打ち上げ


「えー、それでは…かんぱーい!!」


 ニコラに続き、かんぱーい!と揃った声が上がった。

 吟遊詩人の初バイト?を終えたニコラ達は、8人で打ち上げだ。未成年5人はジュースだが。


「まあまあだったね!でも収入と労力が見合わないから、何度も続けて固定客をゲットしないとな〜」

「連日できないのがツラいね…」


 ニコラは着替え済み、別のお店に移動した。みんなから褒められて、照れながら「ありがとー」と笑顔になる。


「今日はお兄さん達の奢りだからね〜。好きなのじゃんじゃん頼んじゃいな!」


 ゼラの言葉に、わーい!と4人は張り切って注文する。ニコラは慌てて自分も払うと主張するが…


「ダメよにーちゃん!ここは男のカイショーの見せどころなんだからっ!」

「エリカ、酔ってないよね?」


 お兄さん達が言うより先に、エリカがグラスをテーブルに叩き付けながら大声を出す。これは雰囲気に酔っているかもしれない。


「とーにーかーくー!ろんちゃん、はとちゃん、ぜらちん!今日はゴチでーす♡」

「「「ゴチです!!」」」

「ぜらちん!?え、俺のこと!?」


 ゼラもすっかり仲間入りし、賑やかな宴会は続く。

 騎士3人はたくさん食べて飲んで、子供達もいっぱい注文して。ニコラだけ遠慮がちに食べていた。



「ねーねー、ぜらちんってどんな女の子がタイプなの~?」

「へ?」

「ピッチピチの10歳なんてどーお?なんてねっ♡」


 エリカがゼラと腕を組ながら、絡み酒のように迫る。ニコラをチラチラ見ながら、年下はいいけど10歳は犯罪かな~と逃げるゼラだが。


「いいんじゃない?8年後なら。わたしの元婚約者も10歳上だったし」


 ニコラが焼き串を頬張りながらそう言うと…マチカまでも全員が「えええええええっ!!?」と絶叫した。


「そ…そんなに驚く…?言ってなかったっけ…」

「いやっ、そ…!詳しく!!!」


 ロットは焦った様子でニコラの肩を掴み、ずいっと顔を近付ける。


「いや…わたしが元貴族ってのは知ってるよね?」

「え、俺聞いてない」

「あ。えーと…そうなの!そんでその時、親が決めた婚約者がいたの!…でももう解消されてるはず!そんだけ、はいおしまい!!」


 ニコラはジュースを呷り、これ以上口を開かないスタイルだ。

 ハントだけ「10歳上の女性だよな?」とか考えているが、ロットとゼラは顔色を青くさせた。婚約者のことを語るニコラは…頬を染めて、恋する乙女のような表情だから。


「はずってなんだ…?きちんと書面にしたり、言葉で約束したのか…?」

「いや?だって急に追い出されて、最後に会えもしなかったし…」

「「それは解消してない!!」」

「そうなの?でも…わたしもう貴族じゃないし、相手は関係を続ける理由が無いじゃん」

「わからないじゃん!?」


 張本人はあっけらかんとしている。

 2人の慌てように…エリカは何かピーンときたようだ。


「(あれれ~?ろんちゃんだけじゃなくて…ぜらちんも?やだぁ、にーちゃんモテモテ♡)」


 にやにやにや。イケメン爽やかお兄さんと、真面目で堅物お兄さん。どっちがイイかな~♡とか考えてる。



 ただそれ以上ニコラは何も言わず、誰も聞けず。夜も遅いのでお開きにすることに。お会計はもちろん、お兄さん達で割り勘にした。


「せめて!!婚約者の名前を教えてくれ…!」


 大きな馬車を借りて5人を家に送った後。ロットが、家に入ろうとするニコラの腕を掴んで耳打ちした。


 うーん…と少し考えて。顔を近付けて…


「…ルーファス。ツェンレイのトルネリ州候家、ルーファス様だよ」

「ルーファス…!」


 どんなヤツなのか、徹底的に調べてやる…!と、ロットは対抗意識を燃やすのであった。

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