事件の、その後
ニコラが救出されて、1週間。事件は終息に向かっていた。
誘拐された女性達は、ほぼ身元が判明した。
既に殺され、火葬されてしまった人もいるけれど。
アリシアの夫は報せを聞き、領地からすっ飛んできたが。自分は関係無い…の一点張り。
アリシアと下男2人、メイド1人以外は何も知らないようだったので無罪。
だが被害者家族への賠償や、社交界の評判を考えて。もうあの家は、貴族として終わりだろう…
今回助け出された女性のうち…半数はもう、手遅れだった。
その場で死亡が確認されたり、数日後に息絶えたり、回復の見込めない廃人…と断定されてしまったり。
ニコラより後の3人は、数日で目を覚ました。彼女らは皆、ニコラに感謝していた。
「ニコラさんが1人を逃してくれたお陰で、事件は終わりを迎えました。そうでなかったら…夫人が捕まるまでの間、もっと多くの被害が出ていたことでしょう。
…ロット卿。彼女はまだ…?」
「はい。未だ目を覚ましません…」
「そう…」
レイリアはニコラに何かしらの礼をするべきだ、と国王に進言する。それには王も同意したが、肝心のニコラが起きない。
主犯のアリシアは…数百人の娘を虐殺してきた、と判明。先王の時代からで、もう10年近く続いていた。
動機は…自分の美貌を保つため。
彼女は若く美しい娘の血を浴びると、老化が遅くなるという迷信を信じた。かつては浴槽一杯に血を溜めて、そこに身を落としていたほどに。
ただし治安が良くなり、娘を手に入れるのも苦労するようになる。それまでは誘拐してすぐ殺していたが、少しでも長生きさせて、血を作らせた。
アリシアは当然処刑。最後まで「たかが平民のために、私を犠牲にするの!?」と喚いていたけれど。
下男2人も拷問の末処刑。そしてメイド…
「どうして最後、夫人に言われた通りに火をつけなかった?」
「……………」
彼女の行動が分からない。逃げ場の無い地下室で火を放っていたら、ニコラ達は助からなかった。
犯罪の片棒を担いだくせに、罪から逃げるつもりだったのか?
「……私もかつて。奥様に…家畜として拾われました。ですがどうしても死にたくなくて…泣き叫びながら、命乞いをしました。
なんでもします、手足となります。代わりの娘をいくらでも用意します…と。
それからは宣言通り、奥様の手足として…多くの罪なき人を不幸にしました。何度も自首しようと思ったけど、今更私も処刑は免れない…
結局、自分が1番可愛かったんですね。
今回、騎士様がお屋敷に来て。もう終わりだ…逃げられない、と悟りました。だから…
最後の足掻きに、1度だけ真っ当な行いをしたかった。間に合う子達だけでも、生かしたかった。
贖罪にもなりはしない、自己満足です。褒められるとも思いません。減刑も望みません。
…結局こんな人生を歩むくらいなら。数年前のあの日…大人しく殺されればよかった…」
メイドはそれきり何も語らなかった。
その翌日…火刑に処された。
関係者の処罰は終わった。
ああ…それともう1人。ニコラを強姦しようとした男。
「俺は何も知らない!ある娘を孕ませたら50万くれるって言うから!!
目隠しされて馬車に乗せられて、連れてかれたのがあの部屋なんだよ!!信じてくれえっ!!!」
美男子の遊び人として有名だったので、メイドに目を付けられただけ…ど。
ロット、ハント、ゼラ、ついでにステランにボッコボコにされて。ご自慢の顔はもう、無残なことになっていた。
ニコラが眠って1ヶ月。
その間にステランは国を後にした。全ての予定を終えたら、また来ると言い残して。
被害者の何人かは日常に戻ったが、容体が急変して死亡したり、ニコラ同様眠っている者もいる。
ニコラは首都の中心街の、大きな病院の個室に入院している。
「こんにちは。アールくん…ニコラさん」
この日見舞いにきたのは、クランスとガイル。ニコラは女の子だとバレてしまったので、兵士は退職した。
クランスはニコラに、ほのかな恋心を抱きかけたが。たまたま居合わせたゼラが…ひっっっくい声で「ニコラちゃんを邪な目で見たら殺す」と宣言。
度胸のないクランスは、半泣きで首を縦に振った。お友達でいることは許してもらえたようだが。
「いらっしゃい」
病室には大体アール、エリカのどっちかがいる。子供達も病院の近くに家を用意してもらって引っ越した。
「……早く、よくなってね」
「お嬢ちゃんにいずれ、門に遊びに来るよう伝えてくれ。待ってるのはオッサンばかりで悪いけどな」
「俺はオッサンじゃありませんー」
「お前もあっちゅー間に仲間入りだよ、おめでとう」
「あはは、伝えます」
いつもだったら、こんなやり取りの中心に…ニコラがいるのに。
アールは笑顔の下で、涙を流し続けている。
他にもレイリアや、ニコラが助けた女の子達も見舞いに来た。
まだまだ言葉は届かないけれど。
ニコラが眠り続けて、3ヶ月。どうしても目覚めない。
薬はもう抜けているはず…ならば。体質的に、他の女性より効きすぎていたのか。それか精神を、酷く傷付けたか。
「……ニコラ…」
3騎士は毎日、泊まりの任務が無い日は欠かさず見舞いにきた。今もロットは、ベッドに腰掛けてニコラの頬を撫でる。
「…………起きてくれ…きみの声が聞きたい…
僕の名前を、呼んで…」
少し伸びた髪を撫でて、想いを吐露する。
病室には2人きりだったが、ゼラが扉を開ける。涙するロットに近付き、深呼吸。
「ロット卿。俺は…俺も、ニコラちゃんが好きだ」
「……………」
「ずっと…あの事件が起こる前も、その後も考え続けた。そして…
ニコラちゃんの笑顔を、俺が誰よりも近く、隣で見ていたい。守りたい…失いたくない。
…家族に、なりたい」
「そうか。じゃあ僕らはライバル…か」
「……負けねえし」
そうして互いに、小さく笑った。
すると今度は、ハントがそろっと入ってきた。今の会話は聞こえていなかったのか、特に言及はしなかったが…
ロット達の反対側に行き、ニコラの頬を突つきながら口を開く。
「なあ…俺はやっぱ、責任を取るべきだよな…!?」
「「は?」」
「プロポーズの言葉は何がいい!?そん時は薔薇の花束と指輪と、あと何が必要!?」
「「は???」」
何言ってんだコイツ?と2人の心は1つになった。
ハントは至って真面目で、頭を抱えながら続ける。
「だって…!怪我させたり、男だと思ってやたらとスキンシップしてたし!!
何より…嫁入り前の娘の裸見ちゃったし、触ったし!!もう俺、男として逃げる訳にはいかねえじゃん!?」
「いやいや、裸くらいで何言ってんの。それでいったら俺、何人の責任取ればいいのか分かんねーし」
「「(サラッと最低な発言だ…)」」
まあ、元遊び人のゼラは放っておいて。
これ以上ライバルを増やしてたまるか!なロットとゼラは、全力でハントの考えを否定する。
「責任なら兄である僕が取る!お前は何も気にするな、ニコラはいずれ姉になるから結果オーライだ」
「馬っ鹿じゃねーの!?ここは女性の扱いに長けている、俺に任せろ!」
「何言ってんだテメエは!ニコラのことエロい目で見てんじゃねえよっ!!」
「はぁーいチェリーボーイはすっこんでなぁ!!なんでもエロに結びつけんなよ思春期か!!」
「うるせえ下半身に脳みそついてるクセに!お前王宮のメイド達から『夜の騎士団長』って呼ばれてんの知ってんのか!?」
「初耳だけど!?うっそだろ…!」
「悪い噂もない、実力もある…僕こそがニコラに相応しい。何より、彼氏はこの僕だ!」
「「契約彼氏のクセにイキってんじゃねーーー!!!」」
ニコラのベッドを挟んで、3人の言い合いはヒートアップ。
その様子を…アール以下子供達が、廊下から覗いていた。
「…何やってんだろう、あの人達。病室で…」
「うーん。前ににーちゃんが言っていた…「顔だけで男を判断しちゃダメ」の典型例ね。3人共残念なイケメンの類か…
あたしはフツメンで誠実で、まともな男性と結婚するわ」
「わたしも」
「マチカも!」
「(少女の夢を打ち砕いている…)」
そんな風に…騒がしい日々は過ぎ。
ニコラが眠り続けて…半年が過ぎた。
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