第6話

明くる日の朝。オルカは日が完全に昇った頃に目を覚ました。


寝ぼけた様子で顔を洗い、歯を磨いて宿屋を飛び出す。



「おはよう、タオ。良い朝だね。」


爽やかな笑顔にタオがあくびで返し、そこにカースがやってくる。カースのくちばしに何やら布切れが巻き付いているのにオルカは気がついた。



「カース、どこ行ってたの?なんだいそれ。」



オルカはカースから布切れを預かり、広げてみる。


すごくボロボロの布切れだった。赤い何かが付着している。



「これ、血かい?カース、どこでこれを拾ってきたのさ。案内して」



甘やかされて育ったとはいえ、それでもビーストテイマーの端くれである。

カースの持ってきた布切れから一大事を察したオルカはカースの案内の元走り出すのだった。



しかし、たどり着いた先でオルカが見たのはなんとも拍子抜けする光景だった。



「なんだい、手伝ってくれんのかい」



嬉しそうに笑う男性は大きな麦わらの帽子をかぶっていた。

手には手拭いを巻き、大きな鍬で土を掘り返している。


つまりは畑仕事だ。



「いやぁ、気合い入れすぎて手のマメを手ぶしちまってなぁ。そしたらその鳥が手拭い持っていっちまうもんだから困ってたら、まさか主人を手伝いによこすとはよぉ。賢いとりだべ」



畑作業をしていた男はカースのことを褒めると頭を撫でた。カースは気持ちよさそうにしている。


オルカはカースに騙されたのだと気づいたが、いまさら手伝わないと言える雰囲気でもない。


仕方なく男性から鍬を借り受けると、土に向かって突き刺した。



「ダメだぁそれじゃ。もっと腰入れて、ほれ」


畑の横にある唐木に腰掛けた男性から激が飛び、その度にオルカは鍬を振るう。



「たし……かに、ビースト……テイマーは……人の役に立つ……使命がある。でも……こういうのじゃ……ないだろ」



鍬を振り下ろす度にオルカの口から漏れるその泣き言は誰の耳にも届かない。


カースは上空を優雅に旋回しているし、タオは暇そうにあくびをして寝転んでいる。


オルカの奮戦は日が高く上る頃まで続いた。



「ほぉれ、飯だぁ」



いつの間にやら時刻は昼過ぎ、くたくたになったオルカに向けて男性が弁当の入った包みを掲げながら手を振っている。


体を動かしたからだろうか、男性の持ってきたおにぎりと茹でた卵、そしてお茶という質素な食事はオルカが今まで食べてきた豪勢な食事にも引けを取らないほどおいしく感じた。



おにぎりを口いっぱいにほうばっていたオルカは少し離れたところに生えた木の影から女の子がこちらを覗き込んでいるのに気がついた。



「ふぁふぉふぉふぁ?」



口に物を含みながらしゃべるというはしたない行為をしたオルカ。


男性は「あの子は?」というオルカの質問をなんとか聞き取れたらしい。



「ああ、ありゃカンナだ。ほれ、カンナ!こっちきてお前も食べぇ」



男性が声をかけるとカンナと呼ばれた少女は驚いたのか逃げていってしまう。



「ああ、ダメか。……あの子は村の外れに捨てられとった子でね。村の皆で育てとるんだが、どういうわけかわしらを怖がる。全然懐かないんじゃ」



そういって笑う男性の姿はオルカには少し寂しそうに見えた。


この時からオルカは何回もカンナの姿を目にするようになった。


それは、オルカが畑仕事をしている時だったり、宿屋に帰る途中だったりと様々な時だったが、大抵カンナがオルカのことをじっと見ているのだ。


オルカが気づいて、声をかけたり手を振ったりと反応を示すとあっという間に逃げていってしまう。



そんな些細な関係だったが、次第にオルカはカンナのことがとても気になるようなったのだった。

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