第21話

「なぁ、お前。二年後に来る弟とかいねぇのか」


戦いの後、ダンクはオルカにそう訪ねた。

オルカも再戦には望まないだろうというのを見越して次の因縁の相手を探しているようだ。


しかしオルカは首を振る。

オルカはレイエス家の末っ子であり、その下に弟はいない。


レイエス家で教えを学ぶビーストテイマーの門下生達もいるにはいるが、彼らにこの戦いを引き継がせるのは気が引けた。



元はといえば一番上の兄が悪いのだ。

厄介な因縁を作り、他の兄弟を巻き込むなんて……と心の中で長兄に悪態をついている途中でオルカは思い出した。



「来年になったら旅を終えた兄が戻ってくるかもしれないよ」



ビーストテイマーの修行の旅は五年間と決まっている。


一番上の兄は四年前に旅立っているので残り後一年で修行を終えるのだ。


授業を終えれば王都の家に帰るはずなので、その途中でナルニカの街にもよるかもしれない。


帰りの時は特にナルニカに用事はないはずなので、来ないことも考えられる。


しかし、ナルニカは王都から一番近い大きな街である。旅に役立つ品物も豊富に売られているため、最後の補充に立ち寄る可能性は高いだろう。



「おお、そうか。そいつはいいことを聞いた」



嬉しそうに笑うダンクを見て、オルカはあることに気づく。

戦う前と後でダンクの態度がまるで違うのだ。


戦う前は雪辱を果たしたい怒れる戦士という感じだったが、戦いが終わった後では次の戦いを楽しみにしている陽気なおじさんのようにしか見えない。



楽しんでるな、とオルカは思った。

ダンクの言う因縁どうこうというのはもちろん事実なのだろうが、言葉で言うほどレイエス家を恨んでいるようには見えない。


妥当レイエス家を掲げて修練するうちにダンクは強くなっていくのが楽しくなった。


そして、二年に一回現れるレイエス家のビーストテイマーとの戦いはダンクにとってだんだんと楽しみへと変わっていったのだ。


戦う前は相手に闘志を出させるためにダンクも闘志を剥き出しにするが、戦いが終われば後はただの陽気で優しいおじさんである。


ダンクにとってレイエス家との戦いは「定期的にあるイベント」のようなものだった。


その様子を見てオルカは心に誓う。

「自分が帰る時は絶対にナルニカには寄らないようにしよう」と。



一年後にダンクが長兄と戦ったとして、そこで仮に勝ったとしても再びダンクが再戦を望むのは明白だった。二年後の次兄を待ち、四年後の自分のことも待っているだろうと容易に想像ができたのだ。



「おお、そうだ。決闘の勝者には褒賞を与えないとな」



ダンクは思い出したようにそういうと懐から一通の書状を取り出す。


あらかじめ賞品を用意しているところからダンクがこの戦いをどれだけ楽しみにしていたかが伺える。



「お前も冒険者登録が目的だろう。二年前の時は俺も大した力がなくて役に立てなかったが、今回は役に立てるぞ」



ダンクが取り出したのは推薦状だった。

封書の中にはオルカの力をダンクが保証する内容の文が書かれている。


ダンクは最初から自分が負けたらこれをオルカに渡すつもりだったのだ。


というのも、二年前。レイエス家の次兄と戦った時にその次兄が言ったのだ。



「早くこの街を出たいのに冒険者登録とやらが面倒くせぇ。あんたの力でなんとかならないか」


と。その時のダンクはそこそこ有名ではあったがまだ冒険者ギルドに顔が効くほどではなかった。


仕方なく次兄は自力で登録を済ませて街を出ていったのだが、その時からダンクは次にレイエス家の人間と戦った時はこれを賞品にしようと考えていたのだ。


今ではすっかり有名になり、冒険者ギルドからも一目置かれる存在である。


ダンクの推薦状があれば、オルカは楽に冒険者登録を終わらせられるだろう

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