腐臭  3





二人は梅蕙ばいけいの家の前に来た。

そして見る。


蔵が半分崩れているのだ。


二人は慌てて家に入ると梅蕙が倒れていた。


「ばあちゃん!!」

「おばあちゃん!!」


二人は慌てて駆け寄り梅蕙を抱き起した。

梅蕙は頭に傷を負ったのか顔の片側が血に染まっていた。


「おばあちゃん、しっかりして。」


梅蕙は死んではいなかった。

しばらくすると目を開けて少しうめき声を出した。


「お前達、来たのか……。」

「ばあちゃん、何があった?大丈夫か。」


一角が布を探して来て梅蕙の頭を押さえた。


「いきなり家の中に赤鬼が入って来た。」

「赤鬼……。」


一角と千角は先ほど自分たちのアパートに来た鬼を思い出す。


「ばあちゃん、小さい鬼だろ。」


一角が梅蕙の頭の傷を調べる。


「それほど大きな傷じゃない、

消毒するから道具を持って来るよ。」


一角が部屋の奥に走って行った。


「どうしてお前が知っているんだ。」

「ちょっと前だけど現世の俺達のアパートに赤鬼が来て、

俺達と組まないかって言ったけど断ったんだ。

おお冨鬼とみおにと言っていた。」

「……大冨鬼。」


梅蕙が呟く。


「それは鬼の中でも相当な奴だ。

人はともかく鬼相手でも平気で裏切る鼻つまみ者だ。

鬼とはいえやり過ぎはいかん。

何年か前から話は聞かなくなったが、まだ生きていたのか。」


一角が戻り梅蕙の顔を拭い傷に膏薬を塗って

手当てを始めた。


「僕達の前で物凄く偉そうにしていたよ。

僕達が宝を盗んでいるうちに人を喰うと言っていた。」

「ともかく相当な数の人を喰ったみたいだったな。

俺達でも引いたよ。

だから断ったんだけど……。」

「丁重に断ったつもりだったけど仕返しされたみたいだ。

蔵が半分崩れてた。」


梅蕙が慌てて外に出た。


「なんてこった……。」


無残な様子になった蔵を見て梅蕙が呆然とした。


「ごめん、おばあちゃん、僕達のせいかも……。」


梅蕙が振り向く。


「いや、お前達のせいじゃない。断って正解だ。

大冨鬼と組むなんて、もしそうなったらお前ら勘当ものだ。

断っただけでこんな事をするだい悪鬼あっきだ。

悪いのはあいつだ。

よく立派に断った、褒めてやる。」

「……ありがとう、ばあちゃん。」


皆はとりあえず家に戻った。


「ばあちゃん、傷は痛くないか。」

「ああ、少し痛むが大丈夫だ。

さっきは玄関に誰か来た気配がしたからな、

そちらに行った途端にガーンと殴られちまった。

ちらっと見た姿は赤い小鬼としか分からなかったが、

大冨鬼か……。」


一角が皆にお茶を淹れた。


「薬湯だよ、傷に効く。」

「悪いね、しかし、どうして今になって大冨鬼が出て来たんだ。

それに……、」


梅蕙が考え込む。


「それに、って何だ、ばあちゃん。」

「どうしてあたしに止めを刺さなかったのかって事だよ。」


聞いていた二人が息を飲む。


「止めって、おばあちゃん……。」

「あいつが通った後は何も残らないと言う噂だ。

全て殺して全て喰う。

何か残ったら付け火もして全部燃やす。

だがあたしは殴られただけで蔵も半分壊されただけだ。」


梅蕙が頭の傷にそっと触れた。


「もうかなり弱っているんじゃないか。」


一角と千角はアパートに来た大冨鬼の姿を思い出す。

ぼろぼろの着物を纏った腰の曲がった小鬼だ。

相当な年寄りなのは間違いない。


「ともかく、お前達は現世にお行き。

もしかすると現世で暴れ出すかもしれん。

あまりにも酷い事が起きるようなら、

こちらも考えないといけないから様子を知らせておくれ。

世界のバランスが崩れる。」

「でもばあちゃん、蔵とかどうするんだよ、傷は?」

「近所の人に助けてもらうよ、それに傷ももう塞がったよ。」


梅蕙が頭に当てていた布を取る。

そこを一角が見た。


「ああ、塞がっている、もう血は出ないと思うけど、

まだ大事にしないと。」

「分かってるよ、心配かけたね。

でも大冨鬼の事もあるし、知り合いに知らせるよ。

多分どの鬼も嫌な顔をすると思うがな。」


一角と千角は梅蕙の具合も心残りだが、

自分達のアパートも心配だった。


「ともかく何かあったら連絡してよ、おばあちゃん。」

「分かったよ、何かあったら頼むよ。」


梅蕙がスマホを取り出す。


「お前らより使いこなすぞ。ほら、行け。」


二人は梅蕙をちらりと見て姿を消した。

それを見て梅蕙がため息をついて座り込んだ。


「……参ったねぇ。」


大事な蔵が壊されたのも痛い、

大冨鬼と言う極悪ごくあくが現れたのも重大な事だ。

そして何よりその鬼に大事な孫が目を付けられたらしいのが

心配で仕方がなかった。


「あの二人ならどうにかしのぐかもしれんが……。」


梅蕙の頭にある男の顔が浮かんだ。

真っすぐな目をした勘の良い男。


「豆太郎は……。」


もしかすると一角と千角を助けてくれるかもしれない。

梅蕙は思った。








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