第19話
それから数日が過ぎて、オルカはクラドルとフレアと共にチームでの依頼をいくつかこなしていった。
冒険者の街というのは他人の強さというのに敏感なもので、新たに現れたオルカというビーストテイマーはそこそこ強いという噂がナルニカの冒険者達の間で囁かれる。
強いと噂されるのは悪い気はしないし、それが相棒の評判になるのだから尚良い。
ただ、困ることと言えばオルカをチームに誘うものが増えたことくらいだった。
評判を聞きつけて是非ともうちのチームに来てくれ、というものがいるのだ。
オルカとしてはクラドル達とのチームに不満はなかったし、最初の印象こそアレだったがこのチームの居心地の良さも気に入っていた。
誘われるたびに断っているのだが、少し悪い気がしてきたところだった。
そんなある日のこと。朝早くから一つ依頼を片付けて昼過ぎには街に戻ったオルカは折角だからと街の中を探索してみることにした。
初めての王都以外の街だというのに依頼を受けることで手一杯でろくに見て回れていなかったのである。
最初についた村は見て回るには狭かったが、ナルニカの街は王都と比べても遜色ないくらいに広い。
特に、冒険者向けの武器や旅の道具などは王都よりも品揃えが良く、無駄遣いできない身であるオルカでも見ているだけで楽しかった。
冒険者の集まる無骨な街だからか、どの店も聖獣と一緒に入れるというのも魅力的だった。
王都の店では聖獣は店内に連れて行けないところが多く、初めてのタオとカースとの店巡りに少しハマりかけていた。
オルカが商品を見せてもタオもカースも「いらないだろ、それ」と呆れた顔をするだけなのだが、それでも一緒にいるのは楽しかった。
オルカが十分に楽しんだ頃だった。
街中で不意に呼び止められて、オルカは振り返った。
そこにはオルカの三倍くらいありそうな大男が立っていた。
オルカの知らない知らない顔である。
「よぉ、お前かいオルカっていうビーストテイマーは」
大男のその迫力にオルカは少したじろぐ。
今までも知らないものから声をかけられることはあった。
しかし、それはチームへの勧誘を受ける時だった。目の前にいる大男の剣幕はどう見てもオルカをチームに誘おうとしているようには見えない。
「俺はこの日を二年間待ったぜ。……お前らレイエス家に雪辱を果たすこの日をな!」
大男の名前はダンク・シューマーという。
二本の片手斧を扱う戦士で、この街でも評判の冒険者だった。
ことの始まりはおよそ四年前である。
まだ冒険者になりたてだったダンクは街で噂だったビーストテイマーに勝負を挑んだ。
それはほんの腕試しのつもりだったが、ダンクは出身地の村でも豪腕で知られる男。決して負けないだろうとたかを括っていた。
しかし、ビーストテイマーの男が使う大きな白い犬と黒い翼を持つ鷹に簡単に負けてしまう。
ダンクがあまりの悔しさに再戦を申し込むと、ビーストテイマーの男は困った顔でこう言った。
「うーん、僕もうこの街を出ないと……。あ、そうだ。二年後に僕の弟がこの街に来るよ。僕に負けた仮は弟に返してくれ」
そう言って男はあっという間に姿を消した。仕方なく、ダンクは二年間待った。
負けず嫌いのダンクは二年後の再戦に備えて自分を鍛え、そこそこ名の知れた冒険者になった。
そして二年後、街で噂になっていた犬と鳥を連れたビーストテイマーに勝負を挑んだ。
結果は敗北だった。悔しくて再戦を申し込むと男は言った。
「二年後に俺の弟が来るから続きはそいつとやってくれ」
そう言って男は姿を消した。仕方なくダンクはさらに二年間待った。
悔しさをバネに己を鍛え、街では名前を知らないほど有名な冒険者になった。
そして、最近街で噂になっているビーストテイマーのことを知ったのである。
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