2話(桃視点)

 湊がテントから出た後に私は小さな声で

 「それで?渚はどうするの?」

 私は膝で寝たふりをしている親友に声をかけた。

 渚は膝でピクリと動き、むくりとおきあがった。

 「いつから起きてるってわかりました?」

 渚は顔を赤くしながら目を見開いていた。

 「うーんと湊が渚のこと好きって認めたとき?あの時渚少しだけ動いたでしょ?膝で動くとすぐに分かるものだね」

 渚は俯きながら申し訳なさそうに話し出した。

「すみません。盗み聞きするつもりはなかったんです。たまたま起きたときが好きと言われている時で起きているとは言いずらく...ごめんなさい!」

「謝るのはこっちだよ。ごめんね?気づいてなかったとはいえ渚本人の前であんなこと聞いちゃって」

「いえ、大丈夫です。湊君が出てから声をかけてくれてありがとうございます。」

「まあ本人の前であんなこと言っちゃたし、湊も渚の顔見れないだろうし、私も湊に怒られたくないからね。」

 「まあそうですね。私も今は湊君の顔は見れそうにないです。」

 渚は顔を両手で隠し、耳まで真っ赤になっていた。

 本当に渚は可愛いな...湊も惚れるわけだよ。

 でも私には聞かなきゃいけないことがある...

 これを聞かなきゃ私は二人のことを心から応援することができない。

「とりあえず今は渚の怪我だね。早く病院行こうか。先生が車出してくれるらしいから一緒に行こ!」

「すみません。何から何まで皆さんに頼りきりで...」

 渚は心の底から申し訳なさそうな顔をしていた。

 湊も気づいたようだが、渚は人に頼るということが悪だと考えている節がある。

 自分は人のことを助けて自分は人に頼らないという矛盾している行動をしている。私は彼女の考えをどうにかして変えなきゃいけないとは思っているがどう頑張っても変えられそうになかった。

 だから今日湊が渚を連れてきたときは驚いた。

 渚は湊の背中でとても幸せそうな顔をしており、嫌な顔などはしていなかった。湊はどうやって渚のことを説得したのか気になったが、深くは聞かないで置いた。

 私たちは運営の片づけが終わった後に、先生と一緒に病院に行った。

 渚の怪我は軽傷で、一週間ほど安静にしていれば大丈夫らしい。

 私たちは病院から出て少しだけ話すことにした。

 

「私さ、渚に聞いとかなきゃいけないことあるんだけどいい?」

「もちろんいいですけど。急ですね…」

「まあね...これは今聞いとかなきゃいけなくてさ...」

 私は覚悟を決めて、すう…と深呼吸してから真剣な顔で聞いた。

「渚は湊のことどう思ってる?」

 聞いてしまった...本当は聞きたくない。

 聞いてしまったら私は湊のことをあきらめることになってしまう。

「えっと...とても素敵な方だと思いますよ?」

「そんな答えじゃダメ。お願い渚。私がきっぱり諦められるようにして...?」

 本当は嫌だ。答えてほしくない。まだ湊のことはあきらめたくない。

 でも...渚と友達でいるためには聞いておかなければならない。

私は渚の手を取り、切なそうに微笑んだ。

 渚は私の意図を組んでくれたのか真剣な顔になり、私の手を握り返してきた。

「湊君のことは好きです。まだ出会って一か月と短い期間ですが彼の人となりは分かっているつもりです。彼はとても紳士で、困っていたら助けてくれるヒーローです。」

「じゃあ湊の好意には気づいていた?」

「友達として好かれているという自覚はあったんですが恋愛面では自信なかったんです。でもさっき湊君は私のことが好きだと言ってくれました。私はそれに全力で答えたいと思っています。」 

渚は微笑みながらも目はしっかりと覚悟を決めており、私に向けて覚悟を示し拳を握っていた。

 ああ...やっぱりだめか。私には二人の間に入ることはできない。

「よし!わかった!これで私も諦めがついた!これからは私が二人のサポートでも何でもしてあげるから何でも言いなさい!」

私は自分の気持ちを振り切るように元気よくそういった。

 そう言うと渚は目をまん丸くして聞いてきた。

「え...いいんですか...?桃さんも湊君のことが好きなんですよね?」

「何度も言わせないで!私は渚の気持ちを聞けてきっぱりと諦めがついたの!二人は両思いなんでしょ?それに渚と湊が喋っている空間は暖かいんだよね。私は二人のことが大好きだからこそその空間を邪魔したくないし、二人には幸せになってもらいたいの!」

 私は渚の顔は見ずに空を眺めながら言った。

 今は渚の顔は見れそうにないし、少しでも湊のことを思い出したらまた恋心を思い出してしまう。

もうこの恋心は忘れよう。湊は私といるよりも渚といる方が幸せになれる。これは誰かに言われたわけでもない。わたしの中で決めた結論だ。

「でも渚、一つだけ約束してくれない?」

わたしはまた渚に向かって向き直り真剣な顔で話し始めた。

「わかりました。どんなことでも約束します」

「約束はね、渚と湊の二人が付き合ったら絶対に幸せになること!これは絶対に守ってほしいの!それが私が湊のことを諦める条件!私が決めることでも無いんだけどこれだけは譲れないんだ。ごめんね」

「いえ、むしろありがとうございます。桃さんは自分の恋心を諦めてくれたのにさらに私の幸せまでも考えてくれているんです。感謝以外の感情は見つかりません。」

ああ、やっぱり渚は良い子だな。

私の性格が悪いお願いも嫌がらずに感謝してくれる。

こんないい子に好きなられる湊も幸福だよ。

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