第8話

闇アキバは大きなドーナッツ状の構造をしているが、その発展は一様ではない。

地上との連絡通路が集中している比較的賑やかで発展している『手前』の部分と、その反対側で殆ど誰も住んでいない『奥』の部分がある。


手前から奥にかけて、上から見て時計回りの方向に工場野菜を含む各種生産設備が立ち並んでおり、反時計回りにこの地下都市を維持するための大気浄化や水質浄化、発電施設などが立ち並んでいる。


反時計回り側は大規模な施設が連なっているため、手前側の喧騒から距離を置きたい住人は時計回りの方向へと住居を伸ばしていた。



闇アキバを訪れるギャルの数は着実に増えてきており、手前側の様子は以前に比べ遥かに賑やかになった。


賑やかな人間が増えたというだけではなく、地上を行き来するギャルが交易を担うことで物資調達が容易になったというのは大きい。

ドルオタたちが小規模なライブステージを作るなど街自体は豊かになっていった。


一方で、未だオタク狩りによる心の傷が癒えていない者たちは、地上からの訪問者を恐れて、あるいは単に騒々しさを煩わしく思って、奥へ奥へ押し込まれるような形で移住を余儀なくされた。


奥の行けば行くほど街灯の数は減り、薄暗く、道の舗装は荒くなっている。

移り住んだ住人たちはこの薄暗い世界で息を潜めるように生活を始めていた。



喧騒を嫌う住人の棲家よりもさらに奥、闇アキバの最奥、ダークブロックと言われる一帯は街灯は全くなく、はるか昔に誰かがなんらかの目的で掘ったであろう道がただ続いている。


その最奥の最奥。闇アキバの最も深い闇には数メートルはあろう巨大なクリスタルが鎮座している。

このクリスタルは、一体何の材質でできているかはわからないが、光を吸収する性質を持っており、明かりを当てれば黒く妖しく輝くことで知られている。

そのため住民の間ではダーククリスタルと呼ばれており、闇アキバのモニュメントと言うか御神体のような扱いを受けているのであった。


一帯には、ダーククリスタルを中心として、まるで日光の代わりに闇を糧に育つかのように、真っ黒な彼岸花が咲き誇っている。


そして明かり一つ無いこの漆黒に、白い少女が一人、ポツンと座している。


透き通るような長い銀髪を耳にかけ、その細指で手元の同人誌のページをペラリペラリと送っている。


ふと少女は手を止めて、コマを追っていた青い瞳をスッと通路に向ける。


明かりだ。


ここにダーククリスタルがあることは、闇アキバの住人の共通の認識になっている。

しかし暗がりの生活に慣れた闇アキバの住人にも、このダークブロックは不気味に映るらしく、滅多に訪れるものは居なかった。


喧騒に疲れた闇アキバの住人がより深い闇を求めてやってきたのかもしれないと、少女は一瞬思ったが、少しずつ近づいてくる女の話し声とカツカツというヒールの足音を聞いて、どうやら違うようだと思った。


懐中電灯の明かりがフラフラと洞窟内を徘徊し、ダーククリスタルを捉えて止まる。

3人の人影が、あれこれとキャァキャァと騒ぎながら近づいて来くる。


男一人女二人。

そのうち一人はよく見知った顔だ。


と言っても彼女にとって、闇アキバの住人は全員よく知っている。

いつどのようにしてこの街に来たのかも克明に記憶している。

それでも、特に彼のことはよく知っていた。


彼は闇の中に少女の姿を認めるとビクッと飛び上がり、両脇の二人を庇いながら後ずさった。

が、そこにいるのが誰かわかると、ホッと安堵の息を吐き、少女に声をかけた。


「結合殿ではありませんか」


現れたのはギャル二人を連れた38であった。

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