恋愛下手な君と僕
羽根とき
第1話
四月六日桜が咲き乱れる季節。様々な出会いがある春今日は俺が高校に入学する日だ。
そんなめでたく、人生の節目の日に俺は走っていた。
「はあ・・・はあ・・・なんで今日に限って寝坊するんだ・・・。確定で遅刻だろうしゆっくり行くか・・・」
息を切らせながらそういうのは、今日から高校一年生の
どうして大事な日に限って自分はいつもやらかしてしまうのだろうか。小学生の時は修学旅行で寝坊して先生に怒られ、中学の時はテストに遅刻をしていた。大事な日に遅刻してしまうくせは早く治さないとダメだろう。
華やかに飾り付けられた校門に自分と同じ新入生っぽい女子が1人いた。
この学校は入学式は新入生とその保護者しか参加しないためそう思った。
とても長く、それでいて綺麗な黒髪に、「The 大和撫子」といったとても綺麗な顔の女の子だった。
その女子に見惚れている時間は今はないと気持ちをリセットし直した。
「入学式に遅刻するんて随分といいご身分なやつだな」
となぜか自分のことは棚に置きその女子のことを心の中で攻めていた。忘れてはいけない自分もしっかりと遅刻者だ。
遅刻者を見つけて安心したため走るのをやめ、歩いて始めた。
女子の方は俺のことを一目見たら不思議そうな顔をし、首を傾げ、その後になぜか笑顔になっていた。当然だろう、人生でも区切りである入学式に遅刻するやつなんてそうそういない。笑顔になったのは自分以外に遅刻者がいたためヘイトが分散されるために安心したのだろう。
その女子はこっちに近づいてきて、俺に話しかけてきた。
「あの、すみません、新入生の方ですか?」
とても綺麗な声だった。その一言だけでも聞き惚れるには十分な程に美声だった。
「は、はい。そうです」
「突然すいません。私も入学式に遅れてしまったのでよければ一緒に行きませんか?2人で行けば怒られ難いでしょうし」
と、とても綺麗な笑顔で言われ、自分の心の中を見透かされているようで居心地が悪かった。
「わ、分かった。とりあえず行こうか。遅刻とはいえこれ以上遅れたら流石にまずいし」
「ふふ、そうですね」
と彼女は 口許を抑えてとても上品に笑っていた。その笑顔は綺麗。自分の拙い語彙力では表せないほどに綺麗で魅力的だった。
一目惚れをした
人生でまさか自分がするとは思っていなかったが自分は今目の前の女の子に一目惚れをした。
体育館で式をやると聞いていたが静かなのでどうやらもう式は終わっているらしく、自分と彼女は急いで自分たちの教室に向かった。
なんの偶然か、彼女とは同じクラスらしくすごい偶然だねと笑い合っていた。
教室に着いた俺たち2人は担任の先生と見られる女の先生に苦笑いされながら迎えられた。
「お、やっときたか・・・、入学式を遅刻するやつのを見たのは初めてだ、しかも2人とはなぁ」
そう言われ、なんともいたたまれない気持ちになり、今日からは絶対にアラームを確認してから寝るようにしようと心に決めた瞬間でもあった。
横の彼女を見ると、彼女も苦笑いをしておりことを考えているのだろう。
「すみません。寝坊して遅刻しました!でも2人も遅刻してくるクラス持てたのラッキーじゃないですか?」
と笑いながら意味が分からないことを先生に言うと
「馬鹿なこと言ってないで早く席に座りなさい。初めてのホームルーム はじめるわよ」
と、先生も笑いながら言っていた。どうやらこの先生はノリもいいようなので仲良くやって行けそうだった。
「あとでまた話しましょう。お礼もしたいですし」
と、彼女に言われなんのお礼だろうと気になりはしたが席につくことにした。
「よし、 気を取り直してホームルーム始めよう。取り敢えず今日は連絡事項を伝えて自己紹介して終わりの予定だ。じゃあまずは連絡事項から・・・・」
と先生がこれからの授業日程、イベントについて伝えてから自己紹介が始まった。
とはいえ、特に特別なこともなく淡々とクラスメイトの自己紹介が進んでいき、一緒に教室に入った彼女の番になった。
「朝比奈 渚です。中学までは清水に住んでいたのですが、都合で引っ越してきました。知り合いがいないので仲良くしてくださると嬉しいです。よろしくお願いします!」
元気に笑顔で挨拶した彼女にはたくさんの拍手と、彼女が席についた瞬間近くの女子が彼女に話しかけているのを見て彼女は人気者になるだろうなと思いながら見ていた。
自己紹介が終わった後は解散になったので帰ろうとしたら1人の男子がニヤニヤしながら声をかけてきた。
「みーなーとー君?なんで今日は朝比奈さんと登校して来たのかなぁ?お前面識ないだろ?」
と小学校からの友達で親友の千谷 翼だった。顔よし、運動神経良し、勉学でも平均以上は取れるなんでもできる超人。もし小学生の時に仲良くなってなかったら関わることはなかった人種だ。
「いやぁ、俺もびっくりだったよ。校門の前でばったりあってさ遅刻者がもう1人いてしかも同じクラスだったとは思わなかったわ」
そう笑いながら冗談ぽく言うと翼は
「ふぅーん。あんな美人さんにばったり会えるとは普段の行いか?てかなんで今日は遅刻したんだよ。今日だけは絶対にしちゃいけない日ランキング上位に入るくら大事な日だろ?」
「まあ、そんなに喋んなかったけどね。めっちゃ急いできたし走ったりしたから喋れなかったけど」
「これからたくさんしゃべることになりそうだけどな?」
ニヤニヤしながらそういう翼の向く方向に目を向けると朝比奈さんがこちらを見て手を振っていた。
「そういえばさっき後で話そうって言われたんだった。ちょっと行ってくる」
「おうよ、いってら」
翼にそう伝えて近くに来たのはいいがたくさんの女子の中心にいる朝比奈さんに声をかけるのはなかなか難易度が高かった。
「朝比奈さん?今、大丈夫?」
そう声をかけこちらを見た朝比奈さんは笑顔で「はい!ちょっとお待ちください。」と女神のようなスマイルで返答してくれた。
しかし朝比奈さんが女子たちに向けていた笑顔はなぜかぎこちなく、俺に向けての笑顔と違うことに気づいたが見なかったことにした。
そんなことを考えていたら朝比奈さんがこちらに近づいてきた。
「すみません、お待たせしました。それでは行きましょうか。」
「え、はい。てか、行くってどこに・・・」
「どこってそれは・・・。あ!千谷さん!湊くん借りていきますね!」
急に名前を呼ばれた翼は驚いた顔こそしていたが、すぐに納得の顔してからニマニマしながら
「はいよー。あ!でも朝比奈さん!湊体力ないからあまり激しい運動は控えてあげてください。ショッピングくらいならいくらでも連れ回してもいいと思うけど」
とかだいぶ適当なことを言われた。まあ運動不足で体力がないことは否定しないけど。
翼に忠告された朝比奈さんは少しだけ小悪魔っぽい顔をしてから
「ふふ・・・。わかりました。じゃあお買い物に行きましょうか。湊くんはお昼ってどうする予定ですか?」
「え、まだだし家に帰ってから食べようと思っていたんですけど。食べに、行きますか?」
「理解が早くて助かります。それでは行きましょうか」
「え、あはい。て、ちょっと待って」
困惑する俺とクラスメイトとさっきまで朝比奈さんの周りにいた女子たちを置いて俺の手を握り教室を出ていった。
教室からは女子たちの黄色い悲鳴と男子達の困惑の声が聞こえて来た。
翼には何があったんだと聞きに行っている男子が数名いたのを最後に見えた。
「朝比奈さん?手!」
「あ、ごめんなさい!急に繋いじゃってごめんなさい。嫌でしたか?」
ぐ・・・そんな顔で言われたら断れる男なんているわけないだろ!
「い・・・嫌じゃないです・・・。」
そう言った瞬間彼女の顔はパァと効果音がついてもおかしくないくらい明るい笑顔になったためもうどうでもよかった。
「ていうか昼食ってどこに行くの?学食?」
「もう、今日は学食が空いていないって先生が言ってたでしょ!先生のお話聞いていなかったんですか?」
腰に手を当てて頬を膨らませながら子供を叱るように言った。
うん可愛い。
「すみません・・・全然聞いていなかったです」
『まあ、聞いていなかったのはあなたのことを見ていたからなんですけどね』とは流石にいえなかったため正直に謝っといた。
「今日行くのは食べ放題です!引っ越してきてあんまりお出かけできなかったから美味しいところ調べてきたんです!湊くんは食べ放題だと元取ろうとするタイプですか?」
「いや・・・俺は美味しく食べれればいいかな。でもいつもよりは多く食べるようにはしているよ」
「私は食べ放題にくるとたくさん食べてしまうのが悩みです。」
「まあ、たくさん食べるのはいいことじゃん。てか今日ここに連れてきてくれたのってなんで?」
学校からここに来るまでずっと考えていたことを聞いてみた。
「いやさ、学校ではお礼をしたいって言ってたけど俺何かお礼されるようなことしてないし。何か他の理由でもあるのかなって思ってさ。」
そういうと朝比奈さんは不思議そうな顔をした。
「?、いえ、本当にただのお礼ですよ。だって今日のHRの前に先生に冗談を言って場を和ませてくれたでしょう?まさか私に対してはお咎めなしだったのは驚きましたけど・・・。あの時冗談を言ったのって私を庇う目的もあったんでしょう?だからそのお礼です。このお店の代金もお支払いします」
「いやいや悪いよ、本当に。別に気にしてもないし朝比奈さんが気にすることでもないよ」
この言葉は謙遜なく本心で別に朝比奈さんを庇ったり、 場を和ませようとしたりなどの気はなかった。しかしこれを朝比奈さんにいうのも違うと思ったため本心は伏せておく。
「いいえ、ここの代金は絶対にお支払いします。あなたにその気がなくても私の決めたことは変えません」
とても真剣な目でとても真面目なことを言われたのでことができなかった。
「わ、わかった。じゃあ今日の分は払ってもらおうかな。でも俺だけ払ってもらうのもあれだし今度俺も朝比奈さんに何か奢らせてよ。またここに来るのもいいし、学食を何回か払うでもいいし。」
ここの代金を払ってもらうのは了承したが今度また朝比奈さんに何かを奢ることを出してみた。
「え、それってまた一緒に食べてくれることですか?」
あ、やっちまった!!!何か言わなきゃ・・・このままだとナチュラルにデートに誘ったキモい男になってしまう。すでにクラスの中心人物になり入学初日に全く知らないやつとご飯を食べれるくらいコミュ力の高い朝比奈さんにキモい男認定されたら明日から学校に行くことができなくなる。
なんとしてでもその状況だけは避けなければならない。俺は平穏を望んでいるのだ。
「いや、朝比奈さんが嫌なら全然いいんだよ!気持ちだけでもって思ってさ!」
必死に言い訳をしてみっともない姿をところで朝比奈さんは口許に手を当ててくすりと笑いながら
「あはは、はは、そんな必死にならなくても大丈夫ですよ。そうですねぇ、わかりました。このままだと話が終わらなそうなので今回は私が折れる事にしましょう。それでは明日また一緒に昼食を食べる事にしましょう」
あれ?今明日もって言った?明日もこの天使みたいな顔見ながらご飯食べないといけないの?結構しんどいかもです。
「分かった。じゃあ明日は学食でも食べようか。普通授業も始まるし学食って初めてだから結構楽しみなんだ!」
中学まではなかった学食。そこで昼食を食べるのが密かに夢だった俺は本当に楽しみだった。
明日の予定が決まったところで2人の軽い自己紹介をしながら食べていたらそろそろ食べ放題の時間が終わる頃だった。
「湊君はこの後って何か予定ありますか?」
「いや、ないよ」
と言うと周りにお花のエフェクトが見えんばかりの笑顔になり話を続けた
「じゃあ一緒にお買い物に行きましょう!新しいお洋服を買おうと思っていたのですが男性の意見も聞いておきたいですし」
言うが早いか朝比奈さんはすぐに席を立って会計のために向かっていった。
「いや、やばいでしょ」
席に取り残された俺はそう呟くしかなかった。
「湊君!これはどうですか?」
とても綺麗で、そしてとても大きな声で試着している服を見せてくる朝比奈さん。とても気まずいしいたたまれない気持ちになる
朝比奈さんが着ている服は黒いロングスカートに、白いオーバーサイズのTシャツを着ていた。
「いいね、よく似合ってると思うよ。」
俺はありきたりな感想を言ったがこれには理由があった。
『こんな可愛い生物がいるのか?』
本当の感想はこれだったが流石に本人にこんなことを言うわけにはいかないのでありきたりな反応になってしまった。
「もう、もっと気が利いた感想はないのですか?でも、ありがとうございます。嬉しいです」
もっと反応に文句を言われるかと思ったがそんなことはなかった。
まああって1日目の男にめちゃくちゃ褒められても困るだろう。
ん?1日目?
ていうか、なんで出会って1日目で一緒に昼食を食べて、一緒に買い物をしているんだ?
一回冷静になって今の状況を整理してみた。
今日は入学式で遅刻→朝比奈さんに会う→今
んんん???そうはならないだろう。
朝比奈さんは昼食の時に庇ってくれたと言っていた。
昼食のときも思ったが本当に朝比奈さんを庇う目的もなかったし、今のような状況になることを望んだわけではなかった。
しかし今はそれが実現している。
俺はなんて幸せ者なんだ。今日一目惚れをした女の子と一緒にお昼を食べて、その後に一緒に買い物をしている。
今日のことはこれから3年間ある高校生活の中で更新されることがないだろうと言い切れるほどに印象的で、楽しいのだ。
今日のことは明日にでも翼に自慢しに行こう。
そして朝比奈さんは試着をしていた服を買って、服の入った袋を大事そうに抱えて満足そうにしていた。
「朝比奈さん今日はありがとう。楽しかったよ。まさか入学して初日にこうなるとは思わなかったけど」
朝比奈さんの買い物が終わりコーヒーを飲みながら休憩をした後に俺たち2人は解散する事にした。
「いえ、こちらこそありがとうございました。私のわがままに付き合っていただきありがとうございました。今更ですが大丈夫でしたか?今日は急に誘ってしまいましたし、入学初日にほぼ初対面の状態で急にお昼を誘うような女と一緒にいるなんて嫌でしたか?」
朝比奈さんはお礼の言葉と共にそうおずおずとした態度で聞いてきた
「いやいや、そんなこと思うわけないじゃん。さっきも言ったけど本当に楽しかったよ。まあ、確かに驚きはしたけど朝比奈さんと一緒にいるのは、なんていうか心地良かったから。明日からもよろしくね。」
そう言うと彼女はどこか呆けているようですぐに顔を赤くしながら
「湊君はそう言うことさらっと言えるのすごいですね…」
と言った。
朝比奈さんに言われたすぐに俺もさっき自分が言った言葉を思い出して恥ずかしくなり顔が赤くなった。
「ま、まあ今日はもう解散しようか。朝比奈さん、また明日」
「は、はい。それじゃあまた明日からもよろしくお願いします」
彼女はぺこりと礼をして歩き出していった。
その後ろ姿をみながら俺は今日あった内容の濃さに苦笑した。
まさか一瞬で恋に落ちてその相手とデートをする事になるとは。
「あー、やっぱり朝比奈さんは後ろ姿でも絵になるなぁ」
なかなか気持ち悪い独り言を言ってから俺も家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます