2023年4月14日(金)『ここではない(けれど馴染みのある)どこかへ』
本を読むことを旅と比喩するなら、いつも読んでいる種類のものから遠いものを読むというのは一つの冒険になる。ぼくらはいつだって退屈していて、何か新しくて面白いものがないか探している。だから本を読むときも、自分がこれまで読んでこなかったようなものを積極的に読んで——いたりは、きっとしない。
もし誰もが冒険心溢れる乱読家なら、本のレコメンドシステムというものは永遠に機能しないだろう。昨日読んだ本と似た部分のある本を明日も読むだろうという推測が成り立つから、レコメンドという概念が生まれたのだ。
人間の本能と、後天的に文化的に獲得した性質を分けるのは難しいけれど、人間は変化を嫌うというのは本能としてカウントしてもよいかもしれない。人間のみならず大半の生物において、環境変化というのは九分九厘が死のリスクの増大を意味しただろうから。
それでもせめてエンタメくらい冒険したらよさそうなものを、ぼくらの本能は脳の隅々まで根を張っているらしい。理解しがたいものをコストを払って理解しようと試み、それでも面白くなかった……というリスクをつい避けたくなる。躊躇いなく冒険ができるのは、どの時代でもどこかブレーキの壊れた「変わりもの」なのだ。
しかしそんなぼくらの優秀な本能は、長めのスパンで発生するリスクまでは面倒を見てくれない。変化を避けて、避け続けて辿り着いた先で、何も変えられなかった自分に失望するリスクは、どうも勘定の外らしい。老いてから最も後悔することの一つは「もっと冒険しておけばよかった」とのことだ。そこは本能ではなく、人間らしさの根幹たる理性の出番なのだろう。
冒険を嫌い現状を守る真っ当そうな個体は動物的であり、
あえてリスクを取って道なき道に挑む変わり者の個体は人間的なのだ。
人間らしくあるためには変人でなければならない。
ここではないどこかへ行きたいと願いながら、見慣れた風景とほとんど違わない場所をぐるぐる回っているなら、それは常識的で動物的な振る舞いでしかない。
見識を広めたいと思いながらいつも同じようなジャンルの物語を選んでいるなら、ぐっとその手を隣の棚まで伸ばしてみる。そこにはこれまで見たこともない、ここではないどこかへの入り口があるかもしれない——し、ないかもしれない(人生はそんなに甘くない)。
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