獣の剣
ニコラのお祝いをしたかった3人は、地面に両手両膝を突いて嘆いた。
「せめて、次の非番の日に…!」
「いやいいから」
そう言われても、引き下がる訳がない。諦めた振りをして、めっちゃすんげえお祝いしてやる!!!と各々燃えている。
「それよりさー、さっき模擬戦してたじゃん。あなた達って、誰が1番強いの?」
この、何気ない疑問に。
「俺だね!」「俺だな」「僕だろうな」
「「「……は???」」」
何かのスイッチが入ってしまった。
「いやいやいや、俺でしょ。パワーじゃ負けねえし?」
「テメエ後輩のくせに何言ってんだ?」
「年関係なくない?いつも自分で言ってんじゃん」
「あ゛?喧嘩売ってんのか」
「何、今頃気付いたの?おっせ〜」
特に、ハントとゼラが激しい火花を散らしている。ロットは「僕が1番」という絶対的な自信があるので高みの見物。
「上等じゃねえかコラァっ!!?まず俺VSお前!!勝った方がロットと勝負だ!!!」
「よっしゃ受けた!!3位決定戦の審判はやってやるよ!!」
「僕は負けん」
こうして超気合の入った模擬戦が始まろうとしていた。散った騎士達も戻ってきて、なんだかんだとざわつく。
言い出しっぺのニコラは…やっちまった。と反省中。このままでは、ガチの殺し合いをしそうな気迫を3人から感じる。ここは、和ませるために…!
「はいはーい!ボクも入れて、トーナメントしよう!」
「「「は!!?」」」
「対戦はアミダで決めるよ!」
ガリガリ。地面に線を引き、アミダくじ完成。
いち早く頭が冷えたロットは、その案に乗った。自分達がニコラに怪我をさせる訳がないし…彼女の実力も見てみたかったから。
仕事を斡旋した時、ニコラは「幼少期に剣を習ったことがある」と言っていた。だが、剣を振る姿を見たことはないのだ。
反対する2人は無視、くじの結果…
ニコラVSハント。ロットVSゼラである。
「よーし、模擬戦はじめ!!」
隊長、と呼ばれた騎士がノリノリで審判に。
ふんす!と鼻息の荒いニコラに対して…ハントはガッタガタに震えている。
互いに剣を構え。開始の合図と共に、どちらも地面を蹴った!!
ということはなく。
「負けました!!」
「ズコーーーッ!!!」
ハントが早々に剣を投げ捨て、美しい土下座を披露したのである。
思わず口で擬音を表しながら、ニコラはずっこけた。
「嫌だ、俺は試合でも遊びでもお前に剣を向けたくない!!!」
「…………はぁ〜…もう」
ハントはプライドよりも、ニコラの安全が優先。たとえこの場で…ニコラが本気で襲いかかっても。決して反撃もしないだろう…という覚悟が伝わる。
「……んもう。じゃあボクの勝ちね、はい次」
女子供扱いされているようで癪だが…それをぐっと呑み込んで。ハントの手を取って立たせた。
急展開にギャラリーはポカンだが、気を取り直して第2試合。
ゼラは長身、剛腕から繰り出される剣技でロットを追い詰め…られず。
「うおっ!?」
「………!」
ロットのテクニックは凄まじく、素早く確実にゼラへダメージを与える。最後、タイミングを計り…剣を弾いた!!
「ロット卿の勝ちだ!」
「おおーーー!!!」
「よっしゃー!よくやった!!」
ニコラとハントは大興奮で声を上げた。
負けたゼラは悔しげにため息をつくも、握手をして健闘を称え合う。
「よっし、ボクとロットの決勝だ!」
ロットが休憩はいらないと言うので、すぐに最終戦。ハントとゼラはハラハラするが、ロットを信じてニコラの応援。
「頑張れよー、ちび!」
「坊主、やったれー!!」
ほとんどがニコラに声援を送る。絶対勝ーつ!!と気合い入りまくり。
互いに距離を取り、向かい合い。
ニコラは剣を、体の左側に構えた。見たことの無い型に、ロットは困惑する。
「始めっ!!」
審判の、合図の瞬間。
ニコラの姿が消えた。
キィンッ!!
「っ!?」
「おっと!残念っ!」
直後、ロットの右側に現れ…剣が打つかり合い火花が散る。
弾かれたニコラは即座に体勢を直し、剣を握る手に力を入れる。そしてロットの後ろに回り込み…
剣を振り上げたかと思いきや、そちらに注意を引いて脇腹を蹴ったり。
足を狙って、反撃されそうになれば距離を取って。正々堂々とは程遠い…
それは、騎士の戦い方ではなかった。
誇りも何も無い、ひたすらに死角を突き、急所を狙う…人を殺す術。
まるで…獣を相手にしているようだ、と猛攻を防ぎながらロットは思う。
慈悲は無く、遊びが無く、余裕も無い。
ただただ、ニコラの剣から感じられるのは。
「(生存本能…死にたくない、生きたい…と訴えているようだ…
彼女にとっては。勝ち=生。負け=死…なのか)」
獣が生きるためだけに、他の生物を殺して喰うように。
やられる前に、殺る。
もしもニコラに力量と、ロットを『殺す』という覚悟があれば。最初の一撃で胴が真っ二つになっていただろう。
実際ニコラの攻撃は体術も含め、全て防がれている。
しかしロットはそんなことはどうでもよくて。
ここにきて、新たな彼女の魅力を知ってしまった。
小さな体躯のニコラが、自分だけを真っ直ぐに見据えて、ひたすらに剣を振るう。その姿が…
美しい…と。
誰にも渡したくない。その殺意は…自分にだけ向けてほしい、と。強く願いました。
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