第3話 まだそんなに会社のこと知りませんが!?

 二か月が過ぎて、ようやく社内の関係性が分かり始めてきたころ、課長はまたとんでもないことを言い始めた。

「仕事の業務フローを作ってほしいんだけど。」

 …えっと、それは古株の人が作るものでは?と思ったのは京子だけだったとは思いたくない。

((中途とはいえ、ようやく仕事の流れがわかり始めた入社三か月目に依頼する内容か?))という言葉をぐっとこらえて

「え…っと、大体の流れを教えていただけるのであれば……。」

 京子としてはそう答えるしかなかった。

「えー、若宮さんならできるでしょ?」そう笑いながら言う課長は何も考えていなさそうである。

 とはいえ、営業ではない京子にとっては、分からないものは分からない。

「せめて、業務で使う資料がどれでどんなことに使っているのかを教えて頂けると助かります。」何とか食い下がる京子。すると、

「…えーと、お客様へのヒアリングシートがこれで、チェックシートがこれ…、こっちは調査用で…」と一通り必要な資料だけは出してもらえた。ただ、下に教えるということをまともにやってこなかった課長は、資料を出してくれただけで、どのタイミングでかは「なんとなく」でしか分かっていない。これ以上深堀りしても多分答えは出ないであろう課長を相手にするよりかは、今までの営業での経験を思い出して、ある程度自分で考えてプレゼンした方が建設的であることはわかっている京子である。

「…分かりました。では一度作ってみます。」

「ん、お願い。」えらくにこやかにそう返す課長に、

((期待されている、と取っておこう))と前向きにとらえた京子だった。


 まあ、これからこの職場を変えていくことを考えると、上職である課長の心象が良いに越したことはない。自由に動くためには、自ら責任を負い、それをこなしていくのが最も早い道なのである。


 とりあえずざっくりとフロー図を考えてみる。

((内容がどうこうよりも、見てもらえるかどうかだろうな…))

 前職の経験からも、マニュアルは「基本見てもらえないものである」ことはよくよく理解している京子である。まあ自分自身もマニュアルを基本見ない、というのも大きいけれど。

 中身よりも一旦はぱっと見で誰が見ても業務の流れが見えるようエクセルでフローと、それに付随する資料のリンクを作成し、課長に見せた。

「おぉ!!いいじゃん! ここはこうで、こっちはこうのがいいかな…」

 思った通り、反応は上々。流れやルールを視覚化することが出来た。資料は画像で張り付けてハイパーリンクにするしかなかったため、データはかなり重くなってしまった。

「まあ、それでも何もない状態で新人に口で説明するよりかは何百倍もマシでしょ。」薫にそう励まされた。

 社内リリースしてみると、案外反応は上々で、「わぁ!めっちゃ見やすいです!」「これ!こういうのが欲しかったんだよ!!」と高評価をもらうことが出来た。

((いや、どんだけ教育体制が整ってないんだ…(笑)))そう思ったことは後の話である。


 もちろん反対意見も少なからずあった。ただ独自ルールや明らかに面倒が増えるパターンのものばかりで、さすがの京子も、

「まああくまでも一般的な流れなので…」と通すしかなかった。課長は当然素知らぬ顔である。

((いや、作った人に質問が来るのは分かるんだけど、自分ルール押し付けるなよ…!))多少なりとも頭にくる京子である。

((自分のやりやすいルーティーンがあるのは分かるけれど、それでミス連発してるなら直せばいいのに…))明るくなったと思った先に、また一つ闇が現れた出来事だった。

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