嫁候補


 双子の家は大豪邸…という訳ではないが。貴族のお屋敷としてそれなりに広く、素朴なものだった。


「「ただいまー」」

「「お邪魔しまーす」」


 玄関を開ければパーティーの準備中。使用人達が一斉に扉に目を向けた。


「お帰りなさい!ま…せ…?」


 そこにはメイドが2人、従僕が1人。驚きに目をひん剥く。


「(え、誰あの金髪さん?イッケメーン)」

「(騎士の制服…まさか!お友達…?初めてじゃない!?)」

「(いや、それより何より。あの…小柄な少女は…!?)」


「?」にこっ


 メイドの1人と目が合って、ニコラは笑顔を見せた。その反応に、3人は確信する。


「「「(お…お嫁さんだーーーっ!!どっちのだーーー!?)」」」


 あーらら。えらいこっちゃ。





「あ…騎士仲間と。お友達…?」

「はい!ロット卿とハント卿にはいつもお世話になっております、友人のニコラと申します」


 ふかぶか~…頭を下げるニコラ、軽く会釈するゼラ。場所は応接間、双子のご両親と顔合わせである。

 屋敷の者は全員、ニコラを知っている。2人が何度も話しているから…だけど…


「「(2人の口ぶりから、少年だと思ってた…)」」



 来るまでの間に、ここでは性別を隠さないと話し合って決めた。


「その方が後で面倒にならなそうだし…」ボソッ

「ん?ロット何か言った?」

「何も?」


 ニコラの職場とはかなり離れているし、バレても問題ないだろう。

 ハントは大丈夫、単純だから。という結論に至ったのだ。



 双子は着替えてくるということで、両親、ニコラ、ゼラ、給仕のみ残った。


「その…ニコラ、さん?」

「はい」


 それまで和やかなムードだったのだが、母親が恐る恐る話し掛ける。


「ハントが…腕を折ってしまった子って。貴女、なのよね?」

「え?」


 声を上げたのはゼラだ。ソファーの隣に座るニコラを見下ろした。当の本人は今まで完全に忘れていたかのように、懐かしげに微笑んだ。


「そんなこともありましたね。はい、わたしです。でも…」

「「ごめんなさいっ!!!」」

「うえっ!?」

「ニコラちゃん!?俺初耳なんだけどー!!?」

「言い触らすことでもないし…」


 両親は土下座せんほどの勢い。

 その話は聞いていたし、キツめに叱っておいたけど。女の子だとは知らなかった!!!


「あああ!こんな可憐なお嬢さんを…!!」

「本当にごめんなさい!責任は取らせますから!」

「責任は結構です!俺が取りますんで!!」

「ゼラくん関係ないよね?」

「入籍はいつにしますか!?」

「未成年なので…」

「あの馬鹿息子!!未成年に手を出した…!?」

「出されてません」


 この大騒ぎは、双子が戻ってくるまで続いた。




 その後はニコラが「ハントとは和解した。今はとっても仲良し」と説明したことにより、両親もほっと胸を撫で下ろす。

 ただゼラは超絶不機嫌でハントを睨んだ。


「あーあー。ちょっとハント卿、ニコラちゃんに触らないでもらえますー?また怪我させたら俺ガチで怒るよー?」

「ぐ…!」

「ゼラくん、いじめちゃ駄目だよ」

「ニコラちゃんやっさしー…」


 それよりニコラは、「このお肉うまー」だった。

 パーティーが始まると、使用人も一緒になって楽しんだ。実家じゃあり得なかったな…と感慨深いものがある。


 ふと、ロットの胸元を見ると。プレゼントしたばかりの…青いネクタイを着けている。視線に気付いたロットが笑顔でネクタイをピラピラさせると、嬉しくなって小さく笑った。

 対抗してハントも両手を挙げて、手袋使ってるぞ!!とダイナミックにアピール。穏やかな空間で、ゼラだけが血走った目で悔しがっていた…




「あの、ニコラ様!」

「はい?」


 食事中、若いメイド3人が声を掛けてきた。頬を染めていて、どことなく気合が入っているような。


「あの!坊っちゃんとは…どういったご関係で…!?」


 ずずずいっ!と詰められ、流石に腰が引ける。


「と、友達ですが…」

「ロット様も、ハント様も!?」

「ゼラ卿も!?」

「どなたも、男性として「いいなー」と思う方はいないのですかっ!?」

「ひええ…」


 彼女達の言わんとすることは理解できる。男が若い女を家に呼ぶ…しかも初めて。恋仲と思われても仕方あるまい。

 ニコラは自分は平民です、と言っているのだが。そんなの関係ない!と一刀両断。会場の端っこに連行された。


「長男でないお2人は、恋愛もわりと自由なんですよ!」

「どうですか?どちらも性格には難アリですけど」

「お顔は結構イケメンだと思いません?」

「えっと…」


「「……………」」


 さり気なく近寄り、ものすごく聞き耳立てるロットとゼラ。ハントは「あいつら変な勘違いしてんな〜。ニコラ可愛いもんな〜」と優雅に酒を飲んでいる。


「んと…わたし。誰とも恋愛する気はなくて…」

「「「えーーーっ!?」」」


 若くて可愛いのにもったいない!とメイドは言う。

 とはいえ…お祝いの席で「父親の浮気で不幸になったんで、恋愛はしたくないですね〜」なんて空気の読めないことは言えず。曖昧に笑って誤魔化す。



「こら、ニコラを困らすな」

「「「ロット様!」」」


 きゃあきゃあ言いながら、メイドは距離を取る。ロットはニコラの肩を抱いたはいいが…その後どうすればいいのか困った。

 というか。ドレスで素肌剥き出しの肩に、素手で触れてる。ロットはドッキドキ。


「(あ…あったかい…!肌すべすべ…)」

「(な、なんで肩撫でてるの…?くすぐったい…)」

「(うわー、変態っぽいー)」



 そんなこんなで楽しい?パーティーは、まだまだ続く。

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