第8話

「オルカはどうして動物が苦手なの?」


昼食を食べながらカンナにそんな質問をされてオルカは少し困ってしまった。


白蛇の一件以来、カンナはオルカに心を許したようで日課の畑仕事の後、一緒に昼食を取るようになった。


その様子を見た村の人間たちから「カンナのためにももう少しこの村にいて欲しい」とお願いされて滞在期間が少しだけ伸びた頃のことだ。


カンナはタオと無邪気に遊んでいて、たまにカースが降りてきて三人で戯れあっている。


その様子を見ながら美味しいおにぎりをほうばっていた矢先に不意にそんなことを聞かれたのだった。



「どうして……って言われてもなぁ」


元凶は前世では幼い頃に犬に噛まれたからである。しかし、そんなことを言っても信じてもらえるだろうかとオルカは少し考えた。


「生まれた時からずっと獣に囲まれる環境だったから、怖くなっちゃったのかもね。昔はタオたちのことも怖かったし」



そう誤魔化しつつ、オルカはタオの頭を撫でた。気持ちよさそうに頭をくねらせるタオは今でこそ可愛いと思えるようになったが、ペットというよりは相棒という感じだ。


「そっか……かわいいのにねぇ……」



カンナはすっかりタオに夢中のようでことあるごとにタオの背中を撫でている。


タオも満更ではないようで、時にはカンナを背中に乗せて走り回ったりしている。



カンナが最初にオルカを見ていたのも、タオとカースに興味を惹かれたからだった。


オルカとは違い、カンナは動物好きだった。村で初めて見る大きな犬とかっこいい翼を持つ鳥。


二匹に興味を惹かれてじっと見ていたのだが、オルカが邪魔で声をかけられなかったのだ。



「カンナはどうして村の人が苦手なの?」



カンナが嫌いなものの話を始めたからか、オルカはうっかりそんなことを聞いてしまった。


口にした直後に踏み込みすぎたかな、焦ったが思いの外カンナは平気そうだった。ただ、少し悲しそうな顔になって



「嫌いじゃないよ……皆優しいし、良い人たちだもん。でも……よくしてもらってもわたしにはなにもできないから、後ろめたいだけ」



と言った。

カンナは年齢にしてみればオルカの半分くらいの歳だろう。しかし、随分と大人びているようにオルカには見えた。


それはカンナがこの村に捨てられていたことと関係しているのだろう。


生まれた時から両親も知らず、村の人間にも満足に頼ることができなかったカンナは無理矢理にでも大人になるしかなかったのだ。


極力村の人の手を借りないで生きるために、いろいろなことを学び今日まで生きてきたのだろう。


なんとなくそのことを察してしまったオルカは少し悲しい気持ちになった。


オルカは立ち上がり、カンナの手を取る。



「見ててカンナ、タオたちがもっとすごいってところを見せてあげる」



オルカがそう言うと、その意図を察したのかタオも立ち上がる。


カンナを元気付けようとするオルカの気持ちに答えてくれるようだ。



「汝、我が力の源となりその技を見せよ」



オルカがそう唱えると、タオが一声遠吠えする。四肢に青い炎のようなものが浮かび上がり、体格も一回り大きくなったようだ。



それは聖獣の真の姿だった。ビーストテイマーと心を通わせることで解き放たれたその姿はタオの持つ力を飛躍的に開花させる。


今のオルカでは継続できるのは三十秒といったところだったが、カンナに見せるには十分だった。


タオは背中にオルカとカンナを乗せて走り出す。普段のタオとは比べ物にならない速度で森の中を駆け巡り、あっという間に一周して戻ってきた。


カンナはその姿に思わず感動してしまったらしい。



「すごい、タオ!」



と言って大きなタオを撫で回す。そして、キラキラと輝く笑顔でオルカの方を振り返ると



「わたしもビーストテイマーになりたい!」



と言うのだった。

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