第16話

38は風のように走った。

必ず、かの邪悪にして凶悪なオタク狩りを倒さねばと決意した。


(まだ、陽は沈んでは居ないのであります)


まだPPPHは死んだわけじゃない。


勝てる、勝てないなど問題ではない。

挑まなければもっと大きな何かを失う気がするのだ。


38は補給班の基地に飛び込み装備を整える。

ギャルが来て以来、補給班は地上での作戦行動をしていない。

ギャルの交易網が地上での補給活動を不要にしたからだ。

だが、体が覚えている。

38は一つ一つ丁寧に確認しながら装備を整えた。


38が更衣室を出ると驚き後ずさった。

そこには、既に装備を整えた補給班の仲間たちが並んでいたのだ。


38は驚いて固まっていると、列から田中が一歩出て敬礼して言う。

「補給班の中でも、夜目の効かないものを集めました。時間がかかり申し訳ありません!」


38は震える声で尋ねる。

「相手はあの、ポイズンタイガーなのでありますよ? どうあっても無事で済むわけが・・・」


田中はピンと胸を張り仰々しく言った。

「仲間と共に戦地を駆け回るのか我々のドナです。ポイズンタイガーなどおそるるに足りません! 作戦の指揮をお願いいたします軍曹!」


38は田中の敬礼を暫く見つめて、覚悟を決めて、敬礼を返した。

「招集、ご苦労である! 田中一等兵! 敵はポイズンタイガー含むオタク狩りの一団! 目標は仲間の救出である!」


とそこにフラリと初老の男が入ってきた。

かなり昔に補給班を引退した古参だ。


古参はぐるりと見渡して呆れるように言った。

「噂を聞きつけてきてみたがオタク狩りに挑むんだって? それにあのポイズンタイガーに? そんな装備で? 大丈夫か?」


急に現れた古参に38は眉をひそめた。

「大丈夫であります。問題ないのであります」


だが圧倒的に戦力が足りないのは火を見るより明らかだ。

オタク狩りに出会ったら逃げるのが鉄則で、戦うことなど想定されていないのだ。


古参は呆れる様にため息をつくと、貴重品ロッカーの管理ボタンをポチポチと弄る。

直後、ゴゴゴゴゴと音を立ててすぐ横の壁がスライドして開いた。


奥に姿を表したのは大量の武器が立ち並ぶ弾薬庫だ。

補給班はざわめく。


「こっ、これはっ・・・!!」

「これ・・・おもちゃじゃないぞ」

「おい、M4だ! RPGもあるぞ!」


補給班は恐る恐る弾薬庫にある武器の数々を手にとる。


古参は得意そうに胸を張り言う。

「モデルガンじゃ満足できなくて、な。ちょっと年期が入ってるが全部整備してある。もう一度聞くぜ。そんな装備で大丈夫か?」


弾薬庫から田中が出てきて古参の袖を引っぱっていく。

「だめだ、全部把握しきれない。頼む、一番いいのを見繕ってくれ!」


38がその光景を眺めていると、携帯電話に着信が入る。

見慣れない番号だ。

38は訝しに電話に出る。


「38氏! ついにギャルのネットワークプロトコルの解析ができためう! なぜギャルが闇アキバの入り口を見つけられるかという謎が解けためう! 個々が独立したP2Pノードになっていて独自の通信波で直感的にお互い繋がっていることまでは予想しためうが、まさかヒッグス場の微細な振動とディラック場の・・・」

「めうめう氏! そんなこと言ってもわかんないッぴ! 電話を渡すッぴ!」

「あー38氏聞こえるでござるか? 理屈はよくわからないが、ギャルの通信網に接続してリアルタイムに詳細な地上の状態がトレースできるようになったでござる。

PPPH氏と補給班の現在地とステータスも正確に把握できるでござる。

流石にオタク狩りは『友達』ではないので、現地のギャルに目視で確認してもらってデータを補う必要があるでござるが、それらの情報を諜報部でまとめて補給班に連携するでござる。健闘を祈るでござる! ・・・あっ、こらっ、めうめう氏! 電話をっ・・・」


電話口の向こうからはドタバタと騒ぎが聞こえる。

目の前では弾薬庫で話し合う補給班の仲間たち。


今、闇アキバが一体となって38たちをバックアップしようとしていた。


「これなら・・・戦えるかもしれないのであります・・・!!」


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