ユリ 1
何となく豆太郎と美行の間柄が普通になってから数日たった頃だ。
豆太郎にラインが来た。
丁度仕事が終わった時だっだ。
「ちょっと出かけるよ。」
と彼は出て行った。
最近豆太郎は自分の車を買った。
軽自動車だ。
この前まで一寸法師の車をこっそり使っていたが、
さすがに注意されたのだ。
なので彼はリーズナブルな軽自動車を買った。
「俺は将来やりたい事があるからお金を貯める。」
それはまだ誰も話していない。
彼の心の内にある。
彼はそれに乗ってある場所に向かった。
そこは鬼頭アパートの近くだ。
コイン駐車場に車を停めてアパートに歩き出した。
いつもなら鬼頭アパートの駐車場に停めるのだが、
何故か
『鬼頭さんに知れるとまずいから近くの駐車場に停めて来て。』
と連絡が来ていた。
「また何かやらかすのかな?」
豆太郎は呟き一角と千角の部屋を見上げた。
二階のそこには明かりが灯っていた。
「豆ちゃん、久し振り。」
中に入ると一角と千角がいた。
「なんだ、お前らまた来たのか。宝探しか。」
だが二人は顔を合わせて複雑な顔をする。
「違うのか。」
と豆太郎が言った時だ。
奥の部屋から鬼子がひょいと顔を出した。
「……。」
一瞬豆太郎は何が起きたか分からなかった。
彼女の顔を見て鬼に関係があるのはすぐに分かった。
だが何かが違う。
「この子、誰だ?お前達の知り合いか?」
鬼子は立っている豆太郎を見てにっこりと笑った。
口元に白い牙が見える。
顔中に散ったそばかすが可愛らしかった。
「知り合いと言うか拾ったと言うか……。」
「拾った?どういう事だ。」
「まあとりあえず豆太郎君、座ってよ。」
一角が殊勝な様子で椅子を勧めると、豆太郎が腕組みをして言った。
「お前ら、また厄介な事を俺に頼む気だな。」
一瞬の間が開く。
そして千角が言った。
「さすが豆ちゃん、大正解!!」
「だいせいかーい!!」
いつの間にか豆太郎の近くに寄って来た鬼子が笑いながら言った。
その様子はあまりにも無邪気だ。
丸く盛り上がったもじゃもじゃの赤い髪がふわふわと動いている。
そして鬼子は豆太郎の手を取り部屋の奥に引っ張って来た。
「やっぱりな、豆ちゃんは鬼に好かれるんだな。」
「勘弁しろよ、ともかくこの子は誰だ?
拾ったって厄介事じゃないだろうな。」
「実は僕達も困っているんだ。」
一角がそう言うとコーヒーが出て来た。
そして山の様にお菓子も出て来る。
間違いなく何かしらを自分に頼むつもりだと
豆太郎はうんざりした。
「実はこの前千角がこの子を助けたんだよ。」
「助けた?」
「夜中の繁華街で男達に蹴られていたらしい。」
豆太郎が鬼子を見る。
額や頬にあざがあった。
「それは聞き捨てならん。」
「うん、それで家や名前を聞いたんだけどはっきりしないんだよ。
ちょっとばかり可哀想な子の様なんだ。
初めて会った時もジュースを買ってやると言ったら、
お腹が減っているからコーンスープが良いと言ったんだよ。
ちゃんと食べていなかった感じだ。」
鬼子は無邪気な顔でお菓子を食べている。
見た目は小学生低学年ぐらいだが、
その行動はかなり幼い感じに見えた。
「それで本当はある所に失踪とかの届けが出ていないか調べたいんだけど、
俺達鬼だろ?
そこの前に置いて来ようかとも思ったんだけど……。」
「ある所って警察か。」
それを聞いた鬼子が立ち上がり叫んだ。
「ケーサツいや、ケーサツこあい!!」
その眼から涙がぽろぽろと流れた。
「豆ちゃん、聞かれないようにわざとある所って言ったのに。
その場所が嫌いみたいなんだよ。」
「いやいや初めて会ったのに俺にはそんな事分からんだろう。」
「まあそうだけど豆太郎君、どうにかしてくれよ。」
「えーーーー。」
豆太郎が鬼子のご機嫌を取るように話し出した。
「ごめんごめん、警察には行かないよ、大丈夫。
驚かせてごめんね。」
「ホント?」
「本当だよ、名前はなんて言うの?」
「おにこ。」
豆太郎がはっと彼女を見た。
「それは本当の名前なの?」
「みんないってた。きばがある。」
「お母さんはどうした。」
「しらない。」
「自分がどこから来たか分かるか?」
鬼子が首を傾げる。
「やま。」
豆太郎がため息をついた。
「なあ、この子って人じゃないよな。
混じっていると言うか鬼のハーフなのかな。」
「豆太郎君もそう思う?」
「ああ、それとやっぱり捨て置けんぞ。
誰かが面倒を見てやらないと可哀想だ。」
「なあ豆ちゃんもその、あの場所に連れて行ってくれよ。
少なくともここにいるより良いと思うんだよ。
それに鬼頭さんにばれると俺らも困る。」
「
すると一角と千角が難しい顔をした。
「鬼界か、豆太郎君はそこに人が来るとどうなると思う?」
「ダメなのか?」
「こんな小さな子はすぐ喰われちゃうよ。
あっちは鬼の領域だから。」
鬼子はにこにことお菓子を食べている。
豆太郎は彼女を見下ろした。
「お前らの根城はここか。」
鬼頭アパートに金剛が来た。
豆太郎が一度一寸法師に戻り金剛を連れて来たのだ。
一角と千角は座っていたが、
さすがに金剛の顔を見ると真剣な顔で立ち上がった。
「金剛さん、お呼び立てして申し訳ありません。」
一角がそっとコーヒーを出す。
「ああ、すまん。君は一角君だったな。
そして君が千角君。」
千角が頭を下げる。
そして金剛は近くにいる鬼子を見た。
「豆太郎からある程度事情を聴いた。この子だな。」
金剛が目を細めて彼女を見た。
「確かに半分は鬼だな。
昔から稀にそのような子どもはいるが実際見るのは初めてだ。」
鬼子が金剛を見て近寄って来た。
「おおきいね、おじちゃん。」
そしてその膝にことりと頭を乗せた。
一瞬金剛は身動きを止めたがすぐにその頭を大きな手で撫でた。
その仕草は優しい。
鬼子は顔をあげる。
金剛は彼女に優しく笑いかけた。
「鬼子ちゃんか。」
「そうだよ。もしかしてお父ちゃん?」
それを見ていた三人が顔を逸らしたり口元を押さえた。
鬼子がにこりと笑う。
まだ頬にはあざが残っていた。
「お父ちゃんじゃないが俺は金剛と言うんだ。よろしくな。
鬼子ちゃんにはお父ちゃんがいるのか?」
「お父ちゃん、コーンスープくれた。」
金剛が不思議そうな顔をした。
「俺がこの子を見つける前に、
酔っぱらいにコーンスープを買ってもらったみたいなんです。
その人が自分がお父ちゃんだと言ったみたいで。」
「でもね、せんかくはわかいからお父ちゃんじゃない。
お父ちゃんはおじさんだって。」
「……まあそうだ。千角から聞いたのか。」
「うん。」
金剛は笑いをこらえたのか口がへの字になった。
そして真顔になりあごに手を当てて少し考えていた。
「何だか訳が分からんが、
豆太郎も言っていたが確かに捨て置けんな。
鬼の血が入っていても邪気が無さすぎる。」
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