第2話
「いらっしゃい!」
「また来たよ」
「嬉しい!お客さん、何て名前?」
「三井って呼べばいいよ」
「三井さんねー」
男は幼年の頃よりsamと呼ばれていた。
しかし、齢を経て自分をsamと自己紹介をしなくなった。
その代わり、自分の本名を名乗ると、いつも勘違いされる、三井と名乗ることにしていた。
特に本名を隠している訳では無いが、自分を三井と勘違いしている知人が自分を三井だと広めた為、三井で通すことにしたのだ。
店は時間が早いからか、客は三井だけである。
「ミカちゃん、何か飲みなよ」
「いいの?ご馳走さまー」
ミカはビールとグラスを2つ、カウンターへ置き、1つを三井に勧める。
「私はビールが1番好き!」
「ビール、俺にも注いだら、ご馳走した気にならないよ」
「いいのよー気にしない!」
グラスを合わせて乾杯し、喉を鳴らして飲むミカは、三井にはとても可愛く感じた。
「くぅー」
「あはは…まるで風呂上がりのビールみたいだな」
「えへへ。何かね、三井さんって1回や2回目に来てるお客さんじゃないみたいなんだ」
「それは嬉しいなぁ…」
三井はお通しに箸をつけた。
筑前煮の冷えたものだ。
「うまい!これ、誰が作ったの?」
「えへへ…私…」
「ミカちゃん、料理上手いんだなぁ」
「嬉しい!でも、冷たいでしょ?」
「いや、いいんだいいんだ、俺は冷たい筑前煮の方が好きなんだ」
「ね?そうだよね…私もそうなんだー」
「上手いね…んで何か凄い懐かしい味何だけど…」
「これね、お母さんに教わったんだ、だから、どちらかって言えば、私のお母さんの味かな?」
「そっか…いや、でも凄い上手いなぁ」
「私はホントは、餃子や焼売みたいな挽き肉料理が得意なんだー。でも、店じゃ餃子は出さないけどね」
「なんで?出したらいいじゃん」
「作るのに凄く時間がかかるからね…朝まで店だから、眠くなっちゃうもん…」
初めて会った目の前の娘は、俺に娘がいたら、このくらいの齢だと思いながら、三井は水割りを空にした。
「ミカちゃん、バーボンって置いてある?」
「うちはバーボンあまり出ないからね、ハーパーしか無いよ?」
「じゃ、ハーパーでいいよ。ボトル入れてよ」
「ホント?嬉しい!じゃ、三井さんこれからも来てくれるってこと?」
「あぁ…こんなに可愛いママの店じゃ喜んで来ちゃうよ」
「やったー!!って、三井さんって普段はバーボンなの?」
「いや、ビールも好きだよ。ドライがね…バーボンはじっくり飲みたい時だな」
「私もドライが好き!だからうちはドライを出すよ」
「ミカちゃん、ビールももう一本出しなよ。無くなってるよ」
新たなビールとバーボンでまた乾杯をした。
「三井さんって、お酒強いんだね?」
「いや、弱いんだよ…1杯目ですでに酔ってるよ。君と酒にね」
「あはははは…三井さん、うまいなぁ…」
ミカは軽くいなした。
「さっきね、俺を初めての客じゃ無い気がするって言ってくれたよね?俺もミカちゃんは昨日、初めて会った気がしないって思ったんだ…。」
「そうなの?嬉しいな」
三井は昔、一緒に暮らしていた女を思い出していた…。
三井は自宅へ帰ると妻がまだ起きていた。
そして、三井の顔を一瞥(いちべつ)すると無言のまま、自部屋へ行った…。
三井は顔を洗い、布団へ潜り込み、ミカを…黒い髪のミカを想った…。
「ミカ…今日はお前に会ったような気持ちになったよ…」
三井はミカに話し掛けた…。
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