第18話
燃え上がる火を囲みながらオルカは祈った。
火は聖獣の魂を天空にいる神の元まで届け、神はその魂を元に新たな聖獣を生み出すのだと言われている。
それが聖獣堕ちだったとしても、その魂は神のもとに行けば洗われる。
オルカは動物が苦手だが、それは決して憎いと言う感情ではない。
ただ怖いだけである。どんなに優しい獣だったとしても反射的に怯んでしまう。
それは前世のトラウマの呪いのせいでもあるのだが、死んでしまった獣を前にしては怖いという感情は湧かない。
クマを送り出したオルカの気持ちは紛れもない本心だった。
「ありがとう、クラトス」
魂を送る儀式が終わってからオルカはクラトスに礼を言った。
「付き合ってくれてありがとう」のありがとうである。
「いいって。俺はビーストテイマーには詳しくないけど、なりたてとはいえ仲間なんだから」
そう言って笑うクラトスの耳は真っ赤だった。面と向かって礼を言われたことなど今までなく、少し恥ずかしかったのだ。
オルカのクラトスに対する印象が「チャラそう」から「チャラいけどいい人」に変わった。
三人と二匹はナルニカの街に戻り、依頼の報酬を受け取った。
報酬はそれなりの金額だったが、三等分すると大したことはない。
少なくとも登録料を支払うためには後数回は依頼をこなさなければならない。
「オルカ、泊まる宿はあるのか?」
クラトスにそう聞かれてオルカは首を振った。村の宿でさえあんなに高かったのだ。冒険者になるまでは街の宿には泊まれないだろう。
仕方なく、街の外で野宿をするつもりだった。
そのことを言うとクラドルは
「そうだな、俺らも金はないし今日は三人で野宿にするか。な、フレア」
と言ってフレアの方を見る。フレアは顔を真っ赤にしていたが、小さく頷いた。
「おお、よかったなオルカ。フレアのやつ昨日二人の時に野宿しようって言った時は『あなたと野宿なんて逆に危ないからしません』とか言ってたんだぜ。お前信用されてるじゃん」
冗談めかしてそういうクラドルにフレアは顔をさらに赤くして
「なんで言うんですか!クラドルさんと二人じゃないなら安心かなって思っただけです!」
と怒った。その様子がなんだかおかしくて、オルカは思わず笑ってしまう。
三人で街の外に向かう途中で、オルカはすれ違った女性に目を奪われる。
歳はオルカよりも少し上くらい。白くて長い綺麗な髪の女性だった。
透き通るような白い肌の綺麗な女性だったが、オルカが目を奪われたのはそのためではない。
その女性の肩に聖獣の猫が乗っていたのだ。
「ビーストテイマーかな」
オルカはレイエス家の門下生以外でビーストテイマーを見るのは初めてだった。
そのため、気になって振り向いたのだ。
白い髪の女性は振り向くことなく人混みの中に消えていく。
たったそれだけだったのに、オルカはなぜか不思議な気持ちになった。
「おーい、オルカ。はやくしろよ」
クラドルに呼ばれてオルカは振り返る。
少しの先でグラドル達を待たせてしまっていた。
「ごめん」
急いで追いつくオルカだったがなんとなく気になってもう一度だけ女性の進んでいった方を見る。
今度は目があったような気がした。
しかし、気がしただけだ。人通りが多くて女性の姿は一切見えない。
それ以上待たせるわけにはいかないので、オルカはグラドル達と共に行ってしまった。
オルカの見ていた方向。行き交う人々を挟んで、白い髪の女性が立ち止まっている。
肩に乗せた猫な頭を撫でてクスッと笑う。
「ホワイトウルフにブラックホーク……レイエス家の子だね、ミーシャ」
女性は気持ちよさそうに目を瞑る猫にそう言うと再び人ごみの中に消えて行った。
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