第15話
オルカは冒険者の登録料を払うためにお金を稼ぐべく、冒険者ギルドの本部へと来ていた。
登録はしていないが、ビーストテイマーとしての腕にはそれなりの自信がある。
そこそこ難しい依頼をいくつかこなせば登録料くらいすぐに貯まるだろうという見積もりだ。
「むー……意外と個人への依頼というのはないものだな」
本部に置かれている大きな掲示板を前にして、オルカは唸り声を上げる。
掲示板には依頼内容が書き出された紙がいくつも張り出されていて、依頼を受けたいものはそこから紙を選んで受注する決まりだ。
しかし、掲示されている依頼の内容にはどれも「要複数人」とか「一人不可」とか書かれていてオルカ一人では受けられないものばかりなのである。
それもそのはず、ナルニカではチームで依頼を受けるのが普通だった。
依頼を失敗するリスクを減らすために冒険者通しでチームを組み、依頼に望むのだ。
一人で依頼を受注するのはよほど腕に覚えがあるやつか、単純に頭の悪いやつくらいだった。
掲示板の前で唸り続けるオルカの背後から男が一人近づき、声をかける。
「おい、兄ちゃん。依頼を探してるなら俺と組まねえかい?」
オルカが振り返ると、そこには金髪で長身の見るからにチャラそうな男が立っていた。
「よぉ。俺はクラドル、戦士だ。」
名乗るを男を前にしてオルカはスタスタとその場を離れようとした。
クラドルが胡散臭かったからである。
対してよく知りもしない人間をチームに誘うところもそうだが、そのチャラチャラした風貌が本能的に拒否してしまう。
「……て、ちょっと待て待て。あんたビーストテイマーだろ?珍しいなぁ。なぁ、おい奢るからよ。飯でも食いながら話そうぜ?」
「奢る」「飯」という言葉にオルカは釣られてしまう。
なにせ、この街についてからまだ何も食べていないのだ。
何か食べに行こうにも街の中では狩りなどできず、店で物を買うしかない。
村の宿屋で散々した手前、これ以上お金を使うのが忍びなかった。
クラドルに見事に釣られたオルカは後をついて行き、ギルドを出て向いのご飯屋さんに入る。
「ここうまいんだぜ?もうすぐ仲間も来るからよ。そしたら遠慮なくじゃんじゃん食べてくれ」
席についてそういうクラドルの言う通り、少し待つとクラドルの仲間らしき人物が店の中に入ってきた。
オルカとそう変わらない年齢の女の子だった。丸い眼鏡をかけていて、チャラついたグラドルとは違い大人しそうな印象を受ける。
「おーい、フレア!こっちだ」
店の中できょろきょろとしていたフレアをグラドルが呼び止める。
その声でクラドルの姿を見つけたフレアは小走りで走ってきた。
「もう、クラドルさん!私が来るまでお店に入れないでって言ったじゃないですか。……あれ、その子は?」
フレアは拗ねたようにクラドルに対して怒った後、ようやくオルカの姿に気づいたらしい。
キョトンとした顔で尋ねると、グッとオルカに顔を寄せる。
「私、近眼なんですよね……。知っている顔じゃなさそうですけど」
マジマジと顔を見るフレアを前にして、オルカは顔を真っ赤にする。
この世界に来て、同年代の女性と喋った経験はほとんどない。
それもこんなに間近に近づかれては照れてしまうのも無理がない。
「こら、失礼だろ。ていうか、何のための眼鏡だよ」
冗談混じりにグラドルがフレアの頭を叩き、フレアを座らせる。
「飯の前にまずは自己紹介だな。さっきも言ったが、俺はクラドル。長剣と盾を使って敵を抑える戦士だ。そっちは魔法使いのフレア。主に後衛で火力を出したり、回復をしたりする」
手際よく料理を注文しながらクラドルが話を進める。
オルカはなんとなく悪い人たちではなさそうだと思い始めていた。
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