第12話

カンナがバランスを崩したのが下にいたオルカからはよく見えた。


腕を伸ばしたせいか、それとももう限界だったのか。


とにかく、伸ばしたウデはおじさんに届かず体制を崩したカンナはそのまま真っ逆さまに落ちる。



「カースッ!」


下で待っていてよかった、とオルカは思った。


何やら話している風だった上の二人の会話は雨と滝の音のせいでオルカには聞こえていなかったが、万が一に備えてその場を動かなかったのである。


オルカに呼ばれて、カースが飛び上がる。

風に煽られいつものような安定した飛行はできていない。


それでも一直線に、懸命に、落ちていくカンナめがけて飛んでいく。


「汝、我が力の源となりその力を見せよ」



オルカが呪文を唱え、カースが覚醒する。

一回り大きくなったカースはさらに鋭くなった飛行で颯爽とカンナの真下までたどり着き、したから掬い上げるようにカンナをキャッチした。


「よくやったカース」


オルカが喜びの声を上げたのも束の間。

その日一番の突風が吹き上げる。


風に煽られ、カースは大きくよろめいた。



「あっ……」


カンナが小さく悲鳴を上げて、カースの背中から投げ出される。


まずい、とオルカは思ったができることはない。


カースはよろめいたせいで一瞬落ちていくカンナを見失ってしまった。


カースとカンナの間に距離ができてしまう。

このままでは間に合わない……とオルカは思った。


その時だった。オルカのズボンの裾をクイっと引っ張るものがいた。


白蛇だ。普段のオルカならば大袈裟に驚いてしまっていただろうが、状況が状況だけに冷静だった。



「お前……」



ジッとオルカは白蛇を見つめる。

白蛇もまた、オルカのことを見つめていた。


ビーストテイマーの修練を受けたオルカはタオやカースのように心が通じ合った獣の言いたいことがわかるようになった。


そしてこの時、オルカは初めて二匹以外の獣と心を通じ合わせることができた。



白蛇は真っ直ぐにオルカに意思を主張している。



「私を使え」


と。考えている暇はそれ以上ない。


カースは落ちていくカンナを見つけて、すぐに急降下したがギリギリ間に合いそうにない。


この白蛇に何ができるのか、オルカにはわからなかったが何もしないよりはかけてみようと思ったのだ。



「汝、我が力の源となりその力を見せよ」



オルカが呪文を唱えると白蛇が光出す。

タオやカースが覚醒する時、その姿は一回りほど大きくなり持っている力が強化される。


だからオルカはずっと覚醒とはそういうものなのだと思っていた。


オルカは知らなかった。覚醒した聖獣の中には姿を大きく変化させる者がいることを。



白蛇は一回り大きくなるなんてものではなかった。


もっとずっと巨大に、オルカの身長を超えさらに何倍にもなる。


一瞬のうちに巨大な大蛇が出現した。


白蛇は大きくなった体でゆったりと首を伸ばす。


落ちてくるカンナを受け止めるつもりのようだった。


カンナは白蛇の頭に着地し、そのまま緩やかな傾斜となった白蛇の背中を滑り台のようにするすると降りていった。



「え……?」



無事に地面に着地したカンナは何が起こったのかわからないという顔だったが、すぐ泣き始めた。


恐怖から一瞬で解放されてホッとしたのだ。


その側には気絶したオルカの姿もある。


一日に三度も覚醒を行ったことはなく、三度目の覚醒で体力を使い切った……というのもあるが、何よりも巨大になった白蛇に驚いたのだ。


焦りで誤魔化されていたオルカの動物嫌いも大きくなった白蛇の前では無力だった。


限界を迎えて白蛇が覚醒してすぐに泡を吹いて倒れたのである。



カースが地面に降り立ち、タオも駆け寄る。白蛇は元の姿に戻った。


大雨の中で情けなく気絶する主人の姿を見て三匹は安堵したように笑った。

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