるかなどは分からないが、18時となると起こして確認しないといけない時間だからだ。まあ男子高校生だし大丈夫だとは思うが一応念のためだ。しかし本当にこの人の寝顔は可愛いなぁ。一生見てたい・・・いや、ダメダメ!早く起こさないと湊君だけじゃなくて、湊君の親御さんにも迷惑が迷惑と心配を掛けてしまうだろう。

「おーい?みーなーとーくーん!起きてくださーい!あれ?起きないな・・・もっと揺らさないと駄目かな?湊君!湊君!湊君!あ、起きた!」

やっと起きた・・・どうやら彼の寝起きはあまり良くないようだ・・・これは覚えておこう。

彼はもう18時になっていることに驚いていた。ごめんなさい・・・寝顔をもう少し見ていたかったなんて言えないし、責任は湊君に押しつけとこう。彼のお家は門限などは特に内容でひとまずは安心だ。しかしもうこんな時間だ。今日の晩御飯は家で食べて貰うことにしようと思い、誘ってみたが彼は依然として帰ろうとしていたので無言の圧を出してみた。そうするとやっぱり彼は食べることを了承してくれた。桃さんありがとうございます!湊君は圧に弱いという情報はしっかりと活用します!

キッチンで彼が料理のお手伝いを始めてくれたところで彼が質問をしてきた。内容は親や兄弟が帰ってこないか。という質問だった。まあ気になるのは当然だろう。もしこの状況で家族の誰かに見られたら、色々とややこしいことになるのは明白だった。こうなったら殆ど一人暮らしの状況だということを言ってもいいかな・・・

今の私の状況を話したら以外にも彼はさほど驚いていなかった。むしろ今の私の状況を少しだけ察していたらしい。まあ確かにこの時間まで誰も帰ってこないのは気になるよね。彼は私の状況を聞いて何かを言うでもなくただ黙って料理の手伝いを続けてくれた。彼のそういう気遣いできると事が大好きだ。



二人で作ったカレーを食べているときに、嬉しいことに彼は、将来私の料理を食べれる人は幸せ者だと言ってくれた。その言葉を聞いたときに私は嬉しくて下を向いてしまった。ていうかその料理を食べれる人になってほしいのはあなたなんですよね。・・・これだ!この言葉を告白として使おう!これなら遠回しだけど意味はしっかりと伝わるはずだし、湊君の発言を利用できる。うん、これでいこう。


そう決めてからは早かった。心の準備も必要だったため、彼の勉強用のノートを見ながら、心を落ち着かせて、彼がもう少し家にいられることを再度確認してから言うことにした。

私は大きく息を吸い、覚悟を決めてから、さっき決めたセリフを口から出した

「将来私の料理を毎日食べてくれる・・・その人になってくれませんか?」

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