第7話 禁足地

 禁足地──雨ヶ埼家の私有地からは、無数の遺体が発見された。


 半分腐った状態の遺体から、既に白骨化しているものまで、遺棄が始まった時期についての調査は困難を極める。事件は櫛崎くしざき警部補個人の手から大阪府警に渡り、所轄の警察署との合同捜査本部が結成された。櫛崎警部補が東條組幹部にして朴東ぼくとう組組長の黒松くろまつ朝水あさみと個人的な交際をしており、その交友関係が切っ掛けとなって遺棄現場を特定することができた、という醜聞スキャンダルは早々になかったことにされた。


 黒松朝水、瓜生うりゅうしずか山田やまだとおるという反社会勢力に所属している三名は、当日その場にいなかったことになった。東京からやって来た私立探偵・間宮まみやかなめは亡くなった動画配信者・千蔵ちぐら未樹みきの関係者に依頼されて千蔵の最後の足取りを調べていたところ、偶然雨ヶ埼家の私有地に流れ着いてしまった、という設定を与えられた。間宮は大人しくその設定を受け入れた。


 神戸中華街の悪魔、地獄の人材派遣業総責任者・ふゆとその秘書でありボディガードのヅゥもまた、現場にはいなかったことにされた。大阪府警も櫛崎警部補個人も、の存在を噂で知ってはいたが、深く関与する気にはなれない、というのが正直なところだった。冬にしてみれば願ったり叶ったりの状況である。悪評もたまには役に立つ、と言い残して冬と紫は菫色のビートルに乗って神戸に帰って行った。止める者はいなかった。


 四宮しのみやえんは、ほんの少しだけ警察で証言を行い、それから姿を消した。彼女がどこに帰ったのかを、知る者はいない。


 美鈴みすずは警察に保護された。死んだあゆみの遺体、遺骨を最優先に捜索してはいるものの、未だ発見には至っていない。


 雨ヶ埼あまがさきれいは殺人の現行犯で逮捕された。


 あざみ秋彦あきひこは死んだ。

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