第1話
「堀河ー今日は早く帰れよ」
そう声をかけてくるのは
ジョー先生は俺の所属する美術部の顧問をしている。美術部といっても部員は俺一人しかいない。だがジョー先生のおかげで部として成り立っている。
「部室でたばこ吸わないでくださいって何度も言ってるじゃないですか。それとあと少しできりが付きそうなのでもうちょっとだけ待ってください」
「いーやだめだね。今日こそはとっとと帰ってもらわないと俺だって暇じゃないんだよ」
ジョー先生はタバコをジュッと吸い殻に入れるとソファに寝ころびながら言った、なんで部室にソファがあるかって?ジョー先生曰く俺のポケットマネーで買ったらしいが実際のところ本当かどうかは分からない。
「また風俗ですか?いい加減そんなとこに通うのやめて彼女の一人でも作ったらどうですか」
「残念だったな堀河今回はマッチングアプリでであった
「なんでもいいですけどヤリモクなのばれないように頑張ってくださいね。毎回先生のフラれた話聞くの飽きましたから」
ジョー先生は高身長で顔立ちがはっきりしている。所謂イケメンというやつだ。先生も昔はよくモテたらしい。学校の女子にもジョー先生のことが好きだという人がいるくらいだ。ただし先生と関わりがない人に限る。それもジョー先生人と為りが終わっているからだ。言わずもがなクズだ。おかげで先生と関わり始めた人は彼のことがそれとなく嫌いになる。なので先生はよくフラれる。いい気味だ。
「今回だけは
いつもになくジョー先生は必至だ。真剣に結婚を考えているのだろうか。
「わかりましたよ。でもほんとにあと少しで終わりそうなのでもうちょっとだけなんとかなりませんか?」
ジョー先生は困った顔をしている。
それを見て俺は続けた。
「なら部室のカギはちゃんと職員室に返しに行くんで、それじゃダメです?」
ジョー先生は仕方ないなと渋々だがカギをくれた。モノわかりはいい人だ。こうするのがウィンウィンだと理解しいてくれている。
ジョー先生は俺に身なりが整っているか確認すると部室をでていった。頑張れと心の中で応援する。
「さてと、俺も少し頑張りますか…」
俺は先端を鋭利に削ってある鉛筆を取り出した。
*
「ふう、やっと終わった。うーむ我ながらいい出来だ」
キャンバスには田舎の風景画のデッサンがされている。目を細めたり色々な角度から舐めまわすように見るがやはり最高の出来栄えだ。俺はキャンバスをイーゼルから外し部室の壁に立てかけた。
集中力が炭酸のなくなったコーラのように抜けている。一気に疲労がなだれこんできた。特に右腕が気怠い。
固まっている筋肉を解すべく指を組み体を伸ばした。
すると壁にかかっている時計が目に入った。その振り子時計の短針は7に差し掛かろうとしている。
「もうこんな時間か…思ったより時間かかったんだな」
俺は急いで荷物をまとめて部室をでた。しっかりとカギは持っている。
カギを職員室にいた日直の先生に渡して下駄箱へと向かった。靴を履き替えて外に出ると案の定陽は落ちている。真っ暗までとはいかず微かに赤橙色の光が残っている。建物の間から覗くそれはどこか神秘的でなにか良い事だ起こる予兆にも感じられた。
俺は完全に暗くなる前に家につこうと少し足早に歩きだした。
20分ほど歩き家と学校の中間地点あたりまで来た。するとそれはたちまち暗くなった。完全に陽が落ちたというより何かで覆われたようだ。
俺はそれが雨雲だと察し、心の中でアーメンと呟き十字架を体の前で描いた。
今朝の天気予報では今日は一日を通して晴れであった。余計な荷物は持たない派なので傘はもちろん折り畳み傘も持っていない。
何とか雨が降らないようにと祈りながら足は止めずに進む。一秒でもはやく家につけるように。
しかし願いは叶わず雨が降り出した。粒は大きく量は多く逃れることのできない年月のように無慈悲に降りかかる。小雨であれば雨でさえ嗜みながら帰るつもりであったがこれでは家に着く前に下着まで濡れてしまう。おねしょをしてしまった時よりも不快感を感じるだろう。
俺は急いで雨宿りができそうな場所を探す。雨であたりは見えずらくなっているがいつも帰っている道だ土地勘はある。
「確か近くに公園があったような…」
公園は道路を挟んだ向かい側にある。俺は少し来た道を戻り横断歩道がある信号まで戻った。押しボタン式なので道路に近づいてボダンを押した。
ビシャッ……
軽自動車が目の前を通りすぎると置き土産に水しぶきをくれた。俺はそれを正面からまともに受けた。頭からつま先まで全身水浸しだ。
「うげぇ」
雨は嫌いではなく寧ろ好きまであるがこれは別だ。俺は信号が青になるまで茫然と立ち尽くした。
ピチャピチャと音を立てながら歩いていく。靴の中が違和感でしかない。早く脱ぎたいくらいだ。公園の敷地までくるとたくさんの落ち葉が濡れてしかも踏まれて原型を保っていない。今日雨が降らなければまだ明日も枝にぶら下がり健気に生きていただろう。
俺は屋根付きのベンチに座った。空気で冷やされたベンチと雨に濡れたズボンの二重の冷たさを感じる。すぐさま靴を脱ぎ、靴下も脱いで絞った。少し濁った水がぽつぽつと落ちてくる。
その時だった。
「やっばい。めっちゃ濡れちゃった。寒いし。てか天気予報晴れだったよね」
雨の中から女の子が走ってきた。背丈は俺よりも少し低い。肩にかかるくらいの茶色の髪はからは水がたれ前髪は目を隠している。雨で濡れたブラウスからはうっすらと肌色と黒色が見えた。よく見るとうちの高校の制服だ。彼女も傘を持っていなかったのだろうか。
生憎彼女はこちらに気が付いていない。
彼女はカバンから真っ白なタオルを取り出すと頭にかけワシャワシャと拭いた。すると目にかかってた髪が掻き上げられ顔が露わになった。
「え…?」
思わず声が漏れた。白く綺麗な肌。整えられている眉毛。大きな目。まつ毛は長くそれがより一層目を大きくみせている。血色のある小さな唇はプルンッとしているマシュマロみたいに柔らかそうだ。ハーフだと言われても不思議ではないくらい顔立ちがはっきりしている。髪の間からはかわいらしい耳が見える。思わず見とれてしまった。
それに俺はこの人が誰だか分かる。俺の通う高校は所謂マンモス校だ。関わりもない人を認知することはまずない。だがこの人だけ別だ。普通に学校生活を送っているだけ一日に最低でも4回はその名前を聞く。そこにいたのは学年一の美少女と呼ばれる
「うわ…びっくりした。先客がいたんだ…」
こちらに気が付いた彼女の肩がビクッと跳ねた。
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