2023年3月28日(火)『Go to 異世界 -ミサイル一つですべてご破産になる時代におけるコスパについて-』
異世界ものが何故人気なのか? という問いは随分検討されてきたと思いますが、個人的には「鬱屈した読者がせめて創作物の中で現実逃避を望んで…」といった繊細なメンタリティの文脈で語るにはあまりに広がり方が大きいと思っていて、どちらかというと「恐ろしいまでのリーダビリティの高さ」の方が理由として適当だろうと思います。
みんなが見たことのある世界観、パターン化されてスッと入っていける転移・転生までのプロセス、中身まで一瞬で了解できるタイトル。
これらは全て、動画サブスクやウェブ漫画などのエンタメで溢れ、可処分時間の奪い合い全盛期の現代において、小説というまどろっこしいメディアが生き残るための戦略と捉えた方が理解しやすい。
みんな早いところ「味のする場所」まで食べ進んで、そのまま食べ続けるか別のものを食べるか決めたいわけですよね。嗚呼エンタメ飽食時代!
心を殺すような忙しさの中で見つけたわずかな自由時間に味わうものはせめて「普通に」美味しいものであってほしい。そういう真っ当で健やかなコスパ発想が集合体になると「右も左も異世界モノばかり」みたいな奇妙な光景に早変わりするわけです。興味深いことです。
多分現代においては、JRPG的ファンタジーではないハードファンタジーなどのジャンルは奇特な人でない限り、「既に高い評価を得ているもの」くらいしか読みたくないのではないかと思います。脳内にあれこれ珍妙な風景を想像させられ、現実世界との常識の違いに疑問を抱えつつ、ようやく読み通した作品がつまらないものであったら。それも高評価ながら自分には合わなかったのではなく、ただの凡作だったら。「時間を無駄にしたな」と思ってしまいますよね。まあ無駄ではない時間などないのですけどね。有意義な時間などないのと同じように。
私達が生産性をどれだけ上げたところでいつかは地球は滅亡するし、そうでなくともちょっとしたボタンの掛け違えや権力者の気まぐれで何もかもご破産になってしまうこの世の中における「コスパ」とは果たして何なのか。結局のところいざ自分が死ぬというときに「まあ楽しかったし良かったな」と思えることが最大のパフォーマンスなのだとしたら死ぬときまでにたくさんの楽しかった経験を積むのが最適解だし、楽しむことを先送りにしていたらその前に命が尽きるかもしれない。
小説一つ腰を据えて楽しめないような生産性の追いかけ方をすることは本当の意味でコスパは良いのか? どうなんだ? と問い続けることが真のコスパフリークとしてのスタンスであり、短い時間でサクッと楽しめてよかったね、で思考停止しているようではまだまだひよっこなわけです。
まああんまりコスパ追求するとそもそも生きることはコスパ悪いみたいな闇悟りに陥ったりするので何事もほどほどに、「たまには何やらわかりにくいファンタジーでも読んでみるかーつまんないかもしれないけど」くらいの心の余裕が欲しいものですね。
ここで「たとえばこんな小説などいかがですか」と自分の作品を取り出さないところが私の奥ゆかしいところです。
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