第17話

タオとカースの活躍により、スカーフェイス_という名前のクマはすぐに見つかった。


というよりも、まるでオルカ達がやってくるのをわかっていたかのようにクマは待ち構えていたのだ。


赤い毛並みを逆立てて、フーフーっと威嚇するように息を吐いている。


それがただの獣ではないことはオルカにはわかっていた。


「聖獣堕ちだ……」


クマを見てオルカは呟く。

存在は知っていたが、その姿を見るのは初めてだった。


聖獣は本来、その名前の通り聖なる者として扱われる。獣とはいえ、人に味方する存在。神の使いとされることもある高貴な獣だ。


しかし、稀にその聖獣の立場から堕落する獣もいる。それが聖獣堕ちだった。


なんらかの理由で気高き魂を失い、人を憎み人を傷つけるようになった聖獣。


一度落ちた獣は二度と聖獣に戻ることはない。



「でけぇ……けどクマだろ」


クラドルが盾を構える。

大きな盾はクラドルの身の丈をすっぽりと隠す。


相当な重さがあるはずで、チャラついた見た目のクラドルのどこにそんな大盾を持ち上げる力があるのかとオルカは不思議だった。


クマがグラドルめがけて突撃してくる。

チームの盾役となるクラドルは魔法素材の粉を鎧に振りかけている。


その粉が放つ匂いがクマを刺激しているため、クマはまずクラドルを狙うのだ。



「おっしゃあ、こい」



クラドルが構えた大盾にクマが突っ込む。

体格でいえばクマはクラドルの二倍はある。


そのクマの攻撃を受け止めるのだからクラドルは相当な力持ちである。



「タオ、は側面からカースは頭上からだ」



オルカの指示でタオとカースが動き出す。

チームでの戦闘は初めてだったが、実際に戦うのはタオとカース。オルカは冷静だった。


このチームで言うオルカ達の役目とはつまるところ囮役のようなものであった。


盾役のクラドルにクマの攻撃が集中しすぎないように上手いこと攻撃を挟んでクマの気を散らすのである。


そしてそれはオルカの後ろで攻撃の呪文を唱えているフレアのための時間稼ぎにもなる。



タオはオルカの指示通りに側面からクマに牙を突き立てる。一撃離脱を繰り返し着実にクマにダメージを与えている。


カースも上手く立ち回っていた。

クマが腕を振り上げればその腕を、牙をつきだそうとすれば目を突くといった具合でクマの攻撃を邪魔している。



「粉の効果がそろそら切れそうだ。フレア、いけるか?」



クラドルの問いにフレアが了承の合図を出す。


タイミングを合わせ、フレアの魔法の巻き添えにならないようにクラドルが飛び退いた。


それを見てタオもカースも攻撃を止める。



クマの頭上から無数の大きな氷のツララが降り注ぐ。一つ一つが人間大くらいはありそうなツララが容赦なくクマを貫いていく。


その攻撃の前にクマは呆気なく力尽きて倒れ込んだ。



「うぇーい、初勝利」


倒れたクマを見てクラドルが右手を掲げる。その手にオルカとフレアも手を重ねた。



「しかし、すごいな。めちゃくちゃ楽だったぞ」



クラドルにそう褒められて、オルカは素直に喜んだ。戦闘においてオルカは何もしていない。ただ指示を出していただけで、だ戦ったのはタオとカースだ。


それでも、二体が褒められるのは自分のことのように嬉しかった。



「さて、討伐証明だな……牙でいいか」



クラドルはそういう時クマの牙を一本だけ抜き取った。ギルドで受けた依頼は成功した場合にその証明として倒した魔物の一部を持ち帰ることになっている。


魔物によっては他のところも高値で売れることがあり、その場合は丸ごと持ち帰るのだが今回倒したのはクマだったため、特に高値で売れる素材はない。



「ワフッ……」



タオが何やら言いたげにオルカの背中を鼻で突く。



「わかってる」


オルカは短くそういうと倒れたクマに近づいていった。


「クラドル、ここで火を焚いてもいいかな。この子を送ってあげたいんだ」


それはビーストテイマーによる聖獣堕ちの魂を浄化させる儀式だった。


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