第7話
「少し変わったお母さん…もう、ママでいい?ママって呼んでたから…」
「あはは、いいよ」
「少し変わったママだったけど、ちゃんとママもやってくれたよ」
「へぇー」
「つか、三井さんだってへぇーばかり…オナラしたいの?」
「あはは…やり返された…」
「うん、ママはね、家事の遣り方教えてくれた。特に料理はいつも一緒に作ってた」
三井は微笑み聞いている。
「筑前煮みたいな和食もだけど、ママはハンバーグとか洋食が好きだったみたい」
「うんうん」
「だから、私も挽き肉料理が得意になったよ。今じゃ多分、餃子や焼売、ミートソースやハンバーグは私のがうまいよ…」
「そりゃ食べてみたいな」
「うん、作ったら食べてね」
「楽しみだね」
「でね…ママはその中でもキッシュが大好きだったの…昔の彼が作ってくれたんだって…1度だけ」
三井は黒い髪を束ねたあのミカを思い出していた。
ミカには、良くレストランの仕事へ行く前に昼飯だよって、色々作ったな。
ハンバーグ、ミートソース、オムライス…たまには唐揚げやカレーも作ったっけ…。
でも、キッシュなんかは作ったっけな…?
ミカは話を続ける。
「キッシュもママに作り方教わったけど…」
「あぁ、だから今度キッシュを作るって言ったんだね」
「うん…でも、ママが作ったキッシュは、この味じゃないって言ってた。美味しいんだけどね」
「そうなんだ?でもうまけりゃ良いんじゃない?」
カラーン…。
「いらっしゃい!」
常連の団体さんだ…。
ミカは慌ただしく動く。
見かねて三井は自分の胸を指差した。
ミカは察し、頷く。
三井はサングラスを外し、カウンターの中へ入った…。
「ありがと!助かっちゃった」
「あはは…昔、バーテンダーもやってたからね。これくらい、いつでも手伝うよ」
「ミーちゃん、大好き!」
「あはは、ミーちゃんになっちゃったね」
三井は店の休み以外は、常に店に来ていた。
常連客も親しくなった。
「三井さんって従業員?」
「裏メンバーだよね?」
「フリーの麻雀屋じゃあるまいし…裏メンなんかいるかよ!」
ふざけて常連客達は訊ねる。
「あはは…客だよ」
「違うよ!ミーちゃんは彼氏だから、忙しい時は手伝ってくれてるの!身内よ!身内!」
ミカが答える。
「あはは…でも、飲み代はちゃんと払らってるよ」
三井はもう、常連客の前で彼氏と呼ばれても否定しない。
否定すると、ミカが膨れ、面倒だから…。
新しい常連客は三井の事を謎に思い、三井はそれを否定も肯定もせずに楽しんでいた。
「ミーちゃん、たまには歌いなよ」
「そうだね、何歌おうか?」
言ってる側から、曲が流れ、マイクを渡された。
「ママの好きな歌だね」
常連客は笑顔で言った…。
三井が歌い終えると、常連客達は、次々と曲を入れ、カラオケで盛り上がった…。
三井が自宅へ戻ると、妻はもうすでに自部屋に入り、扉には鍵を掛けてパソコンの明かりだけが扉の隙間から漏れていた。
もう何ヶ月会話をしてないだろう?
三井は、そんな事、考えるのも面倒になり、眠りについた…。
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