第10話

あの日から、俺は機会があれば繰り返し地上に出るようになっていた。

理由はライブだったり握手会だったり、もっとくだらない理由だったりと様々だ。


なるべく人目につかないように行動していたが、隠し通せるわけでもなく、じきに住民にみつかった。

だが意外なことに、住人は昼の地上に出て無事に帰ってきたことに興味を持ち、自分も昼の地上に出たいと言ってきたのだ。


それから少しずつ『日向ぼっこ』に参加するメンバーは増えていった。



「PPPH殿。お日様の匂いが隠せていないのであります」

38氏は席につくと開口一番にそういった。

通りに面したカフェで、俺達の他には客は誰も居ない。


無理もない。

地上では少しずつ日が高くなってきており、白かった肌は少し日に焼けている。

隠し通そうというのが無理というものだ。


「だから何だって言うんだよ?」


俺は適当に答えた。

実際なにか罪を犯しているわけではないから、あれこれ言われる筋合いはない。


「PPPH殿は地上がどういったものかよく理解しておいででは? 我々が地上でどれだけ多くの危険な任務をくぐり抜けてきたかも。ましてや陽の刻。一体どうしてしまわれた」

38氏は眉をひそめて言った。


確かに38氏の言うとおりだ。客観的に見て正気ではない。

だが、以前38氏の言っていたことを思い返して俺は言った。

「俺は見つけたんだよ。俺のドナを。地上に」


「PPPH殿、オタ活したい気持ちは十分にわかるのでありますが、オタ活は命あってのこと。最近では闇アキバにもライブステージができたではありませんか。欲しい物があればギャルの公益網で何とかするのであります」と38氏が心配そうに言う。


住人のために命を張っていた身としては、いろいろ言いたいことがあるのだろう。

だが、言いたいことがあるのは俺も同じだ。


「38氏こそギャル贔屓が過ぎるんじゃないか? 少しずつ数が増えてるじゃないか。それに何だあのネイルショップにタピオカ店。闇アキバに似つかわしくないだろう。聞けばお前がかなり手伝ったらしいじゃないか」俺は言った。


38氏はムッとした表情を一瞬して、誇らしそうに言った。

「ギャルは素晴らしいのであります。ギャルが交易を担ってくれているから豊かな物資が手に入り、闇アキバに活気がもたらされているのであります。もはや誰も危険を冒して外に出る必要もなく、闇アキバで完結するのであります。それに彼女たちは多少派手かもしれませんが、むしろ活気があって良いものですよ。まったくもって最高ではありませんか」


俺は呆れながら聞いていた。


「皆はギャルを誤解しているのであります。きちんと交流を重ねればギャルといえどオタクに優しくしてくれるというもの。あーこ殿やみき殿に関しては小官のことをシンクロと呼んで慕ってくれているのであります」


は?

今なんて言った。

俺はムッとして言い返す。


「38氏。シンクロってのは闇アキバの住人たちだけの絆を示す言葉じゃなかったのか? ギャルは確かに闇アキバの住人に対して良くしてくれているが、住人ではないだろう」


俺たちにとってシンクロってのはそんなに浅い言葉だっただろうか。


「何を言うかPPPH殿。ギャルも今やこの闇アキバの立派な一員。彼女たちと仲良くして闇アキバを盛り上げていくのがドナというものですぞ。それがこの街のアビスにも繋がるというもの」


俺は身を乗り出して更に言い返す。


「この街の住民であることが、シンクロが、そんな軽い事だとは思わなかったよ。俺はここに住んで長いが、色んな人間を見てきた。俺はこの街でなきゃならない。この街にしか無い確かな絆があると思ってたんだがな。結合氏や、他の古株の連中も同じ思いなんじゃないか? 地上からフラッとやってきた人間で代わりがきくなら、ただのダチでいいじゃないか。俺とお前の関係も」


気分が悪い。

俺は席を立った。


「勝手にしろよ。俺も勝手にするから。ダチにそこまで言われる筋合いはない」


俺はその場を後にした。

少し陽にあたるくらいなんだっていうんだ。

誰も無理に日向ぼっこに連れ出してなんか居ない。

俺たちの闇アキバをよそ者が作り変えていくことのほうがずっと問題じゃないのか?

闇アキバは闇アキバで住みたいやつが暮らしていけばいいだけじゃないか。


なぁそうだろう?結合氏。

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