第20話
冒険者ダンクはオルカに勝負を挑んだ。
正直なところオルカからすれば、兄達との因縁は自分には関係ないと言いたいところだった。
しかし、ダンクの剣幕と壮絶な執念に押されて断れなくなってしまったのだ。
ナルニカでは冒険者同士の決闘は珍しくない。普段から戦いを生業とする荒くれ者達は些細な意見のぶつかり合いで簡単に争うのである。
街中でいきなり決闘を始められては住民達も迷惑するため、街の中にいくつかの決闘場が設けられている。
オルカ達は近くの決闘場に移動した。
有名なダンクと最近名前が売れ始めたオルカが決闘するという噂は瞬く間に広まり、その様子を一目見ようと野次馬が集まる。
冒険者同士の決闘は今ではこの村の名物になっているのだった。
「よおし、始めるぞ。三の鐘が合図だ」
ダンクは斧を構え、そう言う。
オルカの側にはタオとカースが臨戦体制で待っていた。
突然始まった謎の決闘だったが、二匹は存外やる気のようだ。
野次馬の中からダンクに指名された住民が一人、決闘場に備えられた鐘を打ち鳴らす。
一つ、二つ、三つと高い鐘の音が鳴り、三つ目の音でダンクが斧を振り回して突っ込む。
巨大が振り回す二本の斧の迫力はすごい。
冒険者の街で有名になるというのは伊達ではない。
迫り来るダンクにタオは正面から受けて立った。
持ち前のスピードでダンクの斧を軽々とかわし、隙を見つけては爪と牙で攻撃を仕掛ける。
ダンクも攻撃するばかりではなく、タオの攻撃をうまく受け流している。
オルカの目には両者の力は拮抗しているように見えた。
「あれ、これ勝てるな」とオルカは思った。
タオとダンクの一対一の戦いはほぼ互角でどちらが勝ってもおかしくない。
しかし、ダンクの頭上にはカースがいて攻撃する隙を窺っているのだ。
ましてや、安全な位置で指示を出せるオルカもいる。
つまりこれは一対一の決闘ではなく、実質三対一のようなもの。
ダンクがどれだけの強者であっても勝ち目はなかった。
オルカの指示でカースはダンクの後ろから攻撃する。
一撃では大したダメージを与えられないが、攻撃しては空に戻り再び体勢を立て直してさらに攻撃というように一撃離脱を繰り返す。
斧しか武器のないダンクは空を飛ぶカースになす術がないようで、徐々に体力を削られていく。
そうすると正面から戦うタオにも余裕ができ、ダンクはさらにダメージを受けるのだった。
この二匹の厄介なところはその卓越した連携である。
オルカが生まれたその日からオルカの側にずっといた二匹だからこそできる技だったが、何よりも適宜出されるオルカの指示が卓越していた。
ダンクの視線や体制から隙を見つけ出し、うまい具合に指示を出してダンクを撹乱するのである。
その攻撃の前にダンクは太刀打ちできず、やがて力尽きて膝を折った。
「クソ……俺の負けだ……。なんで勝てねぇ」
決闘の勝敗がつき、野次馬は湧き上がる。
その中でダンクはとても悔しそうに拳を地面に打ち付けていた。
四年も待った上に三回目の挑戦にも敗れたダンクを見てオルカは少し不憫に思った。
そこで、この決闘がいかにダンクにとって不利なのかを説明することにした。
実質三対一になってるから勝ち目は薄いという話をされてダンクは目を丸くする。
「そうか……そうか?……でもビーストテイマーの力のうちだろ。やっぱり俺に力が足りねぇんだ。」
冒険者というのは力はあれどあまりものを考えない者が多い。
ダンクもオルカの話をしっかりと理解した様子ではなかった。
ビーストテイマーの力量は連れている聖獣の数とその強さで決まるのだからダンクの考え方もあながち間違いではないのだが、オルカはその前向きな様子にすっかり呆れてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます