雨宿りをしていたらずぶ濡れの美少女がやってきた
夙
プロローグ
「歩ー!」
ガラガラと音を立てながら蓮華は部室のドアを開けた。たちまち部室内に甘めな柑橘系の匂いがたちこむ。
「ゴホッゴホッ…ど、どうしたの蓮華。もう下校時間だよ。まだ帰らないの?」
俺は食べているおにぎりが変なとこに入り咳き込む。
時刻は6時10分最終下校時間の6時はもう過ぎている。外を見るとすでに暗く校舎裏の桜の木のシルエットを微かに認識することができる。雪が積もる季節は越したが窓を開けたら制服の隙間という隙間に一桁台に冷やされた風が入りこんでくるだろう。
「一緒に帰りたくて…だめだった?」
蓮華が構ってほしい犬のような顔をしている。
この子は天使か?
「いいけどもうちょっとかかるかも。及川先生に7時までなら居ていいって許可もらってて。それまでには何とか終わらせるから」
「次のコンクールに出すやつだっけ?ゆっくりでいいよ。私は終わるまでおとなしく待ってるから」
「ありがと。でも外暗いし女の子を遅く帰すわけにもいかないからちょっくら本気出しますかね」
そう言って俺はカッターシャツを肘までまくった。ひんやりとした空気が露わになった肌をなでる。食べていたおにぎりを横の机におきペンを取った。
取り掛かろうとすると蓮華が椅子を持ってきて近くに座った。女の子特有の甘い匂いが強く香る。
「近くでみてもいい?」
「どうぞってもう座ってるじゃん」
ふふふと蓮華が笑った。その笑顔は反則だろ!と心の中で叫んだ。
「やっぱり私、歩の描く絵好きだな…」
「…何がお望みで?」
すると蓮華は俺の隣にある机を指さした。そこにあるのはおにぎりだ。俺は嘆息をついて食べかけのおにぎりを差し出した。
蓮華は嬉しそうに受け取ると幸せそうに食べ始めた。
一口、二口食べたところで蓮華は食べるのをやめて俺のほうを睨んできた。
ばれてしまっては仕方ない。俺が渡したのはただの塩おむすびだ。蓮華は無言で睨み続ける。稀に見せる蛇のような眼光。俺の体温も読み取れてそうな気もする。
俺は渋々とっておいたツナマヨのおにぎりを渡した。
「俺の、夕食…」
「おにぎりは具があるからいいんでしょうが。こっちを渡さなかった歩が悪いんだからね」
先にツナマヨを渡したとておにぎりが二つ無くなることに変わりはなかっただろうが口には出さない。また怒られるからね。
「今日はお父さん家にいないの?」
小さな口いっぱいにおにぎりを含みながら蓮華が言う。ハムスターみたい。
「出張で東京だってさ。まじで夜ごはんどうしよう」
俺は本気で悩んだ。なけなしのお小遣いでかったおにぎりも奪われた一文無しに買えるご飯は無い。
「それなら家おいでよ。ママもパパも久しぶりに会いたいっていってたし。たしか今日はカレーだったかな」
蓮華は含んでいたものを飲み込み言った。
「行きます!行かせてもらいます!やったーカレーだ!蓮華早く行こう。コンクールなんて糞くらえだ!」
1回食べたことがあるが四条家のカレーは絶品だ食べたとき涙が出そうになったほどである。もちろんしっかりと辛くそれにも涙が出そうになった。
「カレーは逃げ無いから7時まではしっかりやりなさい」
頭にチョップがはいる。少し痛い。
俺は一生懸命振っていた尻尾を落ち着かせキャンパスに線を書き始めた。
蓮華は優しく見守りながらおにぎりを食べている。
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