プレゼント合戦


 双子の実家に帰る前に。

 ロットがドレスを見に行こう…とブティックを目指す。


「え、なんでドレス?」

「ゼラ卿がニコラに着せたいって」しれっ

「てんめええええええっ!!?」

「えーーー!?ちょ、うおい!!!」


 荒ぶるハントと濡れ衣を着せられたゼラ。彼らを放置して、ニコラの背を押しロットは入店した。



「いらっしゃいませ…あら?」

「この子のドレスを買いたい」

「は、はい」


 どう見ても少年の格好をしているが、店員はにこやかに対応した。

 ニコラは店内を見渡し、不安げにロットの裾を引っ張った。


「ちょっと、こんな高いのボク買えないよ…!」

「僕が出す」

「ファッ!!?」


 ロットは騎士爵位しか持っていないが、あまりお金を使わないため有り余っていた。既製品のドレスくらい安いものだ。

 だがニコラは小声で反発した。


「いっ、いくらすると思ってるのっ!?こんなん、最低でも100万ウルはいくでしょ!?」

「遅くなったが…誕生日プレゼントだと思って、受け取ってくれ」

「高過ぎるわ!!婚約者でもあるまいし!」

「…………(※軽くショック)」


 ニコラ、魂の叫び。それも虚しく店内の休憩スペースに強引に座らされた。その間ロットは店員さんといくつか言葉を交わし、ニコラを呼ぶ。



 買う気はないが。おっかなびっくり、そろ〜…とドレスに手を伸ばす。ニコラだって女の子なので…可愛いドレスには興味津々ですとも。


「こ…これ、おいくらですか…?」


 これ買って〜♡とは言えないけど。聞くだけタダですし?


「そちらは10万ウルでございます」

「やっっっす!!?」


 超絶失礼な言葉を叫び、はっ!と口元を手で押さえる。


「(いや安すぎない?わたしの貯金でも買えちゃうよ!?中古でもあるまいし!)」

「実はお客様は、当店100万人目の来店者様でして。記念にお好きなドレスを1着限り、10万ウルで提供させていただきます!」

「うそっ!!?」


 はい、ロットの嘘です。


 半信半疑のニコラだが…あまりにも店員さんが堂々としているので。次第に信じ始めた。


「じゃ…じゃあ、これも…?」

「はい!」

「ひゃあ〜…!」


 こんな素敵なドレス、令嬢時代にも着たことない!いやでも、買ってもらうのは…でも誕生日プレゼント…

 うだうだ考えるニコラ。そこへロットが隣に並んだ。


「僕が着てほしい、って頼んだんだ。よかったら好きなのを選んでくれ」

「ロット…」


 そこまで言うのなら。記念だし…高給取りだろうし。

 これがいいです!と選んだのは、水色のふんわりしたラインのドレスだった。(250万ウル)



 ロットが購入の手続きをしている間に、奥の部屋に通され着替える。店員さんは本当に女の子だったことに驚いたが、「男装は趣味です」と言ったら、振りかもしれないが納得した。

 メイクもされて…短いけれど髪も整えられて。



「ロット〜。見てみて、似合うっ?」

「「「………………」」」

「あれ、増えてる」


 いつの間にかハントとゼラも合流していた。

 男連中は、頬を染めて笑いドレスの裾をつまむニコラに…目を奪われる。


「…似合うよ、ニコラちゃん。まるで妖精みたいな愛らしさだ。ねえねえ、俺にエスコートさせて?」


 ゼラは流れるように褒める。跪きニコラの手を取り、指先にキスをした。

 それを見てハントは我に帰り、ゼラを突き飛ばす。


「どふぉっ!?」

「離さんか変態騎士!!!

 ニコラ、めっちゃ可愛い!!マジで、ほんとに!

 ……ん?その胸、どうなってんの?」


 その視線は胸に注がれている。微妙に谷間が見えており、しっかりと膨らんでいるので。

 もうハントにも隠さなくていいかな?とは思うけど。一応苦し紛れの言い訳をしてみる。


「あ。んと…ち、近くの肉を寄せまくって…」

「すげえ!!!」


 通じたようだ。彼は疑うことを知らないのかもしれない。



「……ニコラ」

「うん!」


 ロットは顔を真っ赤にして。ニコラの両手を取って…目を合わせられないでいる。


「あの……か、可愛い…」

「ありがとう!」

「いや…社交辞令とかじゃ、なくて。本当に…綺麗だ…」

「え…あ、ありがとう…?」


 まるで思春期の少年のような反応に、ニコラまで照れてしまう。

 繋がれた手が熱い…店員さんの生温かい視線も気にならない。



 そんな空気を壊すのは、やはりハントとゼラである。


「は?このドレス、ロット卿からのプレゼント?

 ………ニコラちゃん、ここで待ってて!」

「?」

「あっ!俺もー!!」


 ゼラが飛び出し、ハントも負けじと後を追う。

 まあそのうち戻って来るだろう、と。残された2人はお茶を飲みながら待つ。



 数十分後。


「お待たせー!!ニコラちゃん、はいこれ!

 やっぱドレスには、アクセサリーが必要っしょ!!」

「え?……絶対高いよねこれ!?」


 ゼラが手にしている箱には…ピアスとネックレスのセットが。エメラルドをメインに使っている。


 次いでハントもダッシュで帰ってきた。


「はい!!!俺よくわかんねえから、オススメのやつ買ってきた!!」

「わ…可愛い…」


 彼が買ってきたのはヒール。水色のドレスに似合うやつ、と店員さんに相談した結果のもの。

 あれ…ニコラは男の子だよな?これでいいのか…?と思いはしたけど。似合いそうだからいいか!!と勢いだけで購入。

 装飾に真珠があしらわれている、これまたお高そうな物にニコラは魂が抜ける。

 どっちも貰えない!!と主張するけど。


「……そっかぁ…似合うと…思ったのになあ…」

「う……!」


 ゼラがしょんぼりと箱を閉じる。罪悪感を刺激する作戦で、効果は抜群だ。


「…お、俺は…ただ…ニコラが、喜んで…くれるかな…って…

 そ、だよな。お前…男だもんな。俺がアホだっ…た…」

「……!」


 ハントは涙目で、ぷるぷる震えて靴を見つめる。こっちは演技でなく、本気で泣きそうだ。



「……わかった!!!すっごく嬉しい、ほんとだからっ!!」

「「………!」」パアアァ…


 最終的に、フル装備でパーティーに参加決定である。

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