吟遊詩人 ニーナ
生まれて初めて恋人ができたことに、浮かれるロット。
ニコラと手を繋ぎ、王宮内をわざと遠回りして厩舎に向かう。その間ニコラは、目立ってる!めっちゃ見られてる!!とあわあわ。
そして馬にタンデムし、存分にイチャラブっぷりを見せつけながら王宮を出て行った。
「なあ、マジでニコラと付き合ってんの…?」
「マジだ」
「マジか…」
弟のハントは複雑そうな表情。独身寮の食堂にて、向かい合ってディナーである。現在第1騎士団では、その話題で持ちきりだ。ハントの耳に届かない訳がない。
可愛い弟分と、兄が恋仲に。なんとなく…両親が目の前でイチャついているのを見るような気分になる。
「確かに可愛いけど…さぁ…」
「?なんで…あっ」
「あ?」
そういえば、ハントはまだニコラを男の子だと勘違いしているのだった。なんかもう、そのことを忘れていた。
コイツには話しとくか…。ロットは耳貸せとジェスチャーし、ハントが顔を近付けると…
「おいーす、お2人さん。俺も一緒にいーい?」
ガチャン!とトレーを置き、答えも聞かずにゼラがロットの隣に座った。
「んだオイ」
「うっせ」
ハントとゼラはこうして軽くいがみ合うが、嫌っている訳ではない。
「そういやお前も、最近遊んでないって噂だよな」
「………何それ」
「だって前は、仕事終わったらソッコー街に繰り出してたじゃん。朝帰りとか普通だったし」
「あー…はいはい」
それが現在は、女性のお誘いも全て断っている。以前だったら二つ返事で乗っていたというのに。
という会話を、ロットは無言で食べながら聞いていた。
「(ふん…今更ニコラによく見られたいから、自粛してるだけだろ)そうだ。明日はついに…ニコラが弾き語りデビューする日だからな」
「わーってるよ」
「誰が迎えに行くんだ?」
「そりゃ僕…「俺が行く」は?」
ロットは険しい顔を作ってみせる。するとゼラは鼻で笑い…
「はんっ、ロット卿って束縛系〜?もっと信頼してないと嫌われんよ?」
「恋人に気がある男と2人きりにさせたくない…通常の感性じゃないか?」
「え?気がある?ゼラ卿も?え???」
ゴゴゴゴゴ… 静かに闘志を燃やす2人。ビッキビキに青筋を浮かべて、スプーンを握り潰す。
どっちが迎えに行くかで言い合いを始めてしまって。ハントはついていけず…そっと離脱。数分後。
「彼氏ヅラうざ〜」
「彼氏だからな」
「契約関係のクセによぉ!?」(小声)
「契約ですら関係ないお前に言われたくない!!」(小声)
ガタッ
「明日は俺が迎えに行くって、ニコラに電話してきたから」
「「はあっ!!?」」
「めんどくせーんだよお前ら」
「「……………」」
こうして微妙な空気の中食事は終わった。
さて、翌日。
「おはよう。お迎えありがとう」
「おうよ〜」
衣装とサーパを入れたカバンを持ち、ニコラは「行ってきまーす!」と元気よく出発。
ハントは恐る恐る抱っこして…超優しく馬に乗せた。まだ触れるのは怖いらしい。
「「「「いってらっしゃーい!…さて」」」」
子供達も笑顔で見送る…が。
馬が遠ざかってすぐ、すちゃっとサングラス装備。
よし、行くぞ!と4人で家を飛び出した。
着替えの場所に選んだのは、休憩もできる食事処。ただ休憩とは…そういう理由で使う人が多いけど。
簡単に食事をして、2階にある個室に入る。ハントは廊下で待機。
「お待たせー」
「……………へ?」
ただ…出てきたニコラに絶句した。
何せ彼女は長いウィッグを付けて、軽くメイクも施し。華やかな衣装に身を包み…極めつけは、ミニスカート。白く細い足を惜しげなく見せている。ハントの視線はそこに釘付けになった。
「み…みじか、すぎる」
「あーこれ?エリカがねえ、絶対この方が可愛い!って譲らなくて。下にスパッツ穿いてるから平気だよ」
「ごぶっ!!?」
ニコラはピラっとスカートをまくり、中を見せる。はしたない!とハントは慌てて直した。
いや、なんで俺は意識してんだ!?相手は男だぞ!!とどうにか冷静を保とうとする。
「(…ん?なんで女装するんだ…?
!またゼラ卿の趣味か!?あんのやろぉ…!)」
勝手に疑問に思い、勝手に解決する男。こうやって真実を知る機会を、自分で悉く潰しているのだ。
「さて…行きますか!」
ニコラはローブを羽織り、フードを被って顔も隠す。
食事処を出て…あらかじめ目星を付けていた広場に向かう。
そこは大層賑わっており、子供達が駆け回り若い男女が腕を組んで歩き。チラホラ屋台もあり、大道芸を披露する男もいる。
「こっちこっち〜」
白い歯を見せにこやかに手を振るのは、ベンチを確保しといたゼラ。いつものように爽やかな風が彼の周囲を流れ、『待ち合わせの男』的なタイトルが付きそうな絵になっている。
「ありがと、ゼラくん」
「いいよ〜……」
「?」
パサ…とローブを脱ぐと、ゼラも絶句した。ハントは「え、お前の趣味じゃねえの?」と困惑気味。
「………肌、見せすぎじゃね?」
「そう?ゼラくん、慣れてるんじゃない?」
「ぐはっ」
ニコラの純粋な疑問に悶絶する。もう完璧に、遊び人認定されている。
まあ確かに、もっと露出した女性と遊んだりしていましたが。脱がせたりしましたが。
年下の意識している女の子に言われちゃあ…心の柔らかい部分が引き裂かれるような痛みがある。
項垂れるゼラは置いといて、ニコラは準備をする。すでに若干の注目を浴びており、何事かと通行人がチラチラ見ていた。
男は美少女のニコラを、女はイケメンのゼラとハントに頬を染めている。
「ふう…コホン。こんにちは〜、ニーナと申します。よかったら聞いていってくださいね〜」
ゼラとハントはベンチからそっと離れた。何かあったらすぐ動けるように、近くに待機だ。
足を組んでサーパを構え…演奏が始まった。
「〜♪」
ざわざわ なんだ、この音色? 綺麗な声… あっちから聞こえるぞ
数人が足を止めて、音の出所を探す。
そこには目を伏せて歌を紡ぐ少女がいる。今回はウルシーラで流行っている曲をチョイスして、心を込めて声に乗せる。
「……ふう」
歌い切れば、おー! と拍手がまばらに聞こえる。立ち止まってくれたのは10人程か…初日にしては上出来だ。
「……ん?」
いや待て。最前列で…サングラスをして並び、大きな拍手を送る4人の子供達は。どこからどう見ても、あの4人である。
「……ふはっ!ありがとうございます。では2曲目、どうぞ」
そんなアール達の後ろでは、ロットも拍手をしてくれる。客の半分が身内だ!と内心悲しいような嬉しいような…笑いを堪えるのも大変だ。
次の曲は…ツェンレイの恋愛歌をウルシーラ語に訳したもの。
透き通る歌声と、切ない歌詞に惹かれてまた数人が足を止め…
集まったチップは3000ウル程だけれど、まあまあ成功と言える結果に終わった。
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