第13話

巨大な図体で人波をかき分けながらオタク狩りはこっちに近づいてくる。

なんでこんな場所に・・・。


仲間は既に四散して走り始めていた。

迅速な判断だ。


いや違う。

俺の判断が遅い!


ガッと腕を掴まれた。

視界に長い金髪が入る。


「なにしてんの!」


あーこが俺の腕を掴んで走る。

俺も、脚をもつれさせながらも必死についていく。

あっという間に息があがり、頭がくらくらする。

普段からもっと運動をしておけばよかった。


「そっちじゃない!」

俺は叫んで、あーこが一番近い路地に俺を引き込もうとするのを振りほどく。


そっちは仲間の一人が飛び込んだ路地だ。

『逃げるときはまとまらない』

俺たちの取り決めだった。

つまり、一番判断の遅かった俺は・・・囮だ。


俺は中央通りを全力で走る。

モーゼのように人波が割れていく。


十数メートルも走れば細い路地がある。

たどり着けるか?

いや、たどり着くしか無い。


走る。走る。

怖い。怖い。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・


身がふと軽くなって、足が空を蹴る。


「オタクくん、みーっけ」


俺は、オタク狩りにつまみ上げてられていた。

足を持たれてそのまま逆さ吊りにされ、オタク狩り側をむけられる。

モヒカン刈りの頭に顔中に空いたピアス。

全身に掘られた虎の入れ墨がタンクトップの隙間からこちらを睨みつけている。


頭が真っ白になる。

俺は、死ぬのか。


「なんでぇ? こいつ既に腕が一本ねぇじゃねーか。弱いものイジメみてぇじゃねぇかよ!!」


オタク狩りはキレながら意味不明なことを叫ぶ。

鼓膜がビリビリと揺れ俺はたまらず耳に片手を当てる。


「ぴーちゃん!!」


あーこが叫ぶ。

やめろ。ギャルだからってオタク狩りが手を出さないとは限らない。


「なんだぁそこのギャル?」


オタク狩りはその頭をぐるりとあーこに向けて睨んだ。

オタクであればそれだけで失神するであろう。


「ぴーちゃんを、離して」


あーこは負けじと一歩踏み出して凄んだ。

こんなあーこの声は初めて聞いた。


オタク狩りは目を見開いて首を傾げたが、直後大笑いして叫んだ。


「このオタクくんの友達かよぉ!! ギャルがオタクくんに優しいなんて、世の中おかしくなっちまったもんだなぁ!!」


あーこは何も言わずにオタク狩りをじっと睨みつける。


オタク狩りはひとしきり笑うと、あーこを指差していった。

「じゃぁ代わりにさっきチョロチョロしてたオタクくん連れてきてくれるぅ? 交換してやるよ! 俺様だってこんな弱い者いじめみたいなことしたくねぇからよぉ!」


「は? 意味分かんない!」とあーこがキレる。


「どっちでもいいぜぇ!! 機嫌がいいから夕方まで待ってやるよ!! めっちゃ笑わせてもらったしなぁ!! ま、オタクくんにギャルがそこまでするか知らねーけどよぉ!!」


直後、俺は激しく地面に叩きつけられ、意識を失った。

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