第4話 え? やったことないですけど…。
業務フローを作って一週間、使う人、使わない人はそれぞれいた。まあ当然のことだし、3割以上が使っているのであれば、マニュアルとしては上等なものだろう。
新しいプロジェクトなどはなかったので、しばらくは営業さんから頼まれた資料の修正や過去の資料の整理などをした。
((ふう。これはこれで周りが見えるから良いし、楽なんだよね。))
そんな風に思いながらこの一週間は過ごした。
「ほんと早いし、正確で助かるよ!」営業さんからはそんな誉め言葉をもらう毎日で、自己肯定感を高めつつ、平穏な毎日を送っていた。
しかし、この平穏も一週間しか続かなかったのだ。
「若宮さん、ちょっと。」とこちらも見ずに、どさっと大量の書類を京子の机に置く課長。
「はい。」
「これ、役所に出してきて欲しいんだけど。」
そう言ってポンと叩かれたのは、100枚くらいありそうな申請書類。
「えっと。なんでしょうか?」まさか”これ”だけで全て分かってもらえるとか思ってないよな、と思う京子である。
「あー…、これをもう一部コピーして役所のK課に出してきて欲しいんだけど。」
「分かりました。提出してくるだけでいいんですよね?」何となく嫌な予感がして、そう念押しする。
「そうそう。あ、申請費用だけ要るから持ってって。」
((持っていくだけでいいならいいか。))と”簡単なお使いを頼んだだけ”だと思って、京子は調べることはしなかった。
書類の準備が整ったので、京子は一人で役所へ行った。
「お世話になります。株式会社トウケイコーポレーションの若宮と申します。こちらの申請に参りました。」
「お世話になります。かしこまりました。こちらにお座りください。」
役所の職員は、ぶっきらぼうながらも親切に案内してくれた。
しばらく提出した書類を確認すると、
「えっと…、ここはどうなっていますか?」
唐突にそう質問された。
ただ提出してくるよう頼まれただけで、京子はその案件について何も知らない状態で行っていた。
「え…?あっ…と、すみません…、私は代理で頼まれただけでよく知らないので、担当者に確認してもいいですか?」
「え…?あぁ。大丈夫ですよ、お願いできますか?」
役所の職員も状況を察し、快諾してくれた。
共有したカレンダーによると、依頼してきた課長は打合せ中だったが、これが役所に申請できなければ案件を進められないと言われていたこともあり、「打合せ中のところ申し訳ありません。」と事情を説明した。
何とか役所職員の質問にも全て応えることができ、申請を完了することが出来た。
((いや、これ案件知らない奴に行かせるのは間違いでは?))
せめて役所からの質問を想定して回答できる人間が行かないと、二度手間どころの話ではない。
もちろん京子は「大変だった」では済まさない。どんな質問がされたのか、どこが役所でのチェックポイントかをしっかり脳内で記憶して、それを書き起こした。
((そんなに数は多くないって言ってたけど、そのちょっとの度にドキドキしながら行くの嫌だし…。))
課長からは特に何もなかった。
どうだった?大丈夫だった?の一言くらいあってもいいのでは、と思ったが、そんなものかとあまり深く考えることはしなかった。
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