第17話

秋葉原駅は騒然としていた。

駅前の道路を占有し、暴走行為をするオタク狩り。

そしてそれを遠巻きに取り囲む特殊警察隊。


男性が電柱にワイヤーで縛り付けられている。

オタク狩りが人質を取るなど聞いたことがなかった。


警察隊はざわついている。


「おい、上の指示はまだか」

「交戦を避け待機という指示だ。夜まで待つつもりだろうな」

「夜になるとあいつら撤収しますよ?」

「それが狙いだろう。戦ったところで相手はあのポイズンタイガーだ。甚大な損害が出る」

「人質は、どうするんです?」

「捕まってるのはオタクくんだろ?」


警察隊は遠巻きにオタク狩りを眺めつつ、一般人の避難を促すだけで動かない。


夏の日差しがジリジリとアスファルトを焼く。

オタク狩りの笑い声と爆走音が一帯に轟く。


すると突如、一帯が静寂に包まれる。

ポイズンタイガーが手を高く上げ、仲間を制止していた。

「おい! ・・・なんか、嫌な感じしねぇか?」


直後、銃撃の雨がオタク狩りに降り注いだ。


・・・


オタク狩りの怒号と、銃声の鳴り響く戦地を38が駆ける。


敵の主な武器は金属バット、一方でこちらの主戦力はアサルトライフル。

距離を稼いでの戦闘が基本になる。


問題はオタク狩りの圧倒的な機動力。

バイクを手足のように使いこなし、瞬間的に距離を詰めてくる。

ビルや細い路地をたくみに活用して、緻密な連携を取り銃弾を打ち込んでいく。


38がビルの影からオタク狩りに射撃する。

オタク狩りの一人が銃弾をかわしながら38へと襲いかかる。

反対のビルから飛び出した田中が、バイクのタイヤに銃弾を打ち込みスピンさせる。


キュルルル


スピンしたオタク狩りは激しく転倒して動きが止まる。

オタク狩りが立ち上がるよりも先に、38と田中は素早く物陰に隠れた。


直後、爆音が辺りに響き渡る。

ロケットランチャーがオタク狩りを捉えた音だ。


土煙が晴れると、そこには黒焦げになったオタク狩りが転がっていた。

黒光りしていた肌はその完全に光を失っており、夏の日差しを受けても復活しそうになかった。

完全に意識を失っている。


倒した。オタク狩りを、倒した。

確かな手応えを感じた38はそのまま次のポイントへ走っていった。


・・・


俺は爆音と銃声の中目覚めた。

目の前にはオタク狩りの背中がみえる。


身動きが取れない。

縛られている。

くくりつけられてるのは・・・電柱か。


オタク狩りが嬉しそうに話しかけてくる。


「おはようオタクくん。この音が聞こえるか? どうもオタクくんの仲間がお前を助けに来たみたいだぜ? このポイズンタイガーに勝てると思ってるらしい」


ポイズンタイガーはガッハッハと大笑いし、手を素早く動かして空中の何かをつまむ。


「お前を巻き込みたくねぇのか、さっきからちまちまと豆玉ばかり飛ばしてきやがる。オタクくんってのは仲間思いなんだなぁ」


そうやって先程つまんだものをぽいと放ってよこした。

銃弾・・・恐らくはスナイパーの狙撃だ。


「だが俺様もよぉ! こんな面白いもん見せられて、じっとしてるわけにわいかねぇんだわ!!」


ポイズンタイガーは瞬きする間も与えず回し蹴りを俺の頭上に放つ。

俺が縛られていた電柱が粉微塵になる。


「失せろ。狩りの邪魔だ」


・・・


38は物陰に潜み、諜報班からの連絡に耳を傾ける。


「めうめう。アルファは戦線を維持できずに後退。デルタは対象を撃破。オタク狩りは、残り2体めう」


リアルタイムの正確な情報と息のあった連携により、補給班は順調にオタク狩りを撃破していた。

だが38はまだ気が抜けない。

最大の障害がまだ残っている。


「38氏!ポイズンタイガーがそちらに向かって・・・」


38はすぐさま飛んだ。


ドォォォン


直後、先程背にしていたビルの壁が粉々になっていた。

土煙の中から野太い叫び声が響く。


「あのさぁ!! オタクくんさぁ!!」


ビルの上から仲間が一斉射撃する。

土煙の中から、絶望の象徴、ポイズンタイガーが躍り出る。

ハーレーを器用に操作して巧みに銃撃を躱す。


「あたらねぇよ!!」


しかし、銃撃は陽動。


パシュン!


スナイパーがハーレーのタイヤを撃ち抜く。

ポイズンタイガーはハーレーを乗り捨てそのままバク転し、回る視界で全体のオタクの位置を正確に把握する。


そのまま射程内にいる38に狙いを定め、音速で金属バットを振り下ろす。

38は腕を引かれて寸前のところでそれを躱し、金属バットがアスファルトにめり込む。

腕を引いたのは、バイクに乗ったあーこだ。


「あっっっぶな!! あんなの当たったら死んじゃうって!!」


大ぶりの攻撃直後を外したポイズンタイガーにロケットランチャーが襲いかかる。

ポイズンタイガー振り返りミサイルを素手で受け止め止め、爆発に巻き込まれた。


「やったので・・・ありますか・・・?」


疾走するバイクでポイズンタイガーと距離を取りながら38は呟く。

直後、ヒュンッとバイク横を何かが掠める。


カランッ! カランッ!


曲がった金属バットだ。


土煙の中からのしのしと巨体が現れる。

「バット曲がっちまったじゃねぇか!!」


38はギリと歯を噛み締め言った。

「やはり、一筋縄では行かないのでありますか」









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