第2話

入学式の日の次の日、学校で登校してきた朝比奈さんに会ったら「昨日は楽しかったですね!」

と、教室内のみんなに聞こえるくらい大きな声で話しかけてきたため、前日に俺が朝比奈さんに話しかける前に朝比奈さんと一緒に喋っていた女子たちは、朝比奈さんの昨日は楽しかった発言にだいぶざわついていたし、男子たちも軽くショックを受けていた様子だった。

まあ無理もない。引っ越して来たばかりで友達がいないはずの美少女がなぜか入学式の日によくわからない男子生徒と遊んでいた報告なのだ。

昨日はよくわかっていなかったが朝比奈さんを狙っていた男子生徒は多かったようで、学校でも新入生に美少女がいると噂になるくらい有名人だったらしい。

上級生はどこでそういう情報を手に入れるのだろうか。

「今日も一緒に昼食を食べましょうね!昨日湊君が約束してくれたとおり学食で食べましょう!千谷さんも一緒にどうですか?みんなで一緒に食べた方が楽しいし美味しいですよ!」

はい、状況悪化。クラス内はもはや俺たち以外の会話は聞こえなくなり皆んな俺たちの会話を聞いているようだった。

「ごめん朝比奈さん。俺、今日の昼休みはサッカー部のミーティングがあるから無理だ。湊と食べてあげて。」

「お前は俺の親か?でも本当にいいの?朝比奈さん。学校外ならいいかもしれないけど、学校内で俺と2人でお昼食べるのは多分勘違いするやつが出てくると思うけど。」

そう。花の高校生になったんだから色恋沙汰を求めている女子は多いだろう。そんな人たちの前で男女が2人きりでお昼を食べているのをみたらいいネタを見つけたとすぐに噂になってしまうだろう。

ていうかもはやそうなっているだろう。

すでに教室前の廊下には他クラスの男子と思われる生徒たちがいるし先輩と見られる生徒たちもいる。

噂の美少女を見にきたのだろう。

先輩の男子生徒たちは朝比奈さんを見ると「本当に可愛いな」や、「俺アタックしてみようかな。」など本人に聞こえるような声で喋ることではないことを喋っていた。朝比奈さんも気づいていたみたいだが廊下の生徒はガン無視しているようだった。そしてその生徒たちにも聞こえるようにこういった。

「大丈夫ですよ。確かにそう言う噂は出るでしょうけど誰かに聞かれたらしっかりと否定すればいい話ですよ。湊君は誠実なので大丈夫だと信じています。あと私は知らない人に言い寄られたくないです。」

しっかりと否定すればいい。その言葉で少しだけ俺の心がちくりと痛んだが、すぐにそれはそうかと思い、切り替えた。

廊下にいる先輩たちは朝比奈さんの言葉を聞いて、ガックリと肩を落としていたがそれはそうなるだろう。

多分朝比奈さんは男子が得意ではない。

朝比奈さんの体はとても引き締まっているお腹、しかし出ているところは出ている体型のため男子の目を引くことは間違い無いだろう。

昨日朝比奈さんは俺に話しかけてくる時に警戒している目だったこともそう考えれば辻褄が合う。

さっき朝比奈さん俺のことを誠実だと言い切ったのは、きっと昨日俺が朝比奈さんを見ている時に顔以外を見なかったからだろう。

そのためすぐに心を開いてくれて仲良くなれたんだと俺は勝手に思っているが自意識過剰だと言われてもしょうがないと思う。しかし好きな人に誠実だと言われれば嬉しいものである。


「あ、もし良かったら桃さんも誘っていいですか?お二人は桃さんと仲がいいですよね?」

 「確かに仲良いけどどうして桃?朝比奈さんと桃って繋がりあたんだ。知らなかったよ。」

朝比奈さんが言う桃とは俺たちと同じクラスの佐藤桃だ。

活発の性格で誰にでも優しく平等に接するため彼女に惚れている男子生徒は多い。告白も多くされているらしいが誰とも付き合う気はないとバッサリと断っているらしい。

俺と翼2人と同じ中学の出身で中学時代から多く接していたため2人とも仲がいい。というか桃はほとんどの生徒と仲がいいのではないだろうか。

「あ、いえ桃さんとは昨日少しだけ喋っただけでまだ仲良くはないんです。でも昨日喋って桃さんは他の方とは何かが違い仲良くなりたいんです。小さいし、とっても可愛いです!」

朝比奈さんはどうやら可愛い物好きらしくクマの人形や、小さい人形などが自分の部屋にたくさんあるらしい。

桃は確かに容姿は可愛く、朝比奈さんが日本人形みたいな綺麗系とすると、桃は外国の人形みたいな可愛らしい顔をしているため、可愛い物好きの朝比奈さんに大層気に入られたらしい。

「分かった。じゃあ桃も誘って一緒にお昼食べようか。昨日行ったとうり朝比奈さんの今日のお昼の代金は俺が払うからね。昨日払って貰っちゃったんだから。」

微笑ましそうに2人の会話を聞いていた翼が驚いた顔をして会話に入ってきた。

「え、湊!お前、女子に払わせたのか!?何してんだ。」

「千谷さん!違うんです!昨日は私がお礼にとほとんど無理矢理払ったので湊君は悪くないんです!それで今日は昨日の代わりにと、私の学食の料金を湊君が払ってくれると言うことで、お言葉に甘えさせてもらうことになったんです。」

「ああ、そう言うことか。なるほどね。湊は明日も朝比奈さんと一緒に昼食食べれるぜやったね。と思いながら誘ったわけだ。」

と、翼があられもない容疑をかけてきたのでしっかりと反論してやった。

「違いますー!女の子に払わせてそのままってわけにはいかないだろどこかでお返しするってことになったんだよ。そんな不純な動機じゃないですー。」

昨日朝比奈さんにもこう説明した手前本人の前ではいえなかったが、今日も一緒にたべれると言うことになり内心ウキウキだった。

話していたら前のドアから話に出ていた佐藤 桃が登校してきた。

「おはよう。湊、翼、朝比奈さん。昨日はどうしたの?2人でどこか行ってたみたいだけど。2人って一緒にどこか行くくらい仲良かったんだね。昨日は飲み物買いに行って、教室に帰ってきたら2人とももういないんだもん。話聞いてたらなかなか面白いことになってた見ただけど。私もその場にいたかったな~。2人が手を繋いでいたところ。」

「桃さんおはようございます。昨日はすみませんでしたお話の途中で帰ってしまい。昨日は湊君にお礼を兼ねて一緒にお昼とお買い物に付き合ってもらったんです。」

「いやいや全然いいよ。昨日は私も何も言わずに教室出ちゃったしね。それにしてもお礼でこんな美少女と一緒にお昼とお買い物ができるなんて、随分いいことをしたみたいだね湊君や。それに手も繋いだとなればこの学年の人たち大体の人たちが2人は付き合ってると思うだろうね。」

「え、俺たちってそんなに噂になってるの?」

「うん。噂の広がり方はすごいよ~。この学年は人数そんな多くないしすぐに広またと思うよ。元々朝比奈さんが注目されていたみたいだしね。」

「まあさっきも話していたけど誰かに何かを聞かれたら違うとはっきり否定すればいい話だもんな。そんなに気にすることでもないよ。」

「まあ、2人がいいならいいんだけどさぁ。精々気をつけなね。分かっていると思うけど朝比奈さんのファンいっぱいいるし。」

「まあ忠告を聞いておくよ。あ、あと桃って今日の昼って暇か?良かった一緒に学食でお昼を食べない?」

「ん、まあ私も学食で食べるつもりだったけど湊から何かを誘ってくるなんて初めてじゃない?どうしたの。」

「いやさ、今日は元々朝比奈さんと食べる予定だったんだけど朝比奈さんが桃とも一緒に食べたいらしいからさ」

というと桃はキョトンとした顔で

「え、2人とも今日も一緒に食べようとしてたの...?本当に付き合ってないんだよね?」

まあ、こういう反応されるのは分かっていたので翼と同じように昨日のことを話した。

「なるほどね。もちろん一緒に食べよ。朝比奈さんが私と仲良くなりたいって言ってくれるなんて嬉しい!そういえば昨日湊になんかされなかった?なんかあったらなんでも言ってね!」

俺はそんなことをしない。

桃があっさりと了承してくれて朝比奈さんも仲良くしたい宣言に緊張していたのか、顔がこわばっていたが嬉しいと言われた瞬間顔の筋肉が緩んだようだった。

きっと彼女は不器用なのだろう。友達を1人作るのにもいろんなことを考えてしまうタイプだろう。

そんなところも可愛い。俺からしたら彼女の一挙一動が可愛いと思ってしまう。もう末期だろう。

結構長く話していたからこのあとすぐにチャイムがなりHRが始まった。


午前中の授業が終わり昼食の時間になった。

「よーし!じゃあ学食行こうか!お腹すいたよ~。」

授業が終わった瞬間桃が俺の席にやってきた。

「お疲れ様。どう?高校の授業ついてけそうか?多分基礎さえ真面目に受ければ大丈夫だと思うけど。」

「ちょ、やめて!授業終わったんだからそんな話は聞きたくない!いいから早く学食行くよ!」

「はいはい。行くか。って、朝比奈さんは?てっきり桃と同じくらい早くくると思ったんだけど。」

昨日今日で分かったのは朝比奈さんはとにかく行動に移すのが早い。だから授業が終わったらすぐに俺を呼びにくると思ってたんだけど。

そう思いながら朝比奈さんの席を見ると彼女は真剣な顔しながら何かノートに書いていた。

4限目はノートを取る内容なんてなかったと思うのだが何か大事なことでも書いているのだろうか。

桃と2人で朝比奈さんを見ていると彼女は視線に気付いたのか、すぐに書くのをやめてタタタと走り寄ってきた。

「お二人ともすみません。私から誘ったのに…もう大丈夫ですので行きましょう。」

「やったー!やっとお昼食べれるよ~、授業中思ったんだけど朝比奈さんって呼び方だと、呼びにくいし渚って呼んでいい?もしダメなら大丈夫なんだけど…」

桃が唐突に呼び方の変更を求めてきたので、朝比奈さんも面をくらっていたが嬉しそうに「大丈夫です!」と、言っていた。

そして俺たち三人は学食に行くことにした。

学食に行く途中に気づいたことは朝比奈さんはとにかくいろんな人に、見られているということだ。廊下を歩いていれば男子生徒に見られ、通り過ぎる人たちは振り返っている。それほどに彼女は魅力的なのだ。

そのあとは特に何もなく学食でお昼を食べて午後の授業を受けた。


「なんでこの学校にはこんな地獄みたいな行事が毎年行われているんだ?」

 入学式から約一ヶ月たったある日俺と翼、この学校の全校生徒が準備体操をしながら口々に不満を漏らしていた。

 俺が言っている地獄みたいな行事はマラソン大会のことだ。大会とはいえ順位を競うわけではないので歩いてもいい。

 この行事の最大の目的は一年生にとっての初めての行事でありクラスの人ともっと仲良くなるための行事ということになっている。

 まあそれはいい。学校側が俺たち生徒を思って企画してくれた行事だ。問題はマラソンの距離だ。

 俺たちの学校は近くに山がありその山は山頂まで十キロほどあり登頂するととても素晴らしい景色らしい。

 そう。この行事はマラソン大会という名の山登り&下山ができるお得な行事なのである。

 なんで往復で二十キロも走らなきゃいけないんだ。この学校は登山部でも作るのか?

「いいじゃねえか。2人で話しながらでも歩いて行こうぜ。」

 相変わらず柔らかい態度の翼。ずいぶん余裕そうだ。

「運動不足の俺には憂鬱でしかないよ。明日は動けないことを覚悟しとかないと。」

「はは...まあ湊はもっと運動しような。中学で部活引退してから全くって言っていいくらい運動してないだろ?そんなんだと後々困るぞ?」

「うるさい。だって部活引退したの去年の夏だぞ?今更運動再開するのもあしんどいわ。そもそも中学は強制的に部活入らせられただけで、高校で部活入る気もないしな。翼はどうするんだ?もうそろそろ体験入部も終わる頃だし入る部活決めたのか?」

「まあ俺は変わらずにサッカー部かな。俺がまともにできるスポーツなんてサッカーくらいだし」

翼はそう言っているが彼は実際めちゃくちゃ運動できる。

サッカーだけではなくバレーや、陸上、水泳など幅広い分野でいい成績を出しているので、やろうと思えばなんの部活でもエースになれるだろう。

今更運動なんて絶対にごめんだね。翼にはそんな態度をとっておいたが自分も本当はそろそろ運動しないとダメだだなとは思っていた。入学式の日に走っていた時に家から出て一分で息切れし始めた時にもう自分はダメだと思った。何かいい運動方法って何かあるかな...。

「湊君。今日は頑張りましょうね!」

朝比奈さんが俺たち2人のところに来た。何故だろう、学校指定の運動着で全く飾り気もないのに彼女が着ると他の女子が来ているのとは違う服だと思ってしまう。多少は好きな人フィルターがかかっているのかもしれないがそれでも彼女は綺麗だった。

「あ、朝比奈さん。うん頑張ろうね。朝比奈さんって今日誰かと一緒に走るの?」

「いえ、今日は1人で走ろうと思います。桃さんが陸上部で運営の係をやらないといけないらしくて、なので今日は1人で頑張ろうと思います!」

俺と朝比奈さんが喋っていると翼が話に入ってきた。

「あー、桃って先輩とも仲良いから強制的に係やらされたらしいな。本人はマラソンしたかったらしいけど。」

「そうらしいんですよね。本当に勝手に係として登録なんて酷いです!マラソンが終わったらいっぱい桃さんを可愛がります!」

ふんす。と体の前で手を構えていた。

「朝比奈さんは本当に桃は好きだね。お昼も毎日一緒に食べているんでしょ?」

そう。朝比奈さんは俺が一緒にお昼を食べたその次の日から毎日一緒に桃と一緒にお昼を食べているようだった。

どうやら桃自身も朝比奈さんとは相性が良かったようで、いつも2人で楽しそうに話している。仲がいいことはいいことだ。

「そうですね。あの日から桃さんが誘ってくださるのでいつも食べています。桃さんと話すのは楽しいのですし1番の友達ですね。」

『それではマラソン大会始めまーす。女子は先に出発のため位置についてくださーい!』

陸上部の係の人が開始の合図を告げた。

「それじゃあ、朝比奈さん頑張って。俺たちも追いつくようになるべく早く走るようにするよ。」

「はい。ありがとうございます。それではお先に行ってきます。」

そう言って女子たちの部は先に学校を出発した。

女子たちが主発した後に翼が俺の肩をガシッと掴み質問してきた。

「よし、湊、俺はお前に聞きたいことがある。本当に朝比奈さんと付き合ってないんだよな?」

何を言ってるんだ。そんなわけがないだろう。

「何言ってんだ、もし付き合ってたら翼には言うよ。」

「本当か?お前が朝比奈さんを好きなのはすぐに分かったけど、多分朝比奈さんもお前のことが好きだぞ?」

え、俺が朝比奈さんのこと好きなのバレてたの?

いやいや、それよりなんかすごいこと言ってたぞ

「朝比奈さんが俺のことを好き?そんなわけないだろ」

「いや、多分好きだぞ。確証はないけど俺とお前と話す時の目が違うんだよ。俺と話している時は少しどこか違う所をみているんだけど、お前と話している時の朝比奈さんの目はしっかりとお前自身を見ている。でも恥ずかしがってる感じの目してる。」

翼は普段から人のことをよく見ている。

サッカーで司令塔をしているからか人のことを俯瞰的に見ることが得意だそうで、少しの違いを気付けるからリーダーシップもある。

だから普段は翼のアドバイスはしっかり聞いて、気をつけるようにしているが今回翼が言っていることはよくわからない。

「それでも俺のことを好きなのはないだろ。一緒にお昼食べたりはしたけどそ話してるわけじゃないし、そんな雰囲気感じたこともないぞ。」

今回言っていることはマジだ。

俺が朝比奈さんに対して好意を向けたことはあっても朝比奈さん側から俺に対して何か何か好意を向けられたことはない。

「まあ湊自身がそう思ってるならそうかもだけど俺から見たら2人は付き合っててもおかしくない距離感だったわ。これ以上なんか言うのも朝比奈さんに悪いしこの話はここまでにするか。さて俺たちも早くストレッチするぞ。」

「お前の良いところはそうやってすぐに違う話題に写してれるところだよな。大体お前から話題振られるんだけどな。」

そんな話をしながらストレッチをしていると男子も学校を出発することになった。

『では、男子の部を始めます。よーいどん!』

係の合図で一斉にスタートをする。

一位を狙っているのかすぐに走りだし見えないところまで行ってしまう運動部の先輩、それについていく同級生、他はみんな友人たちと話しながら歩き始めた。

うん、やっぱり大体は歩くのね。

まあそんな20キロも走り続けられる人なんてそうそういないし当たり前なんだけどね。

俺と翼は他の歩いている生徒たちとは少しだけ早いペースで歩くことにした。走らないけど早歩きよりも早いペース。

理由は簡単で朝比奈さんと合流するためだ。

男子よりも二十分ほど早くでた女子だが今のペースで歩いていればすぐに追いつくことができるだろう。もっとも朝比奈さんが上の順位を狙って走っていない場合だが。

「なあ湊。さっきの話の続きなんだけどお前ってなんでそんなに朝比奈さんいこだわるの?湊ってほとんど友達作らないじゃん。人見知りってわけじゃないのにあまり人と関わらない、クラスでも話すことがあっても二、三口聞いたら会話終わってるじゃん。それなのに今日は朝比奈さんに追いつきたいから、早く行こうなんて他人にそんなに興味示すのお前らしくないぞ。」

うるさい。お前はさっき名推理してきたんだからわかってんだろ。

「そんなの好きだからに決まってるだろ。言わせんな。」

顔が熱いのがわかる。スタートしてからまだ五分くらいしか経ってないから、これが疲れのためではないことはわかる。

「おお、結構あっさり認めるんだな。」

翼は驚いたような顔をしたが翼に対して誤魔化そうとしても大体は見透かされるため、もうはっきり言ってしまった方が、こちらにもダメージが少ない結果になる。

「まあね、だって翼にはもうバレてるんでしょ。さっき自分が言ってきただろ。俺は朝比奈さんが好き。だから彼女のことは放っておけないただそれだけ。まあ俺だけじゃどうにかできないことがあったら翼にも助けてもらうからその時はよろしく。」

そう、好きだから放っておけない、彼女に関することだったら何がなんでも助ける。それが普通のことだ。

俺がそう言い切ったことで翼は微笑みながら

「本当に好きなんだな。一時的な盲目的なものじゃなくて」

と言った。

当たり前だ。彼女は初めて俺が本気で好きになった人。

他に友達が欲しいとかそんなことは考えたことはない。

今の俺には翼、桃、そして朝比奈さんがいればあとの人はどうでもいい。

物語で言えば俺からすれば他の人たちはモブキャラだ。

「まあしょうがない。そんなに好きなら湊の恋を助けてやりますか。なんたってお前がこんなことで悩んでるのをみるのも初めてだし。」

「翼..」

まさか翼がこんなにも俺のことを考えていてくれるなんて。

「しかも外野から見ている分には相当面白い状況だし。これを見逃すなんて勿体無い。」

うん。前言撤回。こいつは完全に野次馬精神でいる気だ。

まあ変に干渉されて複雑になるよりは数倍いい。

翼もそれをわかって今の発言をしたのだろう。

やっぱり翼は空気が読める男だ。俺が彼に強い信頼を寄せているのはそういう面もある。翼の名誉のためにもそういうことにしておこう。

翼と俺は特に止まったりすることもなく順調に進み、徐々に先に出た女子の姿も見えてきた。女子たちは走る人がおらず皆んなお菓子を食べたり、友達と写真をとったりしていた。男子がきたことがわかると一緒に写真を撮ろうと声をかけている女子もいた。うっ、眩しい。

コースの半分くらいのところで朝比奈さんの後ろ姿を発見することができた。どうやら本当に1人でゆっくり歩いているらしい。

彼女は歩いていたがその歩き方はいつもと違い少しだけおぼつかない足取りだった。

俺は朝比奈さんを見つけた瞬間に何故か走っていた。

そしてすぐに話しかけた。自分でも何故走り出したのかがわからない。ほとんど反射的だった。

「朝比奈さん、お疲れ様。結構早く追いついちゃった。」

「え、湊くん?!早くないですか?!てっきりもう少しかかるとおもてました。」

俺が声をかけると朝比奈さんは驚いていた。

まあ当然だろう。今俺たちがいる地点にはほとんど男子がいない。

いるのは走ってきた男子か、俺たちのようにだいぶ早く歩いてきた人たちしかいない。

「結構早めに歩いてきたんだよ。俺もまさかこんなに早く合流できるとは思わなかったけど。それよりも大丈夫?なんか足痛そうだけど。」

「ああ、これですか。大丈夫ですよ。多分普段運動しないから足が悲鳴をあげているんですね。それより湊くんのことだからもっと遅めに歩いてるとばかり。やっとまともに運動する気になりましたか?」

彼女は笑いながら言っていたがその笑顔は少しだけぎこちなかった。

「うっ・・・まあそんな感じ。去年の夏から全くって言っていいほど運動してないしね。今日くらいは動かないとね」

まあ嘘なんですけどね。『あなたに早く会いたいから頑張りました!』なんて恥ずかしすぎて言えない。

我ながらここまで止まらず来れたのはよくやったと褒めたい。

おかげで足はパンパンで痛いけど、彼女の天使スマイルを見れるならこんなのへっちゃらだ。

そんなふうに楽しく2人で喋っていると翼が後ろから息を切らしながら追いついてきた。

「湊お前、露骨すぎ…早えよ。お疲れ、朝比奈さん。思ったより早く合流できたね。」

「千谷さん、お疲れ様です。湊くんとも話したんですけどお二人とも足が早いですね。びっくりしちゃいました。」

彼女は少しだけ首を傾げながら言った。

可愛い…

「いやね、湊がどうしても早く行きたいっていうからさ。朝比奈さんに早く合流しなきゃ!っていうもんだから俺もびっくりしたよ。湊がこんなに頑張るのはいつぶりかな。」

おい余計なことを言うんじゃない。確かに言ったけど、めちゃくちゃ小さい声で言ったけど。それを本人に言うんじゃない。恥ずかしぬだろうが。

「ま、まあね。おかげで俺もいい運動になったよ。これからが本番なのかもしれないけどね。翼、お前にはあとで話がある。」

「え、なんで俺?なんか言ったか?」

「自覚ないなら余計タチが悪い」

そんな言い争いをしていると朝比奈さんは横でふふ…と笑った。

「いえ、すみません。お二人は本当に仲がいいんだなと思って。羨ましいです。私にはほとんど友人と言える人がいないんです。」

薄々気づいてはいたがやはり朝比奈さんは友人が少ない。

クラスでは他の女子と喋ってはいるが自分や桃に向けるような笑顔ではなく、いつも無理やり作っているような笑顔と、一歩引いたところで会話に参加していることには気づいていた。

何故かはわからないがどうやらあまり友達を作りたいと思わないらしい。

いつも桃と話しているし、俺や翼とは普通に喋って素の笑顔も見せてくれるためどうやら俺たち三人は友達認定されているらしい。

「あ、すみません。変なこと言ってしまい。気にしないでください。ただの独り言です。」

「ううん。大丈夫。それよりも早く行こうか。あまり時間かけすぎるのもよくないし多分桃も暇してるしね。」

朝比奈さんの発言で少しだけ空気が張り詰めたが、その空気を壊すようにい極力明るい雰囲気で話題を変えた。

そのまま歩くのを再開して中間テストについての話や、部活をどうするかなど話していたら、折り返し地点の頂上付近まで来ることができた。

しかしそれよりも自分は朝比奈さんの足についての心配が勝った。

合流した時よりも明らかに朝比奈さんの足は悪化している。

だんだん顔も余裕がなくなってきている。

これは疲労による足の引きづり方ではないとわかっていた。

しかし女子に対して無理に足を見せろとは言えないし、彼女自身は大丈夫と言っているから大丈夫だと信じていた。

これ以上彼女に無理をさせられない。と思いっきて彼女に聞いてみた。

「朝比奈さん。急で悪いんだけどそこに座って足を見せてくれない?」

そう言うと彼女は急な変態的発言にびっくりしながらも、バツが悪そうな顔をしたのを見逃さなかった。

彼女ももう誤魔化せないと観念したのか素直に地面に座り靴と靴下を脱いだ。

俺は彼女の足が見えないように運動着の上着を彼女の足にかけておいた。

「やっぱり。こんなに腫れているのになんで言ってくれなかったの?」

少しだけ強めの言葉で言ってしまったのが原因か彼女はすっかり小さくなってしまった。

「すみません。お二人に迷惑はかけられないと思って。この怪我も頂上のテントで処置してもらう予定でした。そうすればお二人に心配をかけることもないと思い…」

そういう彼女の目には雫が溜まっていた。

ああ、きっと彼女は人に助けを求めるのが苦手なのだ。

この一ヶ月で彼女の人となりはわかってきていた。

『なんでも1人でできてしまう完璧な少女』。これがうちのクラスの朝比奈さんへの評価だ。

運動も、勉強も、彼女は全部完璧にできてしまう。

そのため彼女に対して勉強や運動面で彼女に頼ろうとする物は多くいた。

しかし彼女は誰にも助けを求めることがなかった。否、求めることができなかったのだろう。

彼女はなんでも1人でできてしまうため人に頼ると言うことを知らずにここまで育ってきてしまった。

自分1人が我慢すれば大丈夫。誰かに迷惑はかけられない。この考え方に囚われているのだろう。

今、この状況を解決できる一番の解決策は?と考えたら答えは一つだった。

「悪い翼、先に行っててくれ。」

近くで心配そうにしている翼に声をかけ俺は彼女の前に片膝をつきおぶる体勢をとった。

この体制をとったことで翼は理解したようで

「わかった。でも気をつけろよ。間違っても落としたり、お前も怪我をするようなことはするな?俺は先に運営に報告しとくから、ゆっくりでいいからな。」

そう言って翼は頂上に向かって走り出した。

本当に翼の心遣いはありがたい。すぐに察して先に運営に報告してすぐに処置ができるようにと頼んでくれるのだろう。

本当にいい友人を持った。

さて、問題は朝比奈さんだ。俺が急におぶる体制をとったことに対して困惑しているようだった。

「湊くん。えっと、これは乗れと言うことですか?」

まあ当然の疑問だろう。同性ならいざ知らず急に異性におぶられるのは抵抗があるだろう。それにここは人目もある。

でも今はそんなことは関係ない。彼女に無理をさせず怪我を治すためにはこれが最善策だ。

「そう言うこと。これ以上朝比奈さんを歩かせるわけにはいかないし、俺が許しません。もし顔をみられたりするのが嫌だったらその上着で隠しながら行こう。おんぶされるのがいやだったら、おれが抱いていく形になるけどどっちがいい?」

そう、これが最善策なのだ。彼女にはこれ以上無理をしてほしくない。

好きな人が無理をしているのにそれを無視するのは絶対にダメだ。

顔を赤くしながら三十秒ほど考えていたが、彼女は観念したのか俺の背中に体重を預け上着を顔に被せるようにした。これなら誰かわからないだろう。

 彼女の体重が全身に乗る感覚を感じながら頂上に向かって歩き始めた。

 彼女の体はとても華奢で軽かった

「すみません。まさかばれているとは思いませんでした。ご迷惑をおかけします。あの、私重くないですか?」

「ん、全然軽いよ。まあいつもと様子が違うのはすぐにわかったよ。なんで怪我してたのに隠してたの?言ってくれればもっと早く助けれたのに。」

こんな質問するべきではない。それはわかっていた。

しかし彼女には聞かなければならない。多少意地悪な質問をしてでも今の彼女は変えないとダメだ。

「意地悪な質問ですね。ごめんなさいお二人には迷惑をかけたくなかったんです。私なんかのためにお二人の手を煩わせるわけにはいかないと思って。」

なんだそれは…

「朝比奈さん。それは違うよ。俺は朝比奈さんのことを大切に思っている。自分のことを卑下するのはやめよう、私なんかじゃないよ。君はとても素敵な人なんだら、もっと自信を持っていいんだよ。もっと俺たちを頼ってくれていいんだよ。」

普段ならこんな恥ずかセリフ言えるはずがない。しかし今はそんなことを気にしてはいられなかった。

「朝比奈さんが自主的に友達を作ろうとしてないのはみてればわかるよ。その理由を聞こうとも思わない、人が入ってほしくないところまでは踏み込まないようにしているけど、人が困っているのに見捨てれるほど器用な人間じゃないんだ。これからも朝比奈さんが困っていたら俺は躊躇なく手を差し伸べるよ。だから朝比奈さんにもその手を握り返してほしいな。」

彼女を助けるのに少しでも躊躇したら彼女が先に壊れてしまう。

だからこそ彼女には助けを求められる人が必要だ。その相手に俺がなれるかはわからないけどならなきゃいけないことは分かる。

後ろで俺の言葉を聞いていた朝比奈さんは俺の背中に顔を埋めながら小さい声で

「ありがとうございます。じゃあ今おねだりをしてもいいですか」

彼女の声は震えていた。

俺は彼女を心配させないように戸惑わずに極力優しい声で

「もちろん。なんでも言ってよ。」

と言った。

「できればテントに向かう速度を落としてくれませんか?もう少しこうしていたいです。」

心臓がどきんと跳ねるのがはっきりとわかった。

顔がみるみる熱くなっていくのを感じる。

「わかった。少しだけ速度落とすね。」

自分は今どんな顔をしているのだろう。


彼女のことをおぶりながら十分くらい歩いていると頂上が見えてきた。

すでに頂上には多くの生徒がおり、写真を撮ったり、水分をとりながら休憩をしているものもいる。

そんな中、人を背中におぶりながら来る人なんて当然目立つわけで、背中にいるのは誰なのか見ようとする生徒も何人かいたが、運動着で顔は見えていないので安全だ。

顔を隠しておいてよかった。

頂上の端に運営テントはあるため俺は迷わずにそこに向かうことにした。

 「すみません。怪我をしたみたいなので処置をお願いします。」

 テントの中に入って運営の人に声をかけている時に奥から桃が出てきた。

「あ、やっと来た!渚、大丈夫?!って、なんかすごい状況だね…。湊はなんでそんな幸せそうな顔してるの。なんかあった?」

桃はとても焦った様子で俺たちの元に駆け寄ってきたが俺の顔を見た途端急に冷静になった。

え、そんなに顔に出てたの?恥ずかし。

「別になんでもないよ。それより早く朝比奈さんの怪我を処置してあげて。俺は翼と一緒に学校に戻るから。」

 朝比奈さんを慎重に背中から降ろしながらそう言い、テントから出ようとすると、朝比奈さんが俺の体操服を小さな手で引っ張り俺にしか聞こえない程度の小さな声でつぶやいた。

「行かないで…。」

 急にそんなことを言われたためびっくりして勢いよく彼女のを方を見ると、彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。服を引っ張っている手も震えている。

「ご迷惑なのはわかっています。でも、もう少し近くにいてもらってもいいですか?今は湊さんと一緒にいたいです。」

 自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。

 彼女の方を見ると、今度はまるで何かに恐怖しているような表情だった。

 息遣いも荒く、呼吸も苦しそうだった。目には涙が溜まっていた。

 放っておくことができそうに無いような状況だ。

 もしこのまま彼女のお願いを断ったら壊れてしまうかも、と思うくらいには。

 「分かった。じゃあ怪我の処置が終わるまで一緒にいようか。」

 俺はできるだけ優しい声音で、まるで子供に話しかけるような声音で返事をした。

 今は彼女のケアが重要だ。

 尋常じゃない様子の朝比奈さんを心配そうにみていた桃に少しだけ朝比奈さんをみていてもらい、俺は翼に報告するためにテントの外に出た。

「翼、おまたせ。いろいろありがとう。」

「ん、大丈夫だよ。湊もお疲れ様。朝比奈さん大丈夫そうか?」

 翼には結構な時間待たせてしまったはずなのにそのことは特に気にしている様子もなく、一番最初に俺への労いの言葉と、朝比奈さんの怪我の心配をしていた。

 つくづくいい奴だな。

 「多分大丈夫だと思う。あの腫れ方的に多分捻挫だろうし、朝比奈さんにしっかり聞いたわけじゃないけど痛がり方的に折れてはないと思う。」

 「そっか、ならよかったわ。桃に朝比奈さんが怪我したって言ったらめちゃくちゃ焦ってたから、あまり大事にならなくてよかったわ。」

 そうかやっぱり桃も相当焦ってたのか、そういえば俺達がテントに入ったときも落ち着いてなかったもんな。

「それより翼俺もう一回テント戻るわ。もう少し待ってもらうことになるけど大丈夫?もしかしたら学校に戻るの俺たちが最後になるかもなんだけど。」

 「ん、別に大丈夫だけどなんかあったか?運営に何か聞かれたりとか?」

「いや、実はさ、朝比奈さんに行かないでって言われちゃったからさ...」

「え、俺がいない間にお前らの間に何があったの?お前告白でもしたの?」

 翼は相当驚いているようで目を開いて前のめりになって聞いてきた。

 急に女子に行かないで、とほとんど『あなたのことが好きです』発言をされた親友が目の前にいるのだから当たり前だろう。

 特にそんな雰囲気もなかった二人だからなおさらだ。

「別に何も言ってないし特に何もなかったよ。まあめちゃくちゃ恥ずかしいことは言ったかもだけど。」

 「何それめちゃくちゃ気になる。まあ今はいいや今回待つ代わりにその話根掘り葉掘り聞かせてもらうからな。まあいいや、早く行ってあげな。待ってるよ。」

翼へのお礼もそこそこにテントに向かうことにした。

  「桃、戻ったぞ~。朝比奈さんの怪我どう...って寝てるのか。」

 俺がテントに入るとにやにやした桃と、桃の膝に頭をのせて眠っている朝比奈さんがいた。

「あ、湊。結構早かったね。先生にも見てもらったけど多分捻挫だろうってさ。大事をとって一応病院に行くことにはなったけど。でも湊が渚をおぶってきてくれなきゃ多分もっと症状はひどくなっただろうってさ。」

どうやら怪我はそれほどひどくはないようだ。

 でも俺が怪我に気づかなければもっとひどくなっていたかもと聞いて俺は少しだけ怖くなった。彼女は今の性格だと確実に心が壊れてしまう。そうなる前に何とか今の考え方を変えさせなければならない。

 やっぱり彼女のことは俺が守ってあげたいという庇護欲が湧いてきた瞬間でもあった。

「それより湊よくここまで渚をおぶってこれたね。いくら渚が軽いって言ってもさすがに距離もあったし疲れたでしょ。」

「全然だよ。体力は無くなったけど朝比奈さんくらいなら余裕で運べるよ。」

「それより湊、あんた渚に告白でもしたの?」

「は?」

 なんで桃まで翼と同じようなことを言うのだろうか

「なんでそう思うんだよ...」

「えーだって湊がテントを出る前に渚が行かないでって言ってたでしょ?小さな声だったけど聞こえちゃったんだよね。あんなことなんとも思っていない異性に言うはずがないでしょ?だから一緒にここまで来るまでになにかあったのかなーって思ってさ。」

 ぐっ...無駄に鋭いな。

「別に何もなかったよ。あ、でも少しだけお説教してやったよ。」

「え、なに?お説教?!どんな会話してたらそんな流れになるの...」

 桃は呆れたのか頭を抱え始めた

「まあいいや、じゃあ質問を変える。渚のことどう思ってるの?」

 「だいぶ直球な質問だな。寝ているとはいえ本人の前でそんなこと言えるわけないだろ。」

「寝ているから聞いてるんじゃん。正直に言うけど湊は分かりやすすぎ。傍から見れば好き好きオーラめちゃくちゃ出てるからね。」

「嘘だろ?!めちゃくちゃ隠しているつもりだったんだけど。」

 やっぱり桃にもばれていたのか...もう少しポーカーフェイスの練習するか?

 桃はやっぱり...と言いたげにため息をついた

「あのねぇ、女の子は言われなきゃ分からないの!あんなわかりやすい態度をとっているのに告白してこないと心配になって誰かにとられちゃうよ。」

「誰かにとられる…それは絶対にヤダ…」

 桃はフーンと言いたげな顔で俺のことを見てきた

「本当に好きなのね…まあ湊が誰かを好きになるなんて今までなかったらしいもんね。わかりました!お姉さんが協力してあげましょう!なんでも困ったら何でも言ってみなさい!」

「いや同い年だろ…にしても本当にお前ら似ているな…。」

 さっきまで外で喋っていた親友を思い浮かべて自然に笑みがこぼれた。

「ん?似てるって誰によ。」

「なんでもありません。まあありがとう。これから相談乗ってもらうわ

「ふふん...任せないさい」

 桃は満足げに胸を張って鼻を鳴らしていた。

「まあ朝比奈さん大丈夫そうだし俺はもう行くわ。あんまり翼待たせるのも悪いし」

「わかった。じゃあ湊たちは頑張りなね。これからまた10キロ歩くんだし」

 はあ…そうだった。どっちかというとこれからのほうが憂鬱だ。

 山頂まで来る途中は朝比奈さんに早く会いたかったからあまり疲れなども感じていなかったが、帰りは特に何もない。

 まあいいか。翼に色々話しながら戻るとしよう。

 俺は桃に別れを告げてテントを後にすることにした。

 学校に戻ってくるのは俺たち二人が最後になった。

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