第7話 瓜生
──店の女の証言によると、『自由恋愛』に至る直前に谷家が昏倒したのだという。
「後ろから誰かにどつかれたみたいに、バタン、って……」
結局のところプレイには至らなかったということか。救急車を呼び、近くの病院に搬送された谷家は今も意識を取り戻していない。
「あんたはどこもおかしくないんか」
「はい」
瓜生の問いに、女は背筋を伸ばして応じる。傍らにはやり手婆と雨ヶ埼秋彦の姿もある。
「さよか……ああ、そういえば」
気になることは無数にある。だが警察のように執拗に質問を重ねる権限は、瓜生にはない。ヤクザだから。新地にヤクザは必要ない。存在してはいけない。
「うちのは、あんたの写真とか撮ったか?」
「写真?」
形の良い眉を寄せ、訝しい顔で女は呟く。
「スマホでってことですか? それともカメラ?」
「どっちでもええんやけど。俺はそういう指示しとらんから、もしあいつがあんたの写真を撮ったりしとったら、それは完全に余計なことやからな」
長いまつ毛を伏せて記憶を手繰っていた女は、やがて大きく首を横に振った。
「されてません、撮影。あの、うちの店の流れってだいたいわかりますよね?」
わかりますよね? の先には秋彦がいる。首肯する秋彦の姿を確認した女は、
「うちがその、ゴ──避妊具持って戻ったら、もう倒れてはって」
「そのタイミングなんか。ほんまにすぐやな」
「はい。部屋に入って碌に挨拶もせえへんうちにうつ伏せに……ドサッて音が聞こえて……お酒でも飲んではったんかなって思たんですけど」
「アレは運転手や、酒は飲んどらん。……どういうことや?」
「お祓い」
と、口を挟んだ者がいた。沈黙していたやり手婆だ。
「お祓いしたんに、効かんかったんか」
「お祓いぃ?」
きな臭い話になってきた。目顔で秋彦に「どういうことか」と尋ねると、
「2年前、この店で人が死んだ、殺されたって話は知ってるだろう。葬式を終えて、店のリフォームもして、その後念の為お祓いをしたんだ。殺された女の子には悪いが、店に変に執着されても困るからな」
効くも効かぬも、お祓いという行為自体に瓜生は懐疑的だ。幽霊なんているわけがない。つまりお祓いにも意味はない。気休めだ。
「思い残しでもあるんやろか」
婆が呟いた。
「それやったら、うちの前に出てきてくれたらええんに……」
「婆さん。あんたは幽霊見たことないんか」
「あったら自分でどうにかしとるわ。うちの前には出て
ごもっとも、の意を込めて肩を竦めた瓜生は、
「幽霊事件とは関係ないってことにさしてもらうわ。谷家が死んだら話は変わってくるけど、一旦俺が預からせてもらう」
「東條が?」
「
「ヤクザはヤクザや、みんな同じや」
拗ねたようにそっぽを向く婆の肩を軽く叩いた秋彦が「まあまあ」と慣れた様子で口を挟んだ。
「
「……もう夜になるし、店は開けときたいんやけどな」
女は美鈴という名前なのか。頭の隅にその名をそっと置きつつ、瓜生は傾き始めた夕陽を横目で見遣る。新地は、夜の街だ。
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