冒険者の街
第14話
「はぁ……まさかこんなことになるなんて……」
オルカは道端で小さく嘆いた。
場所はナルニカというとても大きな街だった。
カンナたちに見送られて村を出た後、数日間また旅をしてオルカはこの街にやってきた。
特に予定のないオルカの旅だったが、このナルニカの街は唯一父親から「絶対に行くように」と言われていた街だ。
その理由はこの街のもう一つの呼び名に関係している。
「冒険者の街」というのが、人々からよばれるこの街の名前だった。
冒険者は、魔物と戦い報酬を得る者たちのことでビーストテイマーも広義では冒険者の仲間である。
いつ命を落とすかもわからない危険な仕事、その割には賃金も特別高いというわけでもないが何故かやたらに人気のある職業だ。
そして、このナルニカの街にはそんな荒くれ者達が多く集まっているのである。
その理由の一つが冒険者ギルドの本部があるということだった。
真の冒険者として認められるためには、このギルドで登録料を支払い、試験を受けて合格しなければならない。
そして、その試験が受けられるのはこの本部だけなのである。
王都には冒険者ギルドの支部があったが、支部では登録はできない。
支部でできるのは張り出されたその周辺の依頼を受けることだけだ。
つまり、本当に冒険者になりたいのなら皆このオルニカの街に来るしかないのである。しかし、この試験というはとても難しいことで有名だった。
今ナルニカの街にいる冒険者達も全員が試験を合格したわけではない。
実は、冒険者ギルドの依頼というのは冒険者として登録していなくても受けることができる。
ただし、その場合は死んでしまっても自己責任。失敗すれば報酬は支払われないし、下手をすれば賠償金を支払わなければいけない場合もある。
それでも厳しい試験をクリアするよりは簡単な依頼を受けている方が楽にお金を稼げるため、冒険者登録の試験を受けないことを選ぶ者も多いのだ。
冒険者に登録すれば、失敗しても報酬の二割は支払われるし、個別の依頼も入るようになる。
さらに、各地を回る上で大切な「身分証」を発行して貰えるようになる。「身分証」があれば、初めていく土地でも受け入れて貰いやすく危険な場所にも入ることが許される。
オルカがこの街に来た理由はこの「身分証」のためなのだ。五年間各地を歩き回るビーストテイマーの旅においてこの「身分証」はほぼ必須なのである。
だから試験を受けるためにオルカはこの街に来たのだが、早速つまづいた。
試験を受けるための登録料が足りないのである。
冒険者の街ナルニカはそれなりに栄えた街だった。さらに、冒険者になるための登録料というのは村の宿屋なんて目じゃないほどに高い。
オルカが王都を出た時に持たされた金額では到底足りない。
いや、正確にいえば出た時のままの金額をオルカが今持っていればギリギリ、というかピッタリ足りた。
むしろ、冒険者登録をするためにあのお金を持たせたのかとオルカは気づいたがもう遅い。
村の宿でオルカはそのお金を使ってしまったのである。
それも最初の一日だけでなく、欲に負けてその後もずっと。
一度も馬屋に泊まることなく宿屋に泊まり続けた結果、登録料の約半分程度の金額しか持ち合わせていなかった。
「ワフッ……」
タオが、「それ見たことか」と言わんばかりの顔でオルカに言う。
返す言葉もないオルカはその場に項垂れるしかない。
身から出た錆……なんとかして登録料を自分で稼がなければならない。
「……待てよ。ここは冒険者の街じゃないか!」
思いついたオルカは立ち上がる。
そう、ここは冒険者の街ナルニカ。
登録した者もそうでない者も依頼を達成してお金を稼ぐのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます