第10話

「いらっしゃー…あら、ミーちゃん!今日は遅いねー」


「いやぁ、ちょっと部屋を探していてね」


「え?誰の?」


「俺のだよ…何軒か不動産屋を廻ったんだ…」


「え?なんで?」


「いや、家を出ることになったから」


「え?なんで?」


「ひとり暮らしをするんだよ」


「え?なんで?」


「あはは…なんでばかりだな?独身になるんだよ」


「別れたの?」


「いや…完全に別居するだけ。籍は残す」


「そっか…で、どこに住むの?」


「まだ、決まってないよ。良さげなとこは南区か中区かな?」


「ふーん…なんでよその区に行くのよ!」


「あれ?なんか怒ってない?」


「怒ってるわよ!!」


「え?なんで?」


「判らないの?なんで私んちへ来るって言わないの?」


「え?だって、悪いじゃん」


「ミーちゃんは私の何?」


「客…かな?」


「バカー!!」


「俺、ジジィだよ?」


「だからなんなのよ!!歳なんて関係ないよ!!」


「ミカ…俺と結婚は出来ないし…。本気なの?」


「当たり前じゃん!」


ミカは泣いた。


「判った…後悔するなよ…」


「しないわよ…だって…」


ミカは鼻を啜り、涙を拭いた。


「だって、最初から、ミーちゃんに見つけて貰う為に店開いたんだからね。結婚なんて望んでないよ。ミカって女はミーちゃんと一緒に暮らす運命なんだから…」


「え?」


「いいの!今日は店休む!ミーちゃんとふたりで飲む!!」


ミカは看板を下げ、入口の灯りを消した。


「店休んでいいの?俺、今貧乏だよ?」


「大丈夫、今日は一緒に住めるお祝いだからね」


ミカはビールとグラスをふたつ、カウンターへ置き、グラスを傾けビールを注いだ。


「これ、固めの盃ね」


「あはは…古臭いな」


「いいのよ。私は古臭い女なの!」


三井は改めて、ミカを可愛いと思った。


ふたりは乾杯し、三井は一気に飲み干す。


「何やってんの?三々九度で飲むんでしょ?」


「あらら…って言うか、それなら盃はひとつだよ?」


「そうだった、じゃ、こっちのグラスで一緒に三々九度ね」


三井はビールを三回に分けて飲み干すと、グラスに三回に分けてビールを注いだ。


ミカも三回に分けてビールを飲み干し、三つ指をつく仕草をした。


ふたりでビールを飲みつつ、三井はミカに訊く。


「ミカさぁ…なんで俺なの?」


「だって私はずっと前から、ミーちゃんを知っていたからね」


「え?」


「話を聞いていただけだけど…」


「え?」


「ミーちゃんの写真も見てたよ」


「え?」


「え、ばかりだね…気づかない?」


「え?」


「ミカって名前…」


「え?まさか…」


「私の名前はミカだよ。でも生まれ孤児だったって話たでしょ…」


「うん…」


「私を引き取り、育ててくれたママもミカって言うんだよ」


「まさか…あの黒い髪の…」


「やっと判った?sam…」


ミカは三井をsamと呼んだ…。


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