第18話
闇アキバの最深部。
ダーククリスタルに向き合って立つ結合の姿があった。
一帯はシンと静まり返っているが、闇アキバのすべてを聞いていた。
一帯は明かり一つ無いが、闇アキバのすべてを見ていた。
諜報班から上がる報告に、闇アキバの住人たちはざわついている。
戦況は厳しく、補給班はポイズンタイガーを攻略できずに戦力を消耗していた。
陽は、まだ沈まない。
結合は深い深い闇の中でずっと考えていた。
何が、皆にとって良い結論なのかを。
PPPHは憧れを止められずに地上に出た。
38は仲間のために死地を駆けている。
皆がここで安らかに生きていけるように頑張った。
多くの人々がここで安全と平和を手に入れた。
だけど、それだけでは足りなかった。
「私は、どうしたらいいのかな・・・」
結合は影に問う。
ダーククリスタルの周りを揺蕩う、かつての仲間達。
とうの昔に彼らは答えを返さなくなっていた。
今となっては結合の瞳にも微かな影として映るのみである。
結合はダーククリスタルにそっと手を当てて、その内側にある闇よりも深い闇を見る。
ダーククリスタルのエネルギーうち発電に利用できているのはほんの5%に満たない。
全エネルギーの3割弱はダーククリスタルを中心に発散して何らかの力場を作っており、住人に影響を与えている。
そして残りの7割弱。
それはダーククリスタルの内側に封じ込められていた。
結合にはこれが何なのかは何となく分かっていた。
彼女はそっと目を閉じる。
どうするのが正しいかはわからなかった。
これからどうなるかなんてわからなかった。
だから結合は、自分の思いに従うことにした。
「みんな、今まで、ありがとう。
ずっとずっと、見守ってくれて。
みんなと、この街を、作ってから、
たくさん、時間が過ぎたけど、
全部全部、覚えてるよ。
いつまでも、変わらずに、
ひっそりと、静かに、
日々が、続くんだって、
そう思ってた。
それが、一番だって思ってた。
それが、アビスだって信じてた。
でも、それじゃダメみたい。
みんな、ワガママだから。
みんな、諦められないものを、持ってるから。
そして、これは、私のワガママ。
私は、あの人に死んでほしくない。
だから、最後に、使わせてください。
闇の力を。」
直後、ダーククリスタルにピシリと巨大な亀裂が入る。
封じられていた闇が、辺りに溢れた。
・・・
38は戦況を確認するとギリと歯を噛んだ。
戦場には残るオタク狩りはポインズンタイガーただ一人。
だが奴は自在に戦場を駆け回り、仲間たちを追い回していた。
生かさず、殺さず。
完全に遊ばれている。
お互いにカバーしあいながらライフルやグレネードで応戦するが、陽光を受けて黒光りする奴の肌に傷をつけることはできなかった。
(仲間がPPPH殿の救助に向かっておられるが、これでは目標を達成しても撤退できないのであります)
ポイズンタイガーが人質をあっさりと解放したのは、そんなものが必要ないという自信の現れだった。
(我々はやはり、太陽のもとでは奴に勝てないのでありますか)
38が空を仰ぐと、そのには信じられないものがあった。
空に雲が出ていたのだ。
昼間、オタク狩りがいる地域に雲がでるなんてことは聞いたことがない。
ポイズンタイガーも直ちにその異変に気づき、天を仰いで叫ぶ。
「バカな!! 夏の太陽が俺様に味方しないだとっ!?」
しかし、雲はたちまちに太陽を覆い隠して、辺りは薄暗くなった。
「ちくしょう!! 暗くて何も見えねぇ!!」
ポイズンタイガーはその場でデタラメに腕を振り回し暴れまわる。
アスファルトが砕け、ビルが倒壊する。
諜報部からの流れ続けていた戦況報告もブツリと途絶えた。
「いったいなにが・・・」
38があまりの状況に混乱していると、ふと自分のポケットに何かの気配を感じた。
ポケットに手を入れて取り出すと、闇があった。
手触りからして恐らくそれは小さなクリスタルである。
恐らくダーククリスタルの欠片でだろう。
しかし、38のよく知っている暗く輝く姿ではなく、一切の反射のない黒で、まるで空間からそこだけが切り取られたかのように不自然な黒さだった。
恐らくあの時、結合がこっそり仕込んだのだろう。
38がグッと握りしめると、ダーククリスタルは硬さを保ったまま、銃弾の形に変わった。
「・・・使わせていただくのであります」
38は担いでいたスナイパーライフルを手に取り、弾を込める。
するとダーククリスタルは一瞬でライフル全体を漆黒に染め上げた。
瓦礫の山で暴れまわるポイズンタイガーに狙いを定める。
「ポイズンタイガー、覚悟するのであります」
38は引き金を引いた。
銃弾は音もなく光のように真っ直ぐに、黒い軌跡を残してポイズンタイガーの心臓に直撃し、そして貫通した。
暴れていたポイズンタイガーの動きが止まる。
突如戦場を走った黒い矢に皆が驚き、皆が38を見る。
38はゆっくりと銃をおろし、ポイズンタイガーの様子を伺う。
ポイズンタイガーの全身のタトゥーから光がにじみ始めた。
その光はどんどんと強くなり、ポイズンタイガーは身体を掻きむしり悲鳴を上げ始める。
「ぐあああああああ!! チカラがっ!! チカラがあああああああああああ!!」
ポイズンタイガーが暴れのたうち回り、そして最後に一際大きい咆哮を轟かせると、辺りを強烈な閃光が包んだ。
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