第13話
それから一日が経ち、嵐はすっかり過ぎ去って何もなかったかのように爽やかに晴れている。
気絶から目覚めたオルカはようやくこの村を旅立つ決意をした。
見送りには村の住人たちが総出で姿を現した。もちろんカンナの姿もある。
カンナを救った旅のビーストテイマーに皆感謝しているのだ。
「わしら、ビーストテイマーに助けられるのは二回目じゃ。」
畑のおじさんがオルカに握手を求めながら言う。一度目はカンナの両親が亡くなってすぐのことだった。
カンナの両親は盗みに怒る村人たちから逃げる途中、足を滑らせて崖から落ちてしまった。直接的にではないにしろ、子を守る親を追い詰めて死なせてしまい子供から親を奪ったことを悔いていた村人たちの前に男が現れたのだ。
ビーストテイマーを名乗る男は村人たちにこう言った。
「それならばその子を『村の子』としてみんなで育てればいい。空の上にいるその子の両親が安心できるよう精一杯愛を注いであげてほしい」
いきなり現れた男の言葉だったが、なぜか村人たちが納得するだけの説得力があった。
その日以来、カンナを村で育てることになり皆が言いつけ通りにカンナを愛したのである。
「四年前……か」
オルカは呟く。四年前といえばレイエス家の長男がビーストテイマーの旅に出た頃だ。
この村は王都からも近いところにあるし、もしかしたらそれは兄だったのかもしれないと思った。
「オルカ……」
カンナがオルカの服の裾を引っ張った。目には涙を溜めて、少し寂しそうだ。
それだけカンナがオルカのことを慕っていたのだろう。
オルカはカンナの頭を撫でる。
「オルカ、わたしね……この村から離れるためにビーストテイマーになりたかったの。村の人に迷惑かけたくなかったから」
カンナはずっと自分が厄介者なのだと思っていた。盗みを働いた親の娘である自分は村にいる資格なんてないし、ましてや優しくしてもらうなんておこがましい。
誰にも迷惑をかけることなく生きて行かなければと思っていたのだ。
しかし、今回の騒動でそうではないとわかった。
両親はただの盗賊ではなく、自分を捨てていったわけでもなかった。
それに、畑のおじさんを始め大雨の中探し続けてくれた村の人たちが本当に自分のことを心配していたのも知った。
「だから……もう少しこの村に住むの。それで今度は村の人達に楽させてあげたいの!だから……帰ってくる時も寄ってね……そしてその時は、今度こそ私もビーストテイマーになるから!」
カンナは最後にはとびきりの笑顔だった。
オルカはもう一度カンナの頭を撫でる。
オルカも寂しかったが、笑顔だった。
村を出たオルカは道の前に佇む一匹の白蛇を見つけた。
「よう、やっぱり来ないのか。……親だもんな」
オルカと心を通じ合わせた白蛇だったが、オルカの旅にはついていかないと決めていた。
大雨の中、カンナが何故あんな危険なことをしていたのか。
その理由が白蛇だった。
あの滝のある岩山には白蛇の卵があったのだ。強風に煽られ、卵が吹き飛ばされないようにカンナはあそこに登った。
そして、無事に卵を回収したが降りられなくなってしまったのである。
白蛇は母親だった。オルカについて行きたいという気持ちもあったのかもしれないが子供を手放していくことはできないというわけだ。
「じゃあ、村のみんなを頼む。僕は五年したら返ってくるから、その時にもう子供の手がかからなくなってたら一緒に行こう」
オルカは白蛇に手を伸ばす。
白蛇が舌をちょろっと出したのを見て、一瞬伸ばすのを躊躇したが、しっかりと白蛇の頭を撫でた。
白蛇はとても気持ちよさそうに目を閉じていた。
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