第19話

閃光がすべてを包む。

何もかもが真っ白に染め上げられる。

その中で、38は、白い少女の姿を見た気がした。


光が収まると、先程の曇天は嘘のように、夏の日差しがギラギラと地上を照りつけていた。

陽光を受けて、闇の武器はたちまちに砂のように霧散した。


38は恐る恐る視線を上げる。


瓦礫の山。

その中央に、咆哮の姿のまま、真っ白になって固まっているポイズンタイガーの姿があった。

皆が固唾を呑んで見守る中、その右腕がゴトンと音を立てて取れた。

断面まで完全に真っ白だ。


ポイズンタイガーを、倒した。

絶望に、打ち勝った。


38は皆と目を合わせ、拳をにぎりしめる。

「や・・・」

「やったー!!38!!」

後ろからいきなりあーこが飛びつかれ、38はそのまま一緒にひっくり返る。


「ちょっと!踏ん張ってよ!」と怒るあーこをなだめながら身を起こすと、そこにはPPPHに肩を貸すえーこの姿がった。


「へぇ、やるじゃん。オタクくん」

えーこはニヤリと笑って、PPPHは見るからに申し訳無さそうに38を見ていた。


途絶えていた諜報班からの通信が回復する。


「めうめう! 何があっためう!? 全員のバイタルに異常がないことは確認できているめうが、戦闘はどうなっためう?」


38は通信機を手に取り答えた。


「作戦は完了したのであります」


秋葉原に割れんばかりの歓声が響いた。


・・・


あれから本当に長い月日が流れた。


あの日、大きく変わったことが2つあった。


ひとつは、ダーククリスタルがただの透明な結晶になっていたことだ。

発電所にある欠片もエネルギーを発しなくなっていて、みんな大混乱していた。


だが、ギャルたちの協力の元、みんなが各方面と交渉してくれて、なんとか最低限の電力を確保することができた。


「みきのパパね、防衛省の偉い人なの」とみき氏が言ったときは俺も驚いたが、ポイズンタイガーを倒した功績もあって、政府は非常に協力的だった。



もうひとつは、太陽の光を浴びても誰もやけどをおわなくなった。

恐らく、ダーククリスタルとの縁が切れたのだろう。


もっとも、古参の多くは地上には出たがらず、電力不足で薄暗い闇アキバでも「それぐらいがちょうどいい」といって引きこもっていたのであまり関係はなかったが。



38氏や田中氏、補給班のみんなは、地上と地下の両方のアキバを守るために日々オタク狩りと戦っている。

自衛隊と連携しているとはいえ危険な仕事だが、地下で暮らしてたときよりも生き生きとしているように見える。


結合氏は、あれから人前に姿を現していない。

もともと日向ぼっこのメンバーやギャルの前には姿を表さなかったが、他の住人も彼女を見ていないそうだ。

ダーククリスタルの様子を見たときに、なんとなくそんな気はしていたが。

彼女は彼女なりに、けじめを付けたのだろう。


ギャルは、電力不足で暗くなった闇アキバから離れていくと思ったが、むしろ以前より数が増えた。

古参達は騒々しくて仕方ないと文句をいいつつも、なんだかんだで受け入れているようだ。


俺? 俺は・・・。


「『深淵を覗く時』」


おもむろに話しかけてきた人物に、俺は顔を向けた。

そこには見知った闇アキバの仲間たちが並んでいる。

俺は手に持っていたコーヒーカップを置いて答えた。


「『深淵もこちらを覗いているのだ』か。やめないか? この合言葉」


オタクたちは口々に答えた。


「ぬ? 闇に暮らす我々にとってぴったりの言葉と思うのでござるが」

「PPPH氏は完全に地上の暮らしに馴染んでんじゃんYO! オープンテラスで待ち合わせなんてYO! オシャレすぎんYO!」

「そもそもニーチェの有名過ぎる言葉だから合言葉にならないめう」

「難しいことはわかんないッぴ・・・」


俺は闇アキバから訪れてきた濃すぎるメンツに肩をすくめた。

闇アキバで暮らしていた頃はあまり気にしなかったが、地上では目立って仕方がない。


俺は残ったコーヒーをぐいとあおり、立ち上がった。


「行くか、日向ぼっこ」

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