第9話

オルカが村に到着してからもうすでに何日も経った。


予定のない旅とはいえ、そろそろ旅立たないとこの村に居着いてしまうなとオルカは思い始めていた。


気がかりなのはなんといってもカンナのこと。


村の人間はカンナに優しく接しているようだが、カンナそれを受け入れられないでいる。


優しさに返すだけの何かが自分にはないと思っていて、そのせいで独りになろうとしている。


しかし、人間は一人では生きられない。

それくらいはオルカでも知っていた。



ビーストテイマーになりたいと言ったカンナの顔をオルカは思い出す。


今日は朝から大雨が降っていて、風も強い。いくらなんでもこんな日に旅立つわけにはいかないので、オルカはこの日一日を宿屋の中で過ごすことにしていた。



部屋の窓には雨が強く打ちつけていて、なんとなく考えことが捗る。そんな日だった。



ビーストテイマーになるのはそんなに難しくはない。


相棒になる聖獣が一匹いて、本人にその気があれば誰でもなれるのだ。


この村はオルカの故郷である王都からそう遠くないし、カンナがもう少し成長して一人で王都まで行けるようになったらレイエス家の門戸を叩けばいい。


今のうちにオルカが推薦状でも書いておけば何年後かには問題なくビーストテイマーになれるだろう。



しかし、どうも釈然としない。

確かにカンナは動物好きでオルカの見せたビーストテイマーの技にも感動していた。


しかし、「ビーストテイマーになりたい」というあの言葉が本人ではないような気がしてならなかったのである。


オルカが宿屋の二階で物思いにふけっていふと、大雨の中を走ってくる人影が窓の外に見えた。


続いて、宿屋の扉をどんどんと力強く叩く音がしてその後に下の階が騒がしくなる。



気になってオルカが降りていってみると、畑のおじさんが全身びしょ濡れで肩で息をしながら立っていた。



「どうしたんです?」



オルカが尋ねるとおじさんは血相を変えて言う。



「カ、カンナが……カンナがいなくなった」


開け放された宿屋の扉の外では雨が勢いを増し、嵐のようになっていた。



♢



「どうだタオ……においは?」



オルカが尋ねると、タオは申し訳なさそうにクゥーンと鳴いた。

大雨のせいでにおいが消えてしまい、カンナの足取りを追えないようだ。


風が強いせいでカースも満足に空を飛べず、捜索は難航している。


畑のおじさんの報告で村中の男たちが集まり、嵐の中だというのに全員でカンナを探している途中だった。


まだ日が暮れるのには早いのに、分厚い雲のせいで辺りは夜のように暗い。


松明を炊くこともできず、土地勘のないオルカはタオに頼るしかないのだがそれも難しい状況だった。



これがただの雨だったなら、村人もオルカもここまで慌てることはなかっただろう。


幼いとはいえカンナはしっかりとした子だ。雨の中でも自分の家に帰るくらいわけない。


しかし、雲行きはどんどん怪しくなり本格的な嵐になり始めている。


いくらしっかりしていても子供の体では吹き付ける強風に太刀打ちできない。


吹き飛ばされて木に叩きつけられでもしたら大怪我ではすまないだろう。



「おーい、いたか?」


「いやだめだ!遊んでいて川に落ちたのかも……もっと広範囲を探そう!」



村の大人達は自分の子供がいなくなったかのようにカンナのことを探している。


そんな状況ではないのだが、その姿を見てオルカはこの村が本当にいい村だと感じていた。



「タオ、#力__・__#を使おう。そうしたらきっと見つけられる!」



オルカはそう言って呪文を唱える。

三十秒だけの限定的な力だが、真の姿になったタオは速力だけでなく嗅覚も覚醒する。


大雨の中であっても見つけられると考えたのだ。

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