第9話

三井がスナックみかへ通うようになり、1年が過ぎた。


三井はミカとの仲は、清い関係だったが、常連客には三井はママの恋人として、認識されていた。


実際、三井はひとり暮らしのミカの部屋には何度か訪れて、ミカの手料理を食べたり、たまにはお酒も飲むこともあったが、キスひとつする訳では無く、それでも互いに気持ちの結びつきを感じていた。


ただ、ミカは母の黒髪のミカのことはまだ、三井には伏せたままであった…。


「ミーちゃん、たまには家で料理作ってよ…チキンソテーに使う、トマトソース、教えてくれるって言ったじゃん!」


「あはは、でも俺が作るより、ミカのメシのがうまいからな…」


「でも、約束だよ?」


「うん、その内ね…あっ!そうだ!大晦日は店休みだろ?なら、俺が煮物とお雑煮、作ろうか?」


「ホント?やった!なら、元旦まで一緒にいてよ、初日の出とお詣りも行こうよ」


「あはは…うん、いいよ」


「約束だからね!」


ミカは三井に抱きつき、三井の頬へキスをした…。


「始めてのちゅーだね…えへへ」



年が明け、春になる…。


三井は健康診断で、前立腺がんを発見される。


三井はミカには黙ったままで、店に通っていたが、手術の日程が決まり、病院へ入院をすると、三井が癌だと噂が広まり、ミカは慌てて病室へ飛び込んだ…。


手術は無事に成功、三井は麻酔がまだ覚めやらず、ベッドに寝ていた…。


「ミーちゃん!何で黙っていたの?」


ミカは三井を揺さぶった…。


ミカは泣きじゃくっていた…。


「死なないで!死んじゃ嫌だ!私はここだよ!ママみたいにいなくならないよ!…sam〜!!」


「え?」


朦朧としていた三井が薄っすら目を開けた…。


ミカを見ると、ミカの頬に手の平を当て、また、三井は目を閉じた…。


「sam!sam!」


泣きながら三井にすがりつくミカを見た看護師が、ミカに話しかける。


「手術は成功して、今は眠っているだけですよー。すぐに、元気になりますよー」


「わーん…良かったー!!」



三井はすぐに元気になり、退院した。



「ミカ…なんか手術の日…泣いてなかった?」


「バカー!心配したからに決まってるでしよ!!」


「だって、あんな癌くらい、薬だけでも治せるくらいだって医者は言ってたし、手術のが早く完治するから手術しただけだよ」


「でも、何で言わなかったのよ?」


「いやぁ、たいしたこと無いからと思ってね」


「もう!これからはどんな事でも話してよ!心配させないで!」


「怒るなよ…悪かったよ…あっ!そう言えばさ…いや、違うよな?…同じ名前だもんな…違うよな…」


「ん?また、隠し事?」


「いや、違うよ。夢だったと思うんだけど、samって呼ばれた気がしてね…」


「ふーん…」


それ以上ミカは三井に問わなかった…。



三井は病室でひとり考えていた事を実行しようとしていた…。


病室へも顔を出さなかった三井の妻に、以前から話し合っていた別居の事だ…。


離婚はしないが、三井の持つアパートと自宅を妻に与え、その収入で余生を過ごして貰う。


三井は今ある僅かな貯金を持って、家を出る…。


お互いに干渉し合わない。


話し合いはすんなり決まり、三井はひと月以内に部屋を探して引っ越しをすることになった…。


荷物と言っても、スーツケースひとつだけ…。


三井はアパートを探し始めた…。

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